第36話:覚醒アルミラース

『な、生きている、だと……?』


 アルミラースが率直に思った感想であった。


「レイド!」

「悪い。心配させたな」

「ううん。何となくわかった」

「そうか」


 レイドはリリスへを見て苦笑いを浮かべた。

 そんな中、アルミラースが問うてきた。


『どうやって我の本気のブレスを凌いだ?』

「教えて欲しいか?」

『聞けるものならな』

「教えてやる。それは――限界を超えたからだ」

『……は?』


 意味が分からないといった具合だ。


「人はやろうと思えば限界を超えられるんだな。アルミラース、お前の放ったブレスを前にして初めて知ったよ。ありがとう。感謝しよう」

『バカな……』


 普通は死を前にして限界を超えられるわけがない。そう思っての発言であった。


 この限界突破の状況もそう長くは持たない。

 レイドの今の体力的にもこの状態でいられるのは精々10分が限度であった。

 つまりはそれまでに決着を付けなければならないということだ。


「さあ、最後の戦いといこうか」

『ほざけ! 死にぞこないが!』


 ノータイムで放たれるブレス。

 レイドは迫りくるブレスを薙ぎ払うかのように拳で叩きつけて弾き、ブレスは明後日の方向で着弾し爆炎を広げた。


 足に力を込めてアルミラースの方へと跳躍すれば、地面に小さなクレーターを形成し音速のような速度で迫った。


 アルミラースは迫るレイドを落とそうと、周囲に幾つもの魔法陣を展開し魔法攻撃の雨を降らせる。


 だがそんな攻撃に負けるほど、今のレイドは弱くはない。

 放たれる魔法攻撃の悉くを薙ぎ払い、空気を足場に一瞬でアルミラースへと接近する。


『くっ! 落ちろ!』


 尻尾で薙ぎ払おうとするが、レイドはその尻尾を掴んだ。


「ぐっ、お前が落ちろ!」


 多少なりともダメージは受けたもの、そのままアルミラースを地面へと投げ飛ばした。

 限界突破状態でなければレイドは大きなダメージを喰らい吹き飛ばされていただろう。


『ぐぉぉぉぉぉおっ!?』


 アルミラースは無様にも地面へと墜落し大きなクレーターを形成した。

 だがその程度の攻撃で倒れるほど軟な存在ではない。

 なんせ龍王だ。


 強固な肉体にはダメージは少ないだろう。


『おのれ!!』


 空にブレスを放つがそこにレイドの姿は無い。


『一体どこに――』


 周囲の気配を探ろうとして自分の懐、正しくは下から声が聞こえた。


「ここだ」


 アルミラースはその鋭い鉤爪を振り下ろそうとするが、すでに攻撃態勢に入っていたレイドの方が断然早かった。


「――吹き飛べ」

『ちょっとま――ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅうっ!?』


 膨大な魔力と気を纏わせて放たれた一撃は、アルミラースの腹部にクリティカルヒットし物凄い速度で吹き飛んだ。

 想像以上の威力に、態勢を整える合間の無く離れた山を一つ崩壊させ地面を転がった。


 そしてアルミラースが立ち上がった時にはレイドはすでに目の前へと迫っていた。


 すぐに魔法障壁を何枚も展開するが、その悉くが紙切れの如く突破され今度はアッパーによって上空へと打ち上げられた。


 そこからはレイドによる一方的な猛攻の嵐であった。


 数分が経過した頃にはアルミラースの姿はボロボロとなり至る所から血が流れ出ていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 荒い呼吸をしつつも倒れているアルミラースを警戒する。


『まだ、まだだっ! 我は煉獄龍王アルミラースであるぞ!』


 瞬間、アルミラースから膨大なまでの漆黒の魔力が噴き上がったのであった。





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