第6話:対魔王戦

 レイドと魔王フランは互いに見つめ合ったまま動いてはいない。

 フランはレイドの様子を伺っていた。


(この仮面の男まったく隙が無い。只者ではない。四天王より、あるいは私よりも……)


 そう思ったがすぐに忘れ目の前にいる仮面の男へと視線を戻した。

 どう攻めようか考えていたが、始まってから動かないフランへとレイドは尋ねた。


「来ないのか?」

「ち、違う! どう倒してやろうか考えていたところなのだ!」

「そうか」


 フランは手の平をレイドに向けた。

 手の平に集まる膨大な黒い魔力。流石は魔王というべきなのか。

 フランはこの一撃でレイドを倒そうと考えていた。レイドほどの実力者なら当たったとしても死には至らないと思ったからである。


「――獄炎弾」


 フランは魔法名と共にレイドへと撃ち放った。


 その名前の通り、一メートル程のドス黒い炎の弾はレイドへと迫るも、仮面越しに笑みを浮かべ、気合と共に回し蹴りを放つ。


 蹴りと獄炎弾が衝突するも一方的に炎を打ち消した。


 その光景に「なっ!?」と驚愕の声を上げるフラン。


「そうか。四天王でもこの魔法の前には無力だったのだが。認めよう! そなたは強い!」


 迫るレイドを見てそう告げ、自らも身体強化を施し虚空から漆黒の魔剣を抜き振るった。

 取り出した魔剣を見た瞬間にレイドは一瞬で後退した。


「ほう……」


 レイドが取った行動に思わず関心の声が漏れ出す。


「その魔剣、ただの魔剣ではないな?」

「よくぞ分かった。この魔剣の名は――。全ての攻撃と敵、聖剣、神器すらも斬り裂く最強の魔剣である。それに一瞬触れただけですらその者に呪いが与えられる。扱えるのは私以外に誰もいない」

「俺に教えて良かったのか?」


 フランは得意げに告げる。


「教えたところでどうしようも出来まい」

「確かにその通りだな。だが――俺には通用しない」

「そうか。ならその身を持って味わってもらうとしよう!」


 一瞬で背後に移動したフラン。レイドですら反応に一瞬遅れる程の速度。


 急所へと突き刺すフランであったが、驚愕の顔に染まった。


「なにっ! 素手で弾いただと!?」


 レイドは魔剣の軌道を素手で弾き逸らしたのだ。何故触れても無事でいられたかというと、それは手に魔力で薄い膜を作っていたからだ。

 薄い膜と言っても緻密に練られ圧縮された魔力だ。断ち斬られる寸前のギリギリで弾くことが出来た。


「出来てしまったな」

「くっ、だがまだだ!」


 それからは激しい剣撃がフランから繰り出されるも、その悉くを捌きあるいは軌道を逸らして躱していた。


 レイドも反撃するが躱されたり剣で防がれたりの攻防戦が続く。衝撃波などで城がどんどん破壊され、二人は城の外の森で戦っていた。


 一度の攻防で川は枯れ森の一部が吹き飛ぶ。そんな激しい戦闘だった。


 これがまだ魔王城での戦いだったらとっくに城や街は崩壊していただろう。

 数十分が経過互いに距離を取る。


「この高揚感、実に久しぶりだ」

「俺はまだまだだがな」

「減らず口を!」


 そうして再び始まる戦い。




 倒された四天王たちはその戦いを遠くから見守っていた。


「まさか魔王様とここまで戦えるとは……」

「ええ、そうね。次元が違うわ」

「奴は一体何者だ?」

「わかりません。ですが私達の命を奪わなかったからには腕試しのつもりなのでしょうか?」


 ベノムの言葉に四天王の三人は頷くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る