第28話:霧の魔物Ⅱ

 防戦一方のこの状況。

 レイドとリリスの二人は打開策を考える。

 この状況も長くはもたないと分かっているからなのか敵の攻撃がより一層増す。


「レイド、私ではそろそろ耐えられない」

「わかった。合図をしたら屈め。このまま一気に逃げる」

「任せる」


 敵の一瞬の攻撃の隙を突いてレイドは合図する。


「屈めっ!」


 リリスは合図を聞き一瞬で屈み、レイドは大剣に魔力を流して薙ぎ払った。すると斬撃が生み出されそれは円周状に広がり敵を斬り捨てた。


「我は幻で幻想、いかなる攻撃も無駄なり。この霧を汝は突破できない」


 声が聞こえてきたがレイドとリリスは構うことなく前へと逃げ霧を向けだした。

 抜けた先は――


「ここは……」

「戻ってきた?」


 リリスの言葉の通り、レイドとリリスは最初に地点へと戻ってきていたのだった。

 それに空は陽が傾いていた。


「霧の中は時間感覚がなくなるのか? それとも奴の魔法にかかったのか」

「霧の中で時間感覚がなくなるというのは聞いていない。恐らくは奴の魔法」

「そうか。厄介な魔物だ」


 そんなことを言っていてもあの霧を突破するには奴を倒さなくてはならない。

 だが倒し方はいまだに不明のままだ。


 そんな中ふとレイドは思った。


 フランはどうやってあの霧を突破したのだろうかと。


「リリス、フランはどうやってあの霧を突破したと思う?」

「わからない。魔王様のことだから魔法のゴリ押しだと思う」

「ゴリ押しか。なるほどな……」


 襲ってくる飛行型の魔物を倒しながら考え――思い付いた。

 だがこれが出来るのはレイドではない。リリス頼りになってしまう。


「リリス。一ついいか?」

「なに?」

「飛行型の魔物はいるか?」

「……なるほど」


 レイドの言葉を瞬時に理解したリリス。

 恐らくフランは飛んで霧を抜けたと思われる。


「どうだ、いるか?」

「いる」

「なら頼んだ。その前にもし戦うことになった時の対処を考えないとな」

「ん」


 そうして二人は思考を巡らせ考える。


 最後の別れ際に言ったあの言葉。『我は幻で幻想、いかなる攻撃も無駄なり。この霧を汝は突破できない』と言っていた。

『幻』、つまりは実体を持たない魔物ということだ。


「実体を持たない敵に対して何か有効手段とかあると思うか?」

「光系統の魔法攻撃とかなら」

「そうか。少し考えてみるか。まだ時間はあるが今日はここまでにして明日にしよう」

「それがいい。魔力も消耗していて万全ではないまま挑むのは止めた方がいい」

「だな」


 二人は野営場所を探し食事を済ませてから再び話し合う。

 レイドの予想では奴本体は一つだと考えている。


 ただ飛んで霧を抜けていければそれでいいとさえ思っている。

 光系ならレイドでも多少は使える。それも微々たるものであるが……


「レイド」


 考えているとリリスが名前を呼んだ。


「どうしたリリス?」

「ふと思った。どうして戦いの中、レイドは聖剣を使わなかった? 元はとはいえ勇者。持ち去ることも出来た。それになんで魔族側に付いた?」

「なんだそんな事か。まあ今日はここまでだし話すとしよう」

「ん」


 レイドは聖剣を使わなかった理由を語りだした。


 レイドが聖剣を頑なに使わなかったのには訳があった。

 それはレイドが光系統の魔法適性が乏しく、尚且つ聖剣の性能を十分に引き出せないから使うのを頑なに断り聖剣以外の剣や拳で戦っていたのだ。


 性能を十分に引き出せない聖剣で魔王を討つなど論外であった。

 聖剣を抜けたのはただ単に勇者の適性があったからに過ぎない。


 もしレイド以外に抜ける者がいたのなら、その者に聖剣を託したいと思っていたからである。


 聖剣以外にも魔王を倒せるはず。そう想い聖剣を次の勇者に託し戦ってきた。


 それを大臣達に伝えても言い訳だといわれ、人類の為に命がけで戦ってきたレイドを地下牢に閉じ込め拷問し情けをかけられて追放された。

 賞金を懸けたのは単にあとから殺した方がいいと思ったからであろう。


 聖剣を使えと言われ断り続けたのだ。自業自得といえばそれで済むのかもしれない。


「ただ、初めて聖剣を目にして抜いた時に思った」

「なにを?」

「聖剣は俺を呼んではいない、とな」

「だけどなんで魔族側に付いた?」


 不思議そうにするリリスに簡単に答えた。


「命がけでみんなを守る為に最前線で戦った。勇者ではないといわれて最前線に放り込まれるのならそれでも良かった。みんなの為に戦えるからな。だけど奴らは俺を必要としなかった。守ってきた恩を仇で返されたんだ。しかもあとから在りもしない罪を俺に着せ賞金を懸けて殺そうともしていた。そんな奴らの為に戦うのなら、魔族側に付いた方がマシだ」


 レイドは最後にこう告げた。


「人間という生き物は俺を含めてみんな醜い生き物だ。魔族の方がよほど『人』らしい。もっと早く魔族の素晴らしさに気が付いていればと常々思ったさ。なんで俺は人間の為に戦っていたのだろうかとな」

「……そう」

「無駄な話をしたな。まあ要するにだ。俺は今の人間が大嫌いということだ。聖剣を持ち去ら無かった理由も、俺よりも適性がある者に使ってほしかったということだ。この状況も俺が聖剣を使えていたら変わっていたかもしれないがな。すまない」

「謝ることは無い。さっきの話を聞いて私はレイドを信じることが出来た」

「ありがとう」

「それにレイドは魔王様よりも強い。こんな状況もすぐに抜け出せる」

「そうだな」


 そうして二人は作戦と対策を練りその日は終わるのであった。





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