エピローグ
<始まりの5人>の一人にして最強と名高いギルド「ボルケーノ」のギルドマスター「ライアス」、
そして<幻の6人目>でもある「ともしび亭」のギルドマスター「魚の人」。
つい先ほどまで行われていたプレイヤーイベント「第一回ギルマス会議」において、おそらく非常に大きな活躍をしたギルドマスター二人は、
― ・・・何故か「魚の人のマイルーム」で正座させられていた・・・ ―
MMOとリアル(仮)
エピローグ この物語に仮に名前を付けるとしたらなんだろう?
― 「魚の人のマイルーム」にて ―
(なんで俺とライアス、正座させられてるんだろう・・・)
俺は急展開のこの状況にいたるまでの経緯、ついさっき「ギルマス会議」が終わってから後のことをもう一度思い出していた。
「アシューのマイルーム」をライアスと同時に出た後、追いかけるようにエル様とKless氏、Naoさんが出てきた。
(・・一言、言っとかなあかんやろうなぁ・・)
と考えていると、内緒チャットが飛び込んできた。
Nao:「・・話あるんですが、いいですよね?」
「・・はい」と返そうとしたところに、ミアさんが出て来る。
や否や、ここにいる誰でも聞こえる一般チャットにて、
「えっと、マスター・・というかHiroさん?、に聞きたいことがあるんですけど!」
(あいたーーーー!!・・せめてギルチャ・・・)
とも思ったが、それではNaoさんには別でまた話さないといけないだろうなぁ。そう思った俺は、
「・・・ここでは何なので、私の部屋で話しましょう。Naoさんもそれで。」
「・・わかりました。」
Naoさんとは「Hiro」ではフレンド登録しているが「魚の人」とはフレンド登録していないので、フレンド申請を行う。なんか変な感じ。
「女性を部屋に連れ込む魚w」
「・・・あんたとの決着は、また今度な。」
ライアスの冷やかしをなるべくスルーしつつ「マイルーム」に移動していると、ピコンとフレンド申請をされた音がした。
「?」と思って名前を確認すると「エル様」
「・・・・・・・」
ため息をつきながら、俺はフレンド申請を承諾した。
「・・・あー、まぁ、そうなるよね・・」
今、俺のマイルームにはNaoさん、ミアさんは当然ながら、エル様、Kless氏そしてライアスがいた。
「うん、四人はまぁわかる。ライアスは出てけ。」
「聞こえんな。」
(くそ、こんな時だけ、ちょっと戻りやがって)
と思っていたら
「・・漫才はとりあえずいいんで、魚の人・・いえ、Hiroさん、聞きたいことがあるんですけど、」
Naoさんに詰め寄られる。
「私もマスター・・?に、聞きたいことがあります!」
ミアさんにも聞かれる。
(・・・この二人には結果的に騙す形になって申し訳ないから、ここは素直に)
「<幻の6人目>であることを、どうして隠してたんですか!!?」
「今後「マスター」と「Hiro」さんのどっちで呼べばいいですか!?」
「えっ、そこ!?」
思わず出てしまった俺の突っ込みに、何故か二人ともキョトンとした感じに・・なんでだ。
「・・なんだと思ったんですか?」
Naoさんに逆に質問され、しまったと思いつつしどろもどろに答える。
「あ、いや、・・Naoさんとミアさんには「魚の人」=「Hiro」を、・・結果的に隠している形になって謝らないとなーと思って・・」
すると何故か、Naoさんとミアさんは二人見合わせるような感じで、
「・・いえ、私も気づかなかったし、聞かなかったので特に気にしてません。」
「・・・私も驚きはしましたけど、騙されたとは思ってません。・・多分」
(「多分!?」)
「・・なんか、そんな風に言われたら、結果的にでも隠されてたことに、ちょっといらだってきました。どうしましょ?」
藪蛇!!
「・・・じゃあ、とりあえずそこに正座して。Hiro魚」
「適当にくっつけるのやめて!!!;;」
だがここは、自分も悪いと思うので素直に従う。
と、ここでまさかのNaoさん追加指示!
