第15話:VS勇者達

最初に動いたのはレイドであった。

一瞬で間合いを詰め攻撃を仕掛けた。今回は怪しまれないようにと剣を持っていた。


「……ほう」


ラフィネに向かって振るわれた剣だったが、火花を放ちトロワの持つ盾によって防がれた。

思わず関心の声を漏らすレイド。


まさか本気を出していない、尚且つ身体強化をも使っていないにしろトロワがレイドの攻撃を防ぐとは思っていなかったのである。


「その程度の攻撃で俺の防御が突破されるわけがないだろ! ダイリ!」

「分かっている! ――ファイヤージャベリン!」


レイドに向かって放たれる炎の槍。


「そのまま焼かれ死ね!」


後ろに後退して回避するが二本目が既に迫ってきていた。

このタイミングでは回避不能の直撃コースだったファイヤージャベリンだったが……


「――甘いな」


レイドは呟くのと同時に剣を持たないもう片方の腕を横へと振り払った。

すると迫っていた炎の槍が掻き消えた。


「「「――ッ⁉︎」」」


驚きでその場の全員が、見守っていた兵士達からも驚愕の声が聞こえた。


「嘘、だろ?」

「賢者様の攻撃が……」

「何者なんだ」


だがそれよりも驚いていたのは賢者ダイリ本人であった。

中級の魔法にしろ先程の魔法に込めた魔力は相当だ。それを防いだのだから驚かないはずはなかった。


先程の光景を目の当たりにしたラフィネは心の中で考える。


さっきのはどう考えても魔法ではない。魔力を使ったのが見えなかった。ならどうやったって言うの?


レイドは単純に力任せに腕を振り払っただけだ。込められた魔力が上級並みの中級魔法にしろ普通では不可能な芸当であった。


ラフィネは意識を切り替えて攻撃へと出た。


「私が仕掛けるから援護を頼むわ!」

「俺も一緒に行くぜ!」


トロワがラフィネと一緒にレイドへと駆けた。


「二人に支援魔法を掛ける!」


ダイナが魔法を発動しラフィネとトロワの二名に身体能力、五感が向上する支援魔法を掛ける。


「常時回復の魔法を掛けます!」


エレナが常時回復の魔法を掛けた。

これは多少のダメージ、疲労ならば数秒で回復する魔法だ。だが重症ほどの攻撃には意味をなさないが。


支援魔法を受けた二人がレイドへと迫り剣を振るう。

振るわれる剣を手に持つ剣で受け流し時には躱す。二人から離れると魔法が飛んでくる。


レイドには一切ダメージは無く、ラフィネとトロワの二名が着々とダメージを蓄積させていった。だが常時回復の魔法が掛けられており傷は癒えてしまう。


激しい戦闘が続き数十分が経過する。

互いに息は切れておらず、このままだと数日は戦っていられる状況であった。

だが新しく選定された勇者の実力を見ておきたかったレイドとしては、もう終わりにしても良かった。


レイドは新しい勇者に復讐したいとは思っていなかった。あくまでもそのパーティメンバーである三人と、国の王や大臣達の身分が高い人達であった。


「中々決定打が決まらないわ」

「そうだな」


ラフィネとトロワの二人はそう言葉を零した。

人間側の兵士達と魔族達がこの戦いを遠巻きに見ていた。


側から見れば激しい戦闘に見えるだろう。だが、レイドからしてみればお遊戯にも等しい戦いだった。


レイドは勇者と実際に戦ってみて考察する。


このまま成長すればもっと強くなるだろう。他のトロワ達仲間は成長限界とみた。レイドが追放されてからと実力は大差なかった。



さらに数分が経過したその時、レイドの持つ剣がトロワの一撃によって中間からポッキリと折れてしまった。


耐久度の限界であった。

勇者の持つ聖剣とトロワの持つ業物の剣を前に、普通の剣では太刀打ち出来るはずも無かった。ここまで耐えられたのは単にレイドの技量のお陰であった。


「いまだっ‼︎」

「わかってる!」


ラフィネがこんな絶好のチャンスを逃すはずがなく、一瞬でレイドの懐に潜り込み聖剣を横一閃に斬り払った。


目にも止まらぬ速さで振り払われた聖剣だったが……


「嘘、でしょ……?」

「バカな、聖剣を素手で止めた、だと……?」


ダイリもエリスもまさかの出来事に動きを止めてしまった。


レイドが何故聖剣を素手で受け止められたかというと。

それは手に魔力を流す事で鋼以上の硬さにする事が出来る、レイドが取得している技の一つであった。

流す魔力量によって強度を自在に操れるのだ。


「甘いですね。その程度の動きが見えないとでも?」

「――ッ⁉︎」


後方へと下がろうとしたラフィネだったが、ガッチリと掴まれた聖剣はビクともしなかった。


「離せ!」

「何故敵である貴方の武器をこの場で離す必要があるのですか?」

「ぐぁっ!」


死なない程度の威力で拳をラフィネ腹に放ち吹き飛ばす。

勢い良く地面を転がるラフィネ。

その光景に怒りが湧いたのか、トロワやダイリ、エリスが一斉に攻撃を放ってくる。


「――大地の絶壁!」

「――女神の祝福!」

「――グランドクロス!」


 ダイリによって左右後方への退路が断たれエリスが使える支援魔法がトロワを強化し、トロワが自身の持つ最高の技をレイドへと放ったのだった。




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