第20話:リリスにはまだ早いようである
勇者達が退出した玉座の間。
国王、カルロア・ゼン・ライネールは玉座にて頭を抱えていた。
「どうされたのですか?」
そんな国王に、一人の大臣が尋ねた。
その問いに国王はそんな筈はないと思いながらも口を開き答えた。
「いや、なに……もしやと思ってな」
「……まさか!?」
国王の言葉で一人の大臣が反応した。
それは国王と同じであった。
「そのまさかだ。ノワールと名乗るその仮面の男は――レイドの可能性がある」
「で、ですがその……」
「最後の奴の目を忘れたか?」
「いえ。ですがあの傷です。王都から出て行ったという報告を聞いてはおりません。唯一の情報は宿に不信な人物が七泊泊まり、夕刻に出て行ったということのみです」
「奴の回復速度と力は異常だ。可能性も考慮しなくていけない。だが……」
エリスに聞いたとき、その仮面の男はレイドではないと言っていた。
声や喋り方も違っていたと。戦い方も以前とは異なり剣を使っていたいう。
「まあそんなわけがない、か。魔族は人類の敵なのだから……」
こうして一同は解散した。
◇ ◇ ◇
レイドは現在、魔王城の一室におり、その部屋はレイドの部屋となっていた。
「茶を貰えるか?」
「畏まりました」
近くにいたメイドへとそう告げ、茶を淹れてもらう。
レイドはこれからの事を考えていた。
こまま戦うことが増えればいずれバレることにもなってしまう可能性がある。
そのため、聖剣と打ち合えるほどの武器を用意しなければならなかった。
「どうぞ」
茶を淹れてくれたメイドへとレイドは尋ねてみた。
「聞いても良いか?」
「なんでしょうか?」
「聖剣と打ち合える、あるいは同等以上の剣は知らないか?」
メイドは何かを知っているのか、話してくれた。
「聖剣と同等あるいはそれ以上となりますと魔王様の持つ魔剣か、最北にある暗黒山脈に棲む黒龍から取れる鱗、オリハルコンなどを使用した武器になると思われます」
「暗黒山脈の黒龍、か……」
顔を覆っている仮面をずらし紅茶に口を付ける。
美味いな。
素材を取りに行こうかと考えていると、そのメイドは続けた。
「ですがおすすめはできません」
「どうしてだ?」
「暗黒山脈には強大な力を持つ魔物が多く棲息しております。さらにその暗黒山脈の支配者、黒龍には魔王様ですら倒せず敗北した存在なのです」
「ほう……フランがか。それは相当だな」
フランが戦ったということは、そこまではレイドでも行くことが可能だと思った。
「フランは暗黒山脈まで行ったのか?」
「いえ。前に山脈から降りてきたときに戦ったと」
「ふむ。貴重な情報をありがとう」
「いえ」
メイドを下がらせたレイドは思案する。
このまま一人で山脈まで行き素材を取りに行くかだ。
その場合フランもついて行くと言い出すことが目に見えていた。
「とりあえずフランに言ってみるか」
レイドは立ち上がりフランの部屋へと向かった。
向かう途中、リリスと鉢合わせた。
「……なに? レイド、あなたも魔王様に用なの?」
「そうだ。お前もか?」
「お前じゃない。リリス」
「すまんリリス。リリスもフランに用なのか?」
リリスはその言葉に静かに頷いた。
「そうか。一緒に行こう」
「そうする」
相変わらず言葉数の少ないリリスであるが、レイドは気にもしていなかった。
そのまま二人はフランがいる部屋へと向かった。
リリスが扉をノックする。
「リリスです」
「リリスか、入ってよいぞ」
扉が勝手に開く。
部屋には机に向かってなにやら書類の山を前にペンを走らせるフランの姿が。
チラリと扉の方を見たフランは――
「レイド!? 会いたかったぞ~っ!」
すぐに筆を置きレイドへと飛びついた。そのまま優しく抱いているとフランはスゥ~っとレイドの匂いを堪能する。
数分の間レイドの匂いを堪能したフラン。
「それで二人して何の用なのだ?」
「俺は後でいい」
「ん」
それだけ言うとリリスはフランへと話す。
「偵察部隊からの報告。人間達は先の敗北から戦力の強化をしているみたいです」
「誠か?」
「ん。本当です」
「そうか。これを機に叩きたいところだが、こちらも戦力を大幅に失っている。こちらも同様に戦力の強化に充てよう。みなにもそう伝えてくれ」
「わかりました」
リリスは話が終わったとばかりにレイドの方を見た。
「レイド、こっちは終わり」
「ああ」
「そうだ。レイドは何の用があってきたのだ? 部屋が不満か? なら替えるが――」
「違う。少し行きたい場所が出来た」
「行きたい場所? それはどこだ?」
首を傾げるフラン同様にリリスも首を傾げている。
「――暗黒山脈だ」
「「ッ!?」」
二人は驚きで目を見開いた。
「どうして突然?」
「そうだ。レイド、どうして突然暗黒山脈に行くと……」
リリスの言葉に同意してフランがそう尋ねる。
「魔剣が欲しいからだ。そのための素材集めだ」
「魔剣ならある程度ある」
「リリスの言う通りだ。魔剣なら宝物庫にだってある。どうして魔剣を?」
二人の疑問にレイドは答えた。
「聖剣と同等、あるいはそれ以上の魔剣が欲しい。今後必要になるからだ」
「そうか。素材の候補は?」
「黒龍だ」
「それは無茶だ! いくら私より強くてもあの暗黒山脈の支配者、煉獄龍アルミラースには誰にも勝てない。奴は最も神に近いと言われる存在だ。いくらレイドでも――」
「――それはわからないな」
「相手は天災そのものなんだぞ!」
「俺は勝てない戦いをする主義ではないからな」
その言葉にフランは頷いた。
「わかった。私はここから離れることができない」
「それは知っている。フラン、お前は魔王だからな」
「むぅ~……そ、そうだ! り、リリス! お前がレイドに付いて行ってやれ! もし危うかったらそのまま帰るんだぞ!」
「ん。わかりました」
リリスはフランの言葉に頷いてレイドを見た。
「……よろしく」
「ああ」
そこにリリスへとフランは慌ただしく告げる。
「り、リリス!」
「はい?」
「れ、レイドに色目を使うではないぞ!」
「…………」
「わかったな!!」
「は、はい?」
何を言っているかわからないような表情をするリリスであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。