「・・あ、そうだ。ここだけだと罰にならないから、リアルでも私が「良い」というまで正座してください。」
「マジで!?」
「自業自得w」
「・・マスター・・紛らわしいからライアスさんと呼びますね。も、知ってたんですよね?同罪です。魚の隣に正座してください!」
「完全に八つ当たりだ!!」「い・い・か・ら!!!」
俺とライアスのにわか漫才のお株を奪うような華麗な突込み!
こういう状況でありながらも、俺はこう思った。
(「ボルケーノ」の将来は安泰だなぁ・・)
これを傍から見ていたエル様とKlessは、こう思わずにいられなかった。
((・・・何なのこの構図・・?))
・・と言う感じで今の状況に至る。・・なんか結構ページ稼いだ気がするなぁ・・だがしかし無意味に・・
「・・んと、まず質問に答えます。Naoさんからはなんで6人目って呼ばれてるのを黙ってた件だよね?」
「・・はい。」
俺はリアルのモニタ前で思わず天井を見上げ、こう答えた。
「・・答えは単純。自分から「俺は幻の6人目なんやで」なんて言えないじゃん。」
「「・・あ。」」
ため息をついて続ける。
「まぁ、<幻の6人目>なんて名前、もちろん自分から名乗ったわけじゃないし・・正直、聞かれても答えなかったかも知れないけど・・隣のバカがあの時言わなければ。」
「・・・説得力が上がる最高のアシストだっただろうに」
「盛り過ぎでなければな!・・ハードル上がりすぎて冷や汗もんだったわ!!」
「盛り過ぎねぇ・・」
んと、いかんいかん。こいつと漫才に興じては。
「・・と言うことで、Naoさんに限らず「Hiroが6人目と噂されている」ことは誰にも言ったことない。だよね、Klessさん、エル様。」
「あ、はい。」
「・・・うむ。」
突然の俺からの振りに相槌を返す二人。・・エル様なんか偉そうやなぁ。
「わかりました。・・でももう一つ。本人にとっても噂だそうなので答えられたらでいいのですが、なんで<幻の6人目>と呼ばれてるんですか?」
(・・あ~、そこきたか~~)
Naoさんの発言の意味が分からず、キョトンとする周囲。
・・と含み笑いをしてるようにも見えるライアス。おのれ・・
「・・10人推奨ダンジョンを拡張PT6人でクリアしているのを目撃している人がいたなら、<始まりの6人>と噂されているはずですよね?」
「あ」「言われてみれば・・」
・・・再び沈黙・・・
・・俺はまたため息をつきながら答える。
「・・・それは、・・バグっていうか不具合のせいだろうなぁ・・」
「え?」
「・・その辺は俺が説明しようか。」
ライアスが立ち上がって言った。あ、ずる。
「・・10人推奨LV50ヒロイックダンジョンの最後のBOSSを本当にギリギリで倒せたことに、俺たち6人は興奮した。・・感無量と言った感じでお互いを讃えあったんだ。」
それは俺も同じだ。・・今でも思い返す。
Naoさんたちも、ライアスの話に聞き入っているように見える。
「そうして意気揚々とダンジョンから出た時にそれは起こった。・・いつの間にか「Hiro」はいなくなり、PTも拡張ではなくただの5人PTになっていたんだ。」
「「「「え?」」」」
キョトンとする一同。だよねー。ライアスは続ける。
「・・さっきの会議でも言っていたが、この時は10人推奨Dが実装されたと同時に、拡張PTというシステムも実装されたばかりだった。だからシステムの不具合でこうなったのではないかという結論に至った。」
「はぁ・・・」
相槌を打つNaoさん。
「・・なので、しばらくしたら再ログインして戻ってくるだろう。そう思ってしばらく待つがなかなか帰ってこない。時間も遅かったので悪いと思いながらもPTを解散した。」
「・・周囲にはまだ自分たち以外のプレイヤーもいたから、多分この辺りを見られて<始まりの5人>と呼ばれるようになったのだと思う。」
「・・・・・」
何とも言えない様子の一同。自分の状況も話す。
