第8話:魔王様、一目惚れする

「人間だと!? しかも――めちゃタイプ!!」


 最後の言葉はレイドには聞こえておらず、何故か頬が紅潮しているフランへと攻撃を仕掛けた。

 フランにはレイドの動きがまったく見えていなかった。


 そもそもフランはレイドとの実力差に気が付いていた。自分では勝てないということに。

 だからか、目の前に迫る拳に対してフランが取った行動は一つだった。


「私と――結婚してくれ!」


 フランのその言葉に思わず拳を止め……


「……は?」


 そんな間の抜けた声が漏れ出た。


 熟れたリンゴの様な真っ赤な表情をしているフランと、呆気に取られ呆然としているレイド。

 これからいい感じの戦いになりそうだったのに、気が付けばそれどころではない空気になっていた。


 お互いが戦闘状態を解き、というよりはフランがレイドの素顔を見た瞬間に戦闘状態を解いていたが……


 二人が見つめ合うこと数分。


「何故急にそんなことを?」

「……ひ、一目ぼれだ……」


 そう言って顔をさらに染めるフラン。頭から出るはずのない湯気を幻視しそうである。


「言っとくが俺は人間だぞ?」

「そんなもの関係あるまい。も、もしかしてレイド、お前は魔族が嫌いなのか?」

「敵でなくなった今、そんなのは関係ない。むしろ人間の方が嫌いだ」

「そ、そうなのか!?」


 パッと顔を輝かせるフラン。


「あ、ああ……」


 モジモジしながらレイドの方を何度も見る。

 思わず「可愛い」と言葉を漏らしそうになり噤んだ。


 フランはレイドに答えを尋ねた。


「そ、それで答えは? ま、まさか好きな人でもいるのか!?」

「いねーよ!?」


 思わずツッコミを入れてしまったレイドはゴホンと咳ばらいをする。


 だがフランは決して悪には見えない。むしろ魔族を助けようと頑張っているようにも見える。

 確かにフランはレイドから見ても超が付くほどの美少女だ。


「それで、け、結婚してくれるか?」


 付き合うという段階を超えての結婚に、思わずツッコミたくなる気持ちを抑えてフランに答える。


 レイドには家族もいない。

 親友と呼べる人もおらず友達も少なくレイドの追放に賛成していたほどだ。今では復讐の対象である。


 それにこのように好意を寄せてもらったのはフランが初めてだった。

 だがある問題があった。


「もしだ。もし人間の元勇者の俺と魔王であるフランが結婚するとしよう。それに反発する者がいるのではないか?」

「む、確かに……」


 少ししてフランはポンと手を叩き閃いたようだ。


「そうだ! れ、レイドが仮面を付けていれば良いんだ!」


 なんと馬鹿な考えなのだろう。


「そんなのでバレなかったら――」

「でもバレてなかったよ?」

「……確かに」


 フランの言葉に納得せざるを得なかった。


「では聞かせてもらおう。魔王であるこの私、フラン・ヴィレアーレとけ、結婚してくれ!」


 レイドの答えは決まっていた。


「ああ。これからよろしく、フラン」

「――ッ!!」


 赤みが落ち着いていたフランだったが、レイドに名前を呼ばれたことによって再び真っ赤に染まった。


「そ、その、末永くよろしく、れ、レイド……」

「こちらこそ」


 こうして二人の最強がくっついた瞬間だった。

 人類の勝利が潰えた瞬間だった。

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