第9話:四天王、驚く
隣でレイドの腕を抱くようにギュッと抱きしめ頬を緩めるフランの姿があった。
「その、歩きにくいんだが?」
「いいではないか。むふふっ」
ニマニマするフランを見てレイドは思う。
「果たしてこれで良かったのだろうか?」と。
「そうだレイド。仮面、直しておいたわよ。これぞ出来る女だね!」
「あ、ああ。ありがとう」
レイドは壊れた仮面をフランから受け取り付け直しフードを被る。
今まで魔王然としていたのに、今では完全に恋する乙女のフランさん。
これで魔王が務まるのかと不安になってしまう。
事実、四天王が魔王を、魔族を支えていると言っても過言ではなかった。
魔王とは絶対的象徴であり魔族の王だ。
フランは魔族達から信頼されていた。
「なあフラン」
「どうした?」
「俺の事をみんなに何て言うんだ?」
戻って結婚すると言われても、魔王城に乗り込んだ謎の人物を魔王の夫として許すはずはないと思ったからだ。
「それは私の、その、お、夫と言うつもりだ」
「そうか。新しい火種にならないと良いが」
「何か言ったか?」
「いや、なんでも」
「そうか。では早く戻るとしよう。ベノム達が待っている」
「ああ」
レイドとフランは魔王城へと帰還するのだった。
「で、魔王様。その侵入者は一体何者ですか?」
そう問うたのはベノムであった。
現在は玉座の間でレイド、フランの二名に加え、ベノム達四天王の姿があった。
ベノムの質問にフランは答えた。
「名前はレイド。この度私と結婚することになった」
一瞬の沈黙。
そして――
「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇッ!?!?!?」」」」
――驚愕の声が玉座の間に響き渡った。
「どういうおつもりですか魔王様! 素性が分からない奴と結婚というのですか!!」
そう言葉を発したのは一番最初にレイドにボコられた大剣を持つ四天王、バルザークであった。
イリーナとリリスも同様に「そうですよ!」と抗議していた。
「四天王である私達を容易に倒し、本気の魔王様とも渡り合えるその人が誰なのか気になります。教えてください」
イリーナの言葉にフランはレイドを見る。
その表情はどうすれば良いかわからないようだ。
レイドは一歩前に進み出て口を開いた。
「俺はレイド。レイド・エーアスト。人間の――元勇者だ」
そう告げて仮面を外し四天王を見据えた。
「「「「ッ!?」」」」
一瞬でレイドから距離を取った四人は戦闘状態に入りレイドを警戒する。
「どういうおつもりですか魔王様! 人間の、しかも勇者と結婚するとは!」
「ベノムの言う通りです! 同胞を殺してきた勇者だぞ!」
「そうです! 人間は私達の敵ですよ!」
「魔王様、その人は私達魔族の敵」
順にベノム、バルザーク、イリーナ、リリスが声を荒げた。
元はとはいえレイドは勇者なのだ。同胞を殺してきた魔族の敵。ベノム達は許せるはずはなかった。
だが……
「――ほう、私の決定に逆らうのか?」
放たれる濃密な殺気に一同は口を噤んだ。いや、閉じざるを得なかったのだ。
魔王とは魔族にとって絶対的存在。
「で、ですが!」
それでも反論しようとするバルザーク。
「バルザークにベノム、イリーナ、リリスよ。貴様は本来であれば魔王城でレイドに殺されていたはずだ」
「そ、それは……」
「他にも魔王城にいる魔族は全員生きている。それは何故だ?」
「それは殺すほどの致命傷を与えられなかった、とか……」
「バカ者! レイドは殺さなかっただけだ。魔族は敵ではなくなったと。なぁレイド?」
フランの言葉にレイドは頷いた。
「フランの言う通りだ。それに俺だって人間が憎く復讐だってしてやりたい」
「だがお前は沢山の同胞を殺した! 違うか!」
「なら逆に問うが、お前等魔族だって沢山の人間を殺した。違うか?」
「うっ、そ、それは守る為に……」
「それは人間だって同じだ。守る為に戦っている。そもそもなぜ戦争なんかを始めたんだ……共存だって出来ただろうにな」
誰もレイドの言葉が正論過ぎて何も言う事が出来なかった。
「もう何も言わない。好きにしてくれ。だがこれだけは聞かせてほしい」
「なんだ?」
「お前は俺達の敵か? 味方か?」
バルザークの問いにレイドは即答した。
「――味方だ。言ったろ? 俺は人間が憎いと。復讐したいんだよ。人間の、人類の為に命を懸けて死に物狂いで戦った俺を、偽物の勇者と言って追放したんだからな」
「信じていいのだな?」
「ああ」
頷いた。
「魔法を使ったけどレイドという人間は嘘を言っていないわ」
「なら信用する」
「ええ、私もです。レイドさんを信じましょう」
イリーナの魔法でリリスとバルザーク、ベノムはレイドを受け入れたのであった。
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