第80話:勇者による殺戮

 ラフィネは命令通り、籠城しようと撤退する連合軍に紛れて王都へと侵入を果たし、バレないようにと物陰に隠れてやり過ごす。


 少しずつ陽が傾き、茜色の空となった。

 防備が固められていき、門の内側にもそれなりに兵が居座っていた。


 静かに門を観察していると、兵の声がラフィネのすぐ側から聞こえてきた。


「俺達、この戦争に勝てるのか?」

「バカな事を言うんじゃねーよ」

「だってよ、勇者様だって死んじまったんだろ?」

「まだ死んだって決まったわけじゃない。生きててくれてるさ」

「だといいな」


 ガサッと何か物音がした。


「なんだ?」

「何か聞こえたな。この路地からか?」


 そうして聞こえた路地へと足を踏み入れる。

 路地を見渡すも誰も居ない。


「気のせいか」

「だな。ネズミでも居たんだろ。早く持ち場に戻ろうぜ?」


 一人がそう相方へと言うも、返事が返ってこない。


「お、おい。こういう時に変な真似は止せよ」


 そう言って振り返ると、そこにあったのは――すでに事切れた、相方の骸であった。


「――ッ!?」


 そしてその死体のすぐ横に誰かが立っているのが見えた。

 ゆっくりと視線を向けると、キラリと輝く剣。そこからは血が滴り落ちており、その者が犯人だと気が付く。


「誰だ!」


 ゆっくりとその者は歩き、正体を現す。

 その正体を見た兵は信じられないとでも言いたげに、目を見開いた。


「勇者、様……?」


 手に持っている血塗られた剣は誰がどう見ても聖剣であり、その顔は民を、兵士を守って戦ってきた勇者ラフィネであった。


「ど、どうしてこんなことを――」


 兵士には何かが光ったように見えた。

 次の瞬間には、兵士の首がゆっくりと地面へと落ち、胴体からは血飛沫を上げドサリと地面へと崩れ落ちたのだった。


 死体へと向けるラフィネの目からは感情が一切読み取れない。


 そこからも声を聞いて路地裏へと来た者達の首と胴が、声を上げる前に次々と飛んでいく。


 気が付けば陽は落ち、夜となっていた。


 ラフィネはレイドの命に従うべく動く。

 ――門を開くために。


 静まった夜。ラフィネは出来るだけバレないように門へと近づく。


 あと少しと言うところで声がかけられる。


「そこのお前、止まれ。ここから先は立ち入り禁――勇者、様?」


 白い鎧は血に塗れ、聖剣にはべっとりと付着する血液。


「ぶ、無事だっ――ごふっ、な、何をされ、て……」


 警備の兵は最後まで言うことなく、ありえないとでも言いたげな表情で倒れた。


 そのまま兵を殺していき、門の鍵を開けようとしたとき、異変に気が付いた兵達が慌てて止めようと駆け寄ってくる。


「誰だ! 勝手に門を開けているのは!」

「わ、わかりません!」

「今すぐに止めるのだ!」

「「「了解です!」」」


 慌てて止めようと駆け寄ると、そこにいた人物へと視線が向けられた。


 真っ赤な軽鎧に真っ赤な剣。

 だが、その人物に身に覚えがあった。そう。その人物は――


「……勇者、様?」

「生きていたのですか!?」

「ですが何故門を開け放とうと……」


 勇者ということに多くの視線を集めてしまう。

 門に掛けていた手を止めて、振り返り剣を一閃。


 その一閃で二人の兵の首が宙を舞う。


「……え? 勇者、様?」


 困惑する兵達。だが、関係なしとばかりにラフィネは兵達を殺していく。


「陛下に、だれか陛下に伝えよ! 勇者ラフィネが敵に回ったと!」

「りょ、了解です!」


 数人の兵が報告に行こうとこの場を去って行くが、斬撃が飛び、報告へと向かった三人のうち、二人の胴が切断される。

 だが一人が逃げてしまった。


「勇者様を止めるのだ!」

「「「応っ!」」」


 部隊長だろう人物が鼓舞する。


 それから数分後。

 門前の広場には屍の山が出来上がっていた。


 そのままラフィネは何もなかったかのように、門へと両手をかけて開け放つのであった。



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