第14話:元勇者と現勇者

 レイドはとある一角で魔族がやられているのに気が付いた。

 それは隣にいるフィオーラも同様であった。


「何が、起きている……? まさか勇者がいたのか? 誰かこの状況を説明しろ!」


 異変に気が付き戦場で何が起きているのかを近くにいた者に問い質す。

 すぐにその者は遠距離の視覚魔法をレイドとフィオーラに使う。


 すると遠くに見えていた光景がはっきりと確認が出来た。


「アレは、勇者、なのか? だが剣は使った事が無いと……」

「いや、フィオーラ。アレは勇者だ。手に持っているあの剣は聖剣だ。それに勇者の仲間もいるな」


 レイドの言葉に「何故わかる?」といった視線が突き刺さる。


「俺は人間と少しの期間だが交流があり勇者について聞いたことがある」

「人間と交流だと?」

「ああ、裏切られ人間の国に報告されたがな。それよりもだ。その話によると聖剣の名は『エヴァンシル』。神々が祝福し魔に属する者を滅ぼす、いや浄化する力が宿ったとされている。斬られた魔の者は治療に困難だと聞く。見た限り斬られた魔族の傷が魔法でも少ししか治療できていない」

「ではっ!?」


 レイドは頷く。


「アレは聖剣エヴァンシル。つまりは――勇者というわけだ」

「勇者は聖剣を使わないのではないのか!? どういうことだ!」


 事実を言ってしまえば怪しまれてしまう。

 ここはそんな感じな嘘と真実を交えて伝えるのが最も最善であった。


「それはわからない。だが聖剣を使わないから殺されたりしたのだろう。そして新たな勇者が選定されたことになる」

「そ、そんな……ではどうしろと! このままでは――」

「俺が出る」

「――は?」


 レイドの言葉にボケっとするフィオーラ。

 何を驚いているのだろうか?


「だ、だが相手は勇者だぞ! 勝てるかもわからない相手に挑むなど! それでも魔王様の夫なのか!?」

「ああ。そうだ。俺はフランの夫だ。そして――フランよりも強い。ここは俺に任せろ。全軍を引かせて砦の守りを固めておけ」

「だ、だが――」


 レイドはフィオーラの言葉を最後まで聞くことなく砦の最上階から飛び降りたのだった。


 最初に向かったのはイリーナのところだった。

 数を減らし焦っている様子だった。


「イリーナ」

「なんだ――ってレイドか。どうした?」


 訝しむ視線を向けてくる。

 まだレイドの事を怪しんでいたのだ。


 わかっていてもレイドは無視して最前線で暴れている場所を見ながら呟いた。


「あそこに新しく選定された勇者がいる。手に持っているのは聖剣だ。そこらの魔族では相手にもならん。さっさと全軍を引かせて砦の守りを固めろ。勇者は俺が躾けてくる」

「勇者だと!? それに躾けてくるとは」

「要は、後は俺がやると言っている」

「相手は勇者の仲間の他にもまだ三千もの人間の兵がいるのだぞ!」

「問題ない。先輩勇者としての義務だ」

「……分かった。レイド、貴様を信じるぞ?」

「ああ」


 イリーナは声を張り上げて軍を砦まで引かせた。




「何? 敵が引いていく?」

「俺達に気が付いて引かせたんじゃないか?」


 ラフィネの言葉にトロワが答えた。


「トロワの言う通りかもしれない。でも不自然。以前はギリギリまで戦っていたのに」


 ダイナの言葉にエレナも納得する。

 そんな中、ラフィネ達の下へと砦の方から歩いて来る一人の、フードを被り仮面を付けた者が歩み寄って来ていた。


「誰なの……?」

「分からない」

「何者だぁ? 俺達の前にのこのこと出て来るとは」

「でも――強いわ」


 ラフィネの言葉に全員が静かに頷いた。


 ラフィネ達まであと十数メートルまでの距離に来ると立ち止まった。

 その者にラフィネが問いかける。


「あなた、何者……?」


 その仮面を付けた者――レイドはいつもとは違った口調、声色で恭しく答えた。


「これはこれは勇者様。お初にお目にかかります」

「誰? もしかして四天王の一人?」

「いえいえ。四天王ではございませんよ」

「なら何者なの! 答えて!」

「あなた達に恨みを持った魔王軍の協力者、とでも言いましょうか」


 レイドのその言葉で表情を強張らせ武器を構える勇者の面々。


「なに……?」


訝しむ視線を向ける勇者達。


「そう、あなた名前は?」

「名前、ですか……」


レイドは考える。

こでレイドと名乗ってしまえば確実にバレてしまう。まだバレるわけにはいかないのだ。

だからレイドはこれから人間相手に使う偽名を考えた。


「そうですね……ノワールとでも名乗りましょうか」


そう告げたレイドもといノワール。


「あくまでも本当の名前は隠すつもりなのね」

「それは貴方がたのご想像にお任せしますよ」


張り詰めた空気が辺りを漂う。

勇者以外の兵達もその空気に動けないでいた。

否。動くことができなかったのだ。

それはラフィネ達勇者も同様で、レイドから放たれるプレッシャーが圧倒的であったからだ。


「うそ、こんなの四天王以上……」

「マジかよ。これで四天王ではないだぁ? ふざけるな」

「これは少し不味いかもですね……」


四天王と一度戦ったことがあるラフィネを除いた三名がそう言葉を零した。

そんな動けない勇者達を目にしてレイドは呆れたように口を開いた。


「この程度の威圧で……出直して来た方が良いのでは? それでは魔王すらも倒せませんよ? まあ、その場合は私が阻止しますがね。では始めましょうか。勇者の力がどの程度か、試させていただきます」


こうしてレイドもといノワールと、勇者との戦いが始まるのであった。



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