第69話:勇者は捨て駒にしよう!

 拷問部屋へと連れて来られたラフィネ。

 対面にはレイドが、ラフィネの方を見つめていた。


「三人にあそこまでするなんて! それでも仲間なの!!」


 ラフィネは仲間があそこまで酷く拷問されたことに怒っていた。

 そんなラフィネを前に、レイドは溜息を吐いてから答えた。


「元仲間だ。それに今は敵同士だ」

「慈悲はないの!」

「慈悲? 俺に慈悲を求めるな。そもそも先に裏切ったのはアイツらだ」

「裏切った? 何を言っているの……?」


 やはりラフィネは何も知らないようだった。


「俺は奴等と親しかった者達によって嵌められ死にかけた」

「それだけであそこまで」

「それだけ? お前、信じていた仲間に裏切られ、売られた気持ちが分かるか?」

「売られた? 何を言って――」

「分からないだろうな。今のお前は、昔の何も知らない俺にそっくりだ」


 レイドに「そっくり」と言われたラフィネが声を荒げる。


「何がそっくりよ! それはあなたが聖剣を使わなかったらでしょ!」

「確かにそれもあった。だけどな、聖剣は抜けはしたが、俺に応えてくれなかった。力を1%も引き出せなかった。俺にとってはただ頑丈な剣で、敵に奪われ破壊されるよりも、使わない道を選んだ。それだけだ」

「で、でも! それでも使っていたら何か変わったんじゃ……!」


 ラフィネの言う通り。聖剣を使い続けていたら何かが変わったのかもしれない。

 だが、俺は使わないという選択肢を選んだだけだ。

 碌に聖剣の力を引き出せない俺が使うよりも、引き出すことができるラフィネの様な者が扱った方が武器の為でもあった。


「何も変わらない、とは言い切れないだろう。だが裏切られ国に売られた。それが現実だ」

「……っ!」


 レイドは尋ねる。


「魔王軍に寝返るつもりはあるか?」

「無いわ! 殺しなさい!」


 ラフィネはレイドの提案を否定した。

 その瞳から感じる意志は強固なものであった。


「どうしても、か?」

「ええ」

「仲間の命が助かるとしてもか?」

「――ッ!? この外道っ!」


 外道。確かにこの提案はそう言われても仕方がないだろう。


「さあ、どうする?」

「……エリス達は解放してくれるの?」

「勿論だ。ここでは殺さないと約束しよう」


 ここでは殺さない。つまりはそれ以外では殺すということであった。


「……本当ね?」


 ラフィネはその意味を理解していないようだった。

 そもそもレイドは国王達である国の重鎮と軍の上層部を確実に殺す予定だ。

 それに変更などありはしない。


 ラフィネはレイドの提案に悩む。


「一つ聞かせて。私をどうする気?」

「奴隷の首輪を付け人間軍と戦わせる。勇者が敵に寝返ったと知れば、奴らはさらに絶望するだろうからな」


 薄い笑みを浮かべながらそう告げると、ラフィネがキッとレイドを睨み。


「この外道!! あんたなんて人間じゃない!」

「魔族を、フランを勝たせるためだったら何でもする。それが今の俺だ」


 今にも襲い掛かりそうな目で、力一杯暴れるが、手と足に付けられた枷は魔力を吸い取り、枷自身を強化するモノだ。

 そう簡単に壊せるわけがなかった。


「王国が、人間が腐っていると知っても、まだ守る気でいるのか?」

「当たり前よ。それが――勇者だもの!」

「……そうか。お前には少しばかり期待していたのだがな」


 そう言ってレイドは、ラフィネに何もすることなく拷問部屋を後にするのだった。



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