「俺の方も何とかクリアできたと思ってダンジョンを出たら、いきなりログイン画面になってかなり焦った。しかもログインしようとしても「しばらくお待ちください」と出るばかりで一行に戻れない。」
「これは俺もバグだなと思ったがどうしようもなく、とりあえず運営に報告してその日は休んだ。・・次の日はログインできたんで、ライアスに状況を伝えたんだ。」
俺はまた、何度目かのため息をつきながら続ける。
「・・で、しばらくして運営も不具合を認めて修正も終わった頃、<始まりの5人>とついでに<幻の6人目>なんて噂が流れたって次第・・・OK?」
結構情けない話なので、最後だけちょっとおどけてみた。
・・で、意外な人物が釣れた。
「・・・・と言うことは、<幻の6人目>が産まれたのは、実装時にありがちな不具合による偶然のため?」
「・・エル様?・・まぁ、そゆことだね。」
「うおーーーーーー!!!!!」
いきなり雄叫びを上げるエル様。しかもなかなか治まらない様子に驚いたりキョトンとする一同。
俺も同じ。エル様ってこういうキャラだったっけ?・・とりあえず話進めよ。
「えっと、こういったちょっとカッコ悪い事情もあって、話しづらかったのです。Naoさん、こういった回答でいいかな?」
しばらくの間があって、Naoさんは答える。
「・・まぁ、状況的には理解できました。ありがとうございます。」
「さて、続けて俺のことをなんて呼んだらいいのかっていうミアさんの質問だけど、好きなように呼んでいいよ。どっちがどっちか関係ない。どっちも俺だし。」
「・・て言ったら答えにならないだろうから、今まで通り魚の時は魚で、Hiroの時はHiroで・・こんな答えでいいかな?」
「じゃあ、シックスマンさんでもいいんだな?」
「やめい!・・せっかく真面目に言ったのに、割り込んでくるない!」
横槍を入れたのはもちろんライアス。ったくもう。
「はい、わかりました。好きなように呼びますね。・・・では、幻さんで」
「だからやめいって!・・・って、え?」
「・・・すいません。冗談です。」
ミアさんの思わぬ冗談に、反射的に突っ込んではみたものの驚く。他の面子もそうだったみたいだが、
「あ~、あっついわ~。帰ろ帰ろ。」
「ああ、あとは若い方たちで」
「冷やかすのやめて~~;;」
ちゃかすエル様とライアス。
「えっと、マスター。では自分もこれで。お疲れ様です。」
ログアウトしようとするKlessさんに慌てて伝える。
「あっと、ごめんKlessさん。ギルメンの人たちには明日にでも会議の結果を、Hiroのこと含めて自分から言うんで、それでお願いします。」
「・・わかりました。では」
「はい、お疲れ様です。」
「Klessさん、お疲れ様です。」
<「Kless」さんがログアウトしました>
「・・じゃあ、ボルケーノの面子には俺から伝えとくかな。面白おかしく尾ひれをたっぷりつけて」
「面白おかしくされたくないので自分から言」「ギルマス権限で却下w」
くっそー暴君め・・と言いたいけど、傍目から見たら俺も同じようなもんか。人間反省って大事だよね。
「・・わかった。よろしくお願いする。」
「心得た。では本当に落ちるから。・・お疲れさん。」
「マスターの説明、今から楽しみwでは自分も落ちます。お疲れ様です。」
「うい、お疲れ。」
「お疲れ様です。」
<「ライアス」さんがログアウトしました>
<「エル様」さんがログアウトしました>
「さって、俺も落ちるかな。・・の前に、二人にいい?」
「はい?」「なんです?」
「・・俺さ、いつまで正座してればいいの?・・・リアル込みで」
「「え」」
顔を見合わせると言った感じのNaoさんとミアさん。こりゃ完全に忘れたてたな。
「すいません、正座はもういいです。・・というか、本当にリアルでも正座してたんですか?」
「してたんです。・・本当に反省してるんで。」
「「うわぁ・・・」」
ドン引きする二人。あ、こりゃ滑ったわ、予想してたけど。
が、しばらくすると、
「魚さん、ナイスww」
「マスターwwwww」
(あれ、ちょっとはうけた?)
