第17話:感謝

 この戦いは一人の仮面を付けた者が一人の手によって収束し、人間軍は撤退を余儀なくされた。


 勇者達が一人の仮面を付けた者一人を相手に敗北したことが、人間軍へと大きな衝撃を持って伝えられた。


「見たかあの仮面の魔族?」

「ああ、見たぜ。勇者様達が手足も出ていなかった……」

「俺達、勝てるのか……?」

「分からない。もしかしてあれが魔王なのか? 勇者がいるから自ら出て来たとか?」

「ありえるかもしれない。あの魔力量だ」


 撤退中の人間軍の兵士達が話しているのが馬車の中にいるエリスへと聞こえてきた。


「あれは本当に――人間なのですか……?」


 馬車の中で未だに目が覚めないラフィネ、トロワ、ダイリを見ながらそう呟いた。


 これは現実なのだろうか?


 そう錯覚してしまいそうな程、エリスは困惑していた。

 悪魔に魂を売って得た力というのなら納得できる。だが悪魔との契約は危険を伴う。

 生半可な代償ではあれほどの力を得ることが不可能であるからだ。


「ラフィネにみんな、早く目を覚まして……」


 エリスはそう願うのだった。



 ◇ ◇ ◇



 レイドがベリューレン砦に戻ったが魔族達は畏怖の眼差しを向けていた。

 それはレイドが圧倒的な魔力を放ったのに原因があった。


「魔王様の結婚相手と聞いていたが」

「ああ。魔王様と同じく圧倒的な強さだ」

「噂では魔王様との戦いに勝ったとか聞いたぞ」

「……本当か?」

「ああ。それに四天王も倒されたとか」

「すげぇな。顔はわからないが仲間で本当によかった」

「敵だったら負けていたかもな」


 ヒソヒソと話していたが、それはどこも同じであった。

 それにほとんど一人で人間軍を撤退に追いやったのだ。魔族達は犠牲者が少ないことに喜んでいた。


 レイドは砦の最上階へとやってきていた。


「まさか一人で勇者達を倒すとはな。だが何故勇者を殺さないでそのまま生かして返したのだ?」


 そう問うたのはイリーナであった。

 透き通るような青い瞳をレイドへと向ける。


「伝言を頼んだだけだ」

「……伝言だと?」

「国王に伝えるようにな」

「後で聞かせてもらえると思って良いな?」

「それでいい」


 イリーナはレイドとの話は終わったからと、次にフィオーラへとこれからの相談をする。


「人間達はレイドのお陰で撤退したが、一部の軍をここに残していく」

「防備を固めろ、ということですね?」

「その通りだ。500名を残すが、これ以上となると他の場所へと援軍が回せなくなる。許せ」

「了解しました。あとはこちらにお任せ下さい」

「ああ。私達は明日に王都へと戻る」

「分かりました」


 話が終わりイリーナは部屋を出て行ってしまった。

 レイドも用はないので出て行こうとすると、フィオーラに呼び止められた。


「レイドさん」

「……なんだ?」

「レイドさんがいなかったらどうなっていたか……」


 フィオーラはこのピンチを乗り越える事が出来た張本人であるレイドへとお礼を告げた。


「ありがとうございます。あなたが何者でもあろうと、この救っていただいた感謝は忘れません」

「……そうか」


 去って行くレイドに、フィオーラは姿が見えなくなるまで頭を下げていた。

 それは救ってもらった感謝からくる気持ちであった。


「本当にありがとう」


 レイドがいなくなった扉を見つめそう呟くのであった。



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