第16話:勇者達と兵士達は思い知る

 トロワから放たれた攻撃は地面を抉りながらレイドへと直撃し砂塵を巻き上げた。


「まだだ! ――地獄の爆炎球ヘル・エクスプロード!」


 ダイリが全てを焼き尽くす炎の球をそこにいるだろうレイド目掛けて放つと、爆炎が螺旋を描き天を衝いた。


 それを見るトロワやダイリ、エリス達は倒したと思い笑みを浮かべていた。


「この炎の中では生きていられまい」


 ダイリの言葉に二人は頷いていた。


「ありがとう。助かったわ」


 立ち上がりトロワ達の下にやってきたラフィネは礼を言い炎を見た。


「流石にこの中では生きていられないわね。いくら強くてもね」

「だな」


 レイドの生死を確認することなく踵を返そうとして――声が聞こえた。

 聞こえるはずのない炎の中から……


「――どこへ行くのですか?」

「「「「――ッ!?」」」」


 声に反応してラフィネ達は勢いよく振り返った。

 その表情は驚愕に染まっていた。


「ど、どうして生きて……」


 ダイリがありえないとばかりにそんなことを呟いた。


「こう見えても魔力量は多くてですね。このようにも使えるんです」


 レイドは実演して見せた。

 一瞬の魔力の解放で衝撃波となってレイドに纏わりついていた炎が吹き飛び消えた。


 だがその一瞬の解放でラフィネ達はレイドとの実力差を思い知った。


 ――これは勝てないと。


「では――行きますよ」


 ラフィネ達の前からレイドの姿が消えた。


「どこに――」

「遅いですよ」

「あぐぁっ!?」


 トロワの腹へと重い一撃が走り一瞬だけ体が宙に浮き地面に崩れ落ち気絶した。


「トロワ!? よくも――」


 ダイリが魔法を行使すよりも早くレイドは拳に魔力を乗せて放つ。


「――がはっ」


 肺の中の空気が拳による衝撃で吐き出され、一緒にわずかな血も吐き出し気絶した。


「ゆ、許しません!」


 聖女であるエリスには攻撃手段がほとんどなく何もできないでいた。

 そこにラフィネが二人をやられた怒りでレイドへと視線を向けた。


 ラフィネの体からは魔力が溢れ出し、それに応えて聖剣が反応し青く光り輝いた。


「二人の仇!」


 素早い速度で肉薄するラフィネにレイドは仮面越しに見つめる。


 確かに聖剣が応えているところを見ればラフィネは勇者なのだろう。

 聖剣はそうやすやすとは扱う事が出来ない代物だ。


 選定と言っているが実は聖剣は使い手を選ぶ剣である。

 レイドが選ばれたのは魔力量が桁違いであったからだ。


「これで終わりだ!」


 身体強化を全力でしているラフィネが剣を振り下ろしたのだが――


「――結局聖剣と言うのは魔を滅するだけの、その程度の代物なんですよ」

「――なっ!?」


 今までで渾身の一撃だろう攻撃を、レイドは片手で指と指の間に挟んで受け止めていた。

 動かそうともビクともしないことに驚きながらも、何か解決策を考えようとしてラフィネの意識は暗転した。


 レイドはその光景をただ茫然と見つめていたエリスへと歩み寄る。だがエリスは歩み寄るレイドに対して一歩、また一歩と後ずさる。


「こ、来ないで!」


 叫ぶようにそう言ったエリスは言葉を続ける。


「よくもみんなを……許さない!」


 エリスは自分だけでも戦おうとしていたが。


「まだ殺してないですよ。では今日はここまでにしておきましょう」

「……逃げるっていうの?」

「逃げる? それは誰に言っているので?」


 レイドは身に宿る魔力を解放させた。濃密で物理的なプレッシャーすら伴う圧倒的な魔力は、戦場全域へと広がり両軍を恐怖に陥れた。


「うっ、何、この濃い魔力は……嘘よ、こんなの勝てるはずがない……」

「分かりましたね? あなた達はまだ殺さない」


 レイドは魔力を収め顔を蒼白にして尻餅を突いているエリスへと告げる。


「それと国王に伝言を」

「……なに?」

「絶望はこれからだ、とね」


 そう言ってレイドは勇者達いや、エリスの前から姿を消すのだった。



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