第53話:元勇者、お空で

 ――暗黒山脈を出発してすぐ。


「うおっ!」

「……飛ばされる!」


 レイドとリリスはそんな声を漏らした。

 一瞬で加速したので、受ける風は大きく油断すれば飛ばされそうな程である。


 ミレーティアは大丈夫なのかと思い確認すると、自身の周りに風を作り受け流していた。


 そんな手があったのかと思うも、レイドは魔法が苦手なのだ。

 リリスに尋ねる。


「リリス、魔法で風を受け流せるか?」


 その問いにリリスは首を横に振った。


「でき、ない……風の魔法は苦手」

「わかった」


 レイドはミレーティアにお願いをした。


「ミレーティア、すまないがこっちにもお願いできるか?」

「レイドお兄さんとリリスお姉さんは出来ないの?」


 コテンと首を傾げ聞いてくるミレーティアに、レイドとリリスは首を横に振った。


「出来ない。魔法は全般に苦手なんだ」

「わかった。少し待ってて」


 少しして体を叩きつける風が無くなり、心地よい風に変わった。


「ミレーティアありがとう」

「ありがとう」

「気にしないで。二人の役に立てて嬉しいから」


 そう言って笑みを浮かべるミレーティア。


 こんなやり取りがあった間にもすでに暗黒山脈を超えていた。


「もうここまで来たのか。速いな」

「確かに速い」


 しばらくしてリリスがミレーティアに尋ねた。


「魔力は大丈夫? ずっと使っているみたいだけど」


 リリスの質問にミレーティアは首を横に振った。


「魔力は全然あるよ」

「無理はしないで」

「うん」


 それから数時間後。

 約二週間の道のりは気が付けば半分を過ぎていた。


『目的地まであと少しで到着す――む?』

「どうかしたか?」


 言葉の途中でアルミラースが何かに反応した。


『何か前方の平原の方で無数の反応がある。それも数万ものな』

「反応?」

『ああ。しばらくすれば見えてくるはずだ』

「わかった」

『少し飛ばそう』

「確かる」


 アルミラースは加速した。


「レイド、なにかあったの?」

「ああ、数万もの反応があったらしい」

「魔王城の方面?」

「恐らくは。だが妙だ」

「妙?」


 不思議そうにするリリス。

 ミレーティアには分からないのか首を傾げている。


「魔王城なら城下町だってるから普通では?」

「いや、それが平原だそうだ」

「もしかして……」


 何かを察したのか、リリスはハッとした表情をする。


「ああ、人間の軍が攻めてきた可能性が高いな」

「急がないと!」

「そうだな」


 しばらくして。


『見えたぞ。どうやら魔族と人族が戦争をしているようだ』

「本当?」

『ああ、前方を見てみろ』


 遥か上空で滞空するアルミラースがそう言う。


 身を乗り出したリリスとレイドが前方を見ると、そこには争う魔族と人間の姿があった。

 そして一ヵ所だけ間が空いているのが確認できた。


 そこにはバルザークと勇者の姿があった。

 瞬間、バルザークがラフィネを吹き飛ばし他の三名に致命傷を与えた。


「勝ったな」


 レイドがそう呟いた瞬間だった。

 ラフィネから光の魔力が噴き上がり天を衝いた。


「まさかこの状況で限界突破をしたのか」


 素で驚くレイド。

 こうなってしまえばバルザークが不利と言えた。


 ラフィネが動きバルザークに致命傷が負わされ、とどめを刺そうとラフィネが聖剣を振り上げていた。


「これは不味いな。俺は先に行く。リリスも後から来い」

「わかった。バルザークを助けて」

「ああ。アルミラース、あとは頼んだ」

『任せろ』


 そう言ってレイドは仮面を付けアルミラースの背から飛び降りたのだった。

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