第13話:勇者、戦場へ

 ――数日後。


 ベリューレン砦近くの平原に、人間軍総勢5千名と、魔王軍総勢1300名が向かい合っていた。


 後方には支援魔法を掛ける者達が待機していた。

 開戦の合図はまだない。


 静寂の時間が過ぎていく。


 そんな中、後方のベリューレン砦の上に二名の者がいた。

 一人は黒いマントでフードを被り仮面を付けたレイドと、フィオーラの姿だった。


「凄いな」

「ああ、ゴミのような数の人間が見える。良くもここまで集めたものだ」

「そうだな。それで、本当に勝てるのか?」

「ああ。多少の犠牲は目を瞑ってくれ」

「わかっている」


 そして――戦いが始まった。


 始まりは人間側の魔法攻撃からであった。


「魔法部隊は支援魔法を! 劣等種共を蹴散らせ!」


 イリーナの声が合図となり、支援魔法を受けた魔族達が動きだした。

 次々と人間達を倒していく魔族達。

 元々魔族は支援魔法を使って来なかった。だがレイドがある程度の支援魔法を教えるとすぐに使いこなしていた。


 これが人間と魔法が得意な魔族の違いだろう。


 支援魔法を受けた魔族達は物凄い勢いで人間軍を押している。


「凄いな。ここまで圧倒できるなんて」

「何故支援魔法を使って来なかったかが不思議だ」

「魔族は自身の力に頼っているところがある」

「だろうな。この勢いならすぐに人間軍を撤退に出来るだろうな」

「ああ」


 まあ撤退するところを見過ごすはずがないのだが……



 ◇ ◇ ◇



「な、何故ここまで押されているのだ!」


 豪奢な鎧を身に着けた男性、今作戦の総司令官――アヴァル・フォルミードが後方の小高い丘にてそう叫んだ。


 だがその答えはすぐに分かることとなった。

 少し離れた場所から総司令の下に駆けて来てこの状況の報告をした。


「フォルミード総司令に申し上げます!」

「なんだ?」

「敵魔族が前線で戦う者達へと支援魔法を掛けているようです! それによって我が軍の損害率が大幅に上昇致しました!」

「――ッ!?」


 まさに驚愕だった。今まで使って来なかった魔族達がここにきて支援魔法を使ってきたのだから。


 アヴァルはすぐに理由を考える。

 それは追い詰められた魔族が、今まで使って来なかった支援魔法で戦況の逆転を図っているのではないかと。


「今まで使って来なかった支援魔法で戦況を変えようとしているのでしょう」

「それしかないですな」

「無駄な事を」


 アヴァルの隣に座って戦況を見つめ同じ考えに至る者達。


 だが「無駄な事を」の言葉にはアヴァルはそうは思わなかった。

 このままではこちらの敗北が必然。それを回避しこの戦いに勝利するには、と思い自分達の前方で静かに戦場を見据える者を見た。


 新たに選定された真の勇者――ラフィネ・シュベアートその人であった。

 光沢を放つ腰まで伸びたプラチナブロンドを風で靡かせていた。


 一人の騎士が勇者に尋ねた。


「勇者様、少しいいですか?」

「なんです?」

 ラフィネは振り向かずに返答した。


「その、まだ出られないのですか?」

「仲間を待っているの。遅れてくると言っていたけど――」


 その時後方から声が数人の聞こえた。


「ラフィネ待たせたな」

「ラフィちゃん待った~?」

「少し遅れた」


 順にフルプレートの鎧を着る重戦士トロワ・バーゲルに賢者ダイナ・フェルゼン、回復士のエレナ・クルーシュの三名だった。


「遅いわ。今劣勢なのよ」

「は? 劣勢? なんでだよ?」


 トロワの疑問にラフィネは答えた。


「魔族が支援魔法を使ってるの」

「なっ!? 魔族が支援魔法だと!?」


 魔族が支援魔法を使ったことに驚愕の表情をする賢者ダイナ。


「本当よ。私達が出ないと負けるわ」

「でしたら早く行きましょう!」


 エレナの言葉にラフィネは頷きアヴァルに告げる。


「では私達は行きますね」

「ああ! 勝ってきてくれ!」

「もちろんですよ」


 そう告げて勇者達は戦場へと出るのだった。


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る