第18話:嫉妬?
レイドとイリーナは現在、魔王城の玉座の間にいた。
「イリーナよ。今回は良くやってくれた」
「勿体なきお言葉です。ですが、ほとんどがレイド一人で人間軍を撤退させたようなものです」
「ほう。それは本当か?」
「はい。しかとこの目で確認致しました。レイドが我々の想像以上の化け物だということも」
その言葉にフランは笑みを浮かべ「そうだろうそうだろう」と嬉しそうにしていた。
そこにイリーナは続ける。
「しかしレイドは勇者達を倒したのにも関わらず見逃しました。まだ理由を聞いてはおりません」
「ほう。そうなのかレイド?」
この場には誰もいないのでレイドは仮面を外しいた。
そしてフランの言葉に「ああ」と肯定し言葉を続けた。
「国王達へと伝言を頼んだ」
「伝言? 何と言ったのだ?」
「絶望はこれからだ、とな」
レイドの言葉に面白そうにフランは笑った。
だがフランとは対照的にイリーナは驚いている様子であった。
「レイド、どういうことだ?」
「奴等にはまだ死なれては困る。もっと追い詰めて追い詰めて、最後の切り札をも潰し希望を失い絶望したところで殺す」
「…………」
イリーナは何も言えなかった。どうすればこれほどの憎しみを抱くのだろうかと。
人間の浅い絆とは違い魔族は結束力は強固だ。家族と思っているくらいには。
「だが勇者は殺しておくべきだったのではないか?」
フランの疑問にレイドは簡潔に答えた。
「新しく選定された勇者に恨みはない。殺す価値もない」
「そうかそうか。レイドがそれでいいなら文句はないぞ」
「ああ。だがいざとなったら殺す」
「それで良い。それとは別に――イリーナよ」
「は、はいっ」
突如フランから発せられる空気が変わったことに思わずイリーナは体を強張らせた。
「レイドとは何もなかったな?」
魔王様の眼光と殺気がイリーナへと降り注ぐ。
何もなかった、の定義が曖昧だが聞くしかない。
「その、何もなかった、というのはど、どういった意味でしょうか……?」
イリーナの返しにフランは言い放った。
「ね、寝取ってなどいないかということだ!!」
さらに大きく増す殺気。
空間が歪みそうな程の濃密な殺気である。
だが真剣なフランとは裏腹に、イリーナは心の中でツッコミを入れていた。
どうしてそうなるっ!?
聞いていたレイドは無表情である。いや、心の中ではイリーナと同じことを思っていた。
「い、いえ。決してそのような事は」
「……本当だな?」
胡乱な眼差しが突き刺さる。
数秒、あるいは数分だろう、イリーナにとって長い静寂。
そしてフランはホッと息を吐いて安堵した。
「なら良い。大好きなレイドが寝取られたと知ったら嫉妬に狂ってイリーナを殺していたところだ」
そんなのやめてくれ、と思うイリーナであった。
イリーナは仕事に戻り残ったのはレイドとフランの二人。
沈黙が場を支配するかと思われたのだが――
「帰ってくるのを待っていたぞレイドっ!」
玉座から立ち上がってレイドへと飛びついた。
そのまま飛びつくフランを抱きしめ、フランはレイドの胸へと顔を埋めその匂いを堪能する。
「俺も早く帰りたかった」
何かを思い出しレイドから一度離れるとレイドの目を見て言った。
「おかえり、レイド」
「ああ。ただいま、フラン」
ほんの少し頬を上気させたフランはレイドに告げた。
「ではベッドに行こうか♡」
「それは勘弁してくれ……」
「では早く行くぞっ」
移動と戦いで若干疲れていたレイドはフランに無理やり連れられて行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます