二章
第19話:王城では
「……ここは?」
ラフィネが目を覚ましたのは空ではなく、見知らぬ天井であった。
ラフィネのつぶやきに答える者がいた。
「ここはライネール王国の一室です」
声の方見ると安堵していたエリスがいた。
そしてラフィネは先ほどまでの事を思い出しバッと体を起き上がらせエリスに問うた。
「他のみんなは!? トロワにダイリは?!」
「安心してください。みなさん無事ですがまだ意識が戻っておらず隣の部屋で眠っております」
「そうだ、あの仮面の男、ノワールはどうなったの!? 確か戦ってそこで気絶した気が……」
ラフィネの言葉にエリスは深刻そうな表情で答えた。
「私達は仮面の男に負けました。あれから三日が経過してます。悔しいです。私だけが生かされて……」
悔しそうにぎゅっと唇を噛みしめるエリス。
ラフィネはあの後何があったのかをエリスに尋ねると語りだした。
「ラフィネさんが気絶した後、ノワールはトロワさん、ダイリさんを一瞬で気絶させました。二人の全力の攻撃をものともせず、いとも簡単に気絶させたのです」
「あの二人を一瞬で……」
「はい……」
そこでラフィネはエリスの先ほどの発言を思い出した。
「エリス。私だけが生かされた、とは?」
「私には伝言を伝えさせるために生かしたと……」
「伝言? 誰に?」
「国王にです。『絶望はこれからだ』と言いました」
「絶望はこれから……」
二人には何を言っているのかは分からなかった。
「このことを陛下には?」
「いえ、まだです。先にラフィネさんに伝えようと思いまして」
「……そう」
「とりあえず、トロワさんとダイリさんが目を覚ますまでは話さなくても良いかと思ってます」
「それが良さね――うっ」
ベッドから立ち上がろうとしたラフィネが脇腹を抑え、苦痛の表情を浮かべた。
慌ててラフィネを抑えて再び横にさせる。
「落ち着いて下さい。流石にしばらくは安静して下さい」
「分かったわよ……」
少し悔しそうにするが仕方のない事だ。
魔法で癒したとしても時間がかかる場合があるのだから。
翌日、トロワとダイリの二人が目を覚まし勇者達一同は謁見の間にいた。
見守るようにいるのは国の重鎮の面々。
「面を上げよ」
国王、カルロア・ゼン・ライネールがそう口にし顔を上げた勇者達。
「こたびの戦い、大儀であった」
「勿体なきお言葉です。ですが私達は――」
ラフィネの言葉の途中で国王が口挟んだ。
「知っている。今回の件は全て聞き及んでいる。一人の仮面を付けた魔族にそなたら勇者が敗れたことも」
「……はい」
「何があったか聞いても良いか?」
国王は何があったかを勇者であるラフィネへと問うた。
「はい。私達は――」
戦いで何があったかを語った。
だがそれは自分が気絶するまででの出来事である。
その内容で驚きの事実が国王および重鎮達を騒がせた。
「魔族ではなく人間だと!?」
「はい。その者は自分をノワールと名乗りました」
「ノワールと名乗る勇者をも倒せる人間、か……」
そして重鎮達からも声が聞こえてくる。
「人間ではなく魔族の味方だと!?」
「裏切者だ!」
「人間存続の危機だというのに!」
「なぜ魔族の味方などをするのだ!」
口々にそんな言葉が聞こえてくるが、みんなの疑問の答えをラフィネは口にした。
「ノワールと名乗った仮面の男は、人間へと強い恨みがあるようです」
「人間に恨みだと?」
「はい。私からはここまでですが、あとはこの三人から」
そう言ってラフィネはエリス、トロワ、ダイリへと続きを話すように促した。
トロワが話す。
「私達はそのノワールへと自分達最大の力を持って攻撃をしました。ですが……」
「奴は俺達の全力の攻撃をいとも容易く防ぎ一瞬で俺とダイリはやられました」
その言葉に国王が反応する。
「信じがたいが、ではエリスよ」
「はい」
「なぜそなただけが気絶せずに生き残っていたのだ?」
「それは――陛下へと伝言を託されたからです。それしかできなかったとも言えます」
「なるほど。それほどまでに強かったのか?」
「はい。私達が連携しても手も足も出ませんでした……」
「そうか……それでその伝言とは?」
エリスはノワールからの伝言を伝えた。
「はい。『絶望はこれからだ』と言っておりました」
「「「…………」」」
その言葉に、その場の全員が黙り込むのであった。
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