第37話:限界のその先へ

 先ほど以上に膨れ上がった魔力。

 

 そう。アルミラースは――限界突破をしたのである。


 限界突破状態のレイドですら戦ってギリギリの戦闘である。

 しかも相手は最も神に近しいと言われるドラゴン。


 人間とドラゴンのからではそもそもの体の創りが違い、限界突破の時間も異なるのである。その点を考えるとこの状況はレイドに不利であった。


 恐らくアルミラースの限界突破の制限時間は30分と考えてもレイドは残り3分程度。

 この間に決着を付けろと言われても流石の例でも不可能であった。


 レイドとアルミラースの実力差は現在はアルミラースの方が上であるのだ。


 アルミラースがレイドへと告げた。


『我が本気を出すことになるとはな。見事だ褒美をくれてやる』


 ――閃光が煌めいた。


 ものの数秒で収束し放たれる漆黒のブレス。

 それは限界突破を行ったことによる限界を超えた本当の意味で死のブレス。

 まともに喰らってしまえばタダで済むはずがない。


 瞬間、レイドの視界が漆黒のブレスで染まる。


「レイ――――」


 リリスの声は途中でブレスの音で掻き消されてしまった。


 ブレスが着弾し轟ッという爆音が山脈全体に響き大地を、大気を揺らす。


 地面は融解するどころか、着弾した場所をごっそりと抉り深く貫いた。

 未だに放たれ続ける死のブレス。


 リリスがもうダメだと思い、死んだと思い膝を突いた。

 ブレスが止みその場所はごっそりと地面が消失していた。


「レイド……お願い……」


 まるで祈るかのように、生きていることを願うかのようにブレスによって空いた穴へと言葉を投げかけた。


『魔族の娘よ。奴は生きてはおらぬ。このまま帰るがよい』

「違うっ! レイドは生きてる! 絶対に! 絶対、に……」


 そして目から一筋の涙が零れ落ち地面を濡らす。

 それはこの旅で培った想いから来るものなのか。あるいは――恋、恋愛的な意味からくるものなのか。

 この時のリリスにはまだ分からなかった。


 時間が経つにつれてリリスの表情が暗く絶望へと染まっていく。


 だがそんなリリスの願いが届いたのか、ブレスで抉られた穴から轟ッと真紅の魔力が螺旋を描き天を衝いた。


 今まで以上の、今のアルミラースをすら上回る圧倒的な魔力と気配が、そこから発せられていた。


 その光景を見たリリスは一気に表情を明るくさせた。


「――ッ! レイド!」

『なにっ!? 生きているだと!? あり得ない! 我の本気の一撃を受けたのだぞ! 人間如きが生きていられるはずがない! 何が起こっているのだ!』


 まるで信じられないとばかりにそう叫ぶアルミラース。

 そんな中、穴から物凄い速度で真紅の光が突き抜け降り立った。


「危うく死ぬところだった」


 真紅のスパークを放ちながらそう告げたレイドの姿はボロボロであった。

 だがその瞳は死んではいない。寧ろ好戦的なまでにギラギラとしていた。


『なぜ生きていられた!』

「何故って? それは――限界を超えたからだ」

『限界を、超えただと……?』

「ああ、限界の中の限界。極限状態になったのさ」


 そう。レイドはあの一瞬で自らの限界突破をさらに超え、極限突破へと至ったのであっる。

 すでにアルミラースをも上回る圧倒的なまでの魔力と気配に、冷や汗を流すアルミラース。


「――さあ、これが本当に最後の戦闘だ。最強、覚悟は出来ているな?」


 元勇者は好戦的な笑みを浮かべながらそう告げるのであった。





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