第79話:開戦Ⅲ

 レイドはラフィネの下にやってきていた。


「そろそろ出番だぞ?」

「くっ、殺せ!」


 そう告げるラフィネであるが、レイドは仮面越しに笑みを浮かべる。


「死んで楽になるつもりか? そうはさせないがな」

「違う! こんな所で魔族に使われるなら、いっそここで死んだ方がマシだ!」


 ラフィネの言葉を無視し、そのまま腕を掴み立ち上がらせる。

 そして取り付けられている首輪は、主人の意向には逆らえない仕組み取っている。

 そのため、命令には逆らえない。逆らうと苦痛が伴うからである。


「命令だ。人間共にバレずに壁門を開錠しろ。バレた場合は殺せ」

「そんな事出来るわけが――ア゛ァァァァァァァッ!?」


 苦痛の悲鳴を上げるラフィネ。

 しばらくして苦痛が治まり、荒い呼吸をするラフィネはレイドを睨む。


 恨むように睨むラフィネに、レイドは収納魔法から取り出した聖剣を、目の前に投げた。


 何故レイドが聖剣を持っているのか。それは聖剣が容易に壊れなかったからである。

 収納魔法にてレイドが保管していたのだ。


 聖剣を一瞬見てからすぐにレイドに視線を戻して口を開く。


「……何の真似?」

「敵を殺す武器が必要だろう?」


 そう告げて先に行こうとするレイド。


「――この外道! やっぱりあなたは勇者じゃないし、人間でもない!」


 足を止め、仮面を少しだけ外し口元と片目だけをラフィネへと向け、口を開いた。

 レイドのラフィネに向ける目はとても冷めていた。


「結構なことだな。それに最初に裏切ったのは王国達人間側だ。こんなことをする俺を人間じゃないと言うのなら、俺をこうさせたお前達が悪い」


 レイドは仮面を付け直し、その場を去って行った。


 聖剣を持ち、去って行くレイドへと向けるも、再び苦痛が体を襲った。


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 再び立ち止まり苦痛の声を漏らすラフィネに告げる。


「無駄な事をするな。付いて来い」


 命令によって痛みの中立ち上がり、レイドへと付いて行く。


「魔族と俺に武器を向けることを禁じる」


 命令の力によって武器を下げると、苦痛が和らいだ。

 そのままレイドへと恨みの視線を向けながら付いて行った。


 フランとミレーティアの元へと戻ると、レイドの後ろを付いて来るラフィネへと視線を向ける。


「ようやく連れてきたか」

「お兄さん、遅い……」


 退屈そうにこちらを見る二人。


「物凄く恨んでいるようじゃな?」

「お顔がすごいよ?」


 ラフィネを見ながらそういう二人。ラフィネは命令で『喋るな』と言ってあるために口を開くことが出来ない。


「そうだな。いっそのこと感情を奪えればいいが……」


 そこで何かを思い出したレイドは、収納魔法からとある道具を取り出した。


 レイドが取り出したそれは腕輪。


「なんだそれは?」


 フランが問うて来た。


「アルミラースが住んでいる宝物から貰ってきた物だ。名前を『隷従の腕輪』。奴隷の首輪と違い感情を奪い、ただ言われた命令に従うようにさせる魔道具の一種だ。これを勇者に取り付ける」

「なるほどな。それがあれば、あのような目を向ける事が無いし、忠実だと」

「そう言うことだ」


 嫌がるラフィネに無理やり付けさせた途端、ラフィネの目から感情が抜け、瞳の色が失われた。


 それから戦闘が始まった。

 少しして不利と判断したのか、連合軍が籠城しようと後退を始めた。

 そこにレイドがラフィネへと命令する。


「命令だ勇者。今から紛れ込み夜に門を開けろ。バレたら構わず殺せ。以上だ。行け」

「……はい。仰せのままに」


 レイドの命令によって、抑揚のない声色でそう答え、向かうのだった。




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