自分でもびっくり。
しばらくそんな雰囲気でいたが、二人も落ちる旨伝えてきた。
「・・さて、私も落ちますね。お疲れさまです。ミアさん、魚さん。・・そして改めてよろしくお願いします。Hiroさん。」
「・・私も落ちますね。お疲れ様です。Naoさん、マスター。・・今後ともよろしくお願いします。」
改めて挨拶してくれるNaoさんとミアさん。
俺は若干感慨深く、返事を返す。
「・・こちらこそ。今後ともよろしくお願いします。お疲れ様です!」
― リアル ―
「っっと、・・次どれやれば?」
(やることが多すぎなんだよ!休む暇くれ~~)
「ちょ!・・電話、ああ、直接行った方が早い!」
スタッフのミスに気付き、私は慌てて伝えに動く。
「じゃあ、ちょっとスタッフと最終打ち合わせしてくるから」
「はい、よろしくお願いします。」
と言いつつもマネージャーはすぐに動かない。不思議に思う中、私を軽く見渡し、
「・・・大丈夫そうね。成長したわね、本当に・・」
とちょっと感慨深げに呟き、ここを離れた。
私はちょっと嬉しくなり、でもこれから私のする行動を考えると少し悪い気にもなった。
(・・えっと、こっちが社員さん用の通路だよね。・・間違って店内に出ないようにしないと)
まだ衣装には着替えてないし自意識過剰かもしれないけど、万が一ファンの人が見かけたら大変だもんね。
彼女はちょっとプロとして認識不足だった。今の彼女のファンに出会える確率は「文字通り万に一つよりは上」くらいなのだから・・
(う~ん、そうだよね。そんな都合よく会える訳ないよね。)
諦めて私が戻ろうとしたところで、女性の声が聞こえた。
「いた!長谷君、ちょっと!」
「部長?お疲れ様です。」
女性の声に答えた男の人の声に私はビクッとなり、恐る恐る声の方を見ると、探している人がいた!
「悪いけど大至急」「あ、あの!!」
知らず大声になった私の呼びかけに、二人はキョトンとした顔でこちらを見た。
(・・あれ?なんで彼女がここに?)
「あなたは今日イベントに来てくれた・・えっと、瀬戸、ミーナさんですね?」
「あ、はい。お忙しそうなところ呼び止めてすいません。」
私は部長と呼ばれていた、30代前半くらいの、如何にもキャリアウーマンと言った美人の女性の方に謝罪した。
「いえ、あなたは我々が呼んだ大事なゲストです。・・この社員用通路にいらっしゃるのにはやや眉をしかめますが、どのようなご用件でしょう?」
「えっと、その・・・そちらの長谷さん?にお礼が言いたくて。」
俺は驚いた。部長もやや驚いた顔でこちらを見る。
「・・こちらのオープニングイベントの際に、ゲストとして呼んで頂いた時です。極度に緊張する私に、それを忘れさせる言葉をかけてもらって・・そのお礼がしたくて。」
(あ、気づいてくれたんだ)
「・・君、そんな融通の利いたことしたの?」
あ、傷つくわ。
「・・確かにそういう意図もあってつい瀬戸さんに声をかけたんですが、今思うと図々しい発言も多かったと思います。むしろ申し訳ありません。」
「いえそんな!本当に感謝してます!ありがとうございました!!」
「君、一体何言ったの・・・」
深くお辞儀する瀬戸ミーナと、呆れ顔でこちらをみる部長。なんぞこれ・・
などと言っていると、
「あ、いた!ミーナさん、そろそろ着替えて!」
「あ、部長!指示お願いします!!」
慌てたように二人を呼ぶ声。そういえば、
「部長、急ぎの要件があったのでは?」
「・・です。の前に、長谷君、ちょっと待ってて」
私は懐から名刺を出し、両手で2度も来てくれているゲストに差し出す。
「・・自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はMO電気の皆口直と申します。本日のイベント、よろしくお願いします。」
「あ、こちらこそ。瀬戸ミーナです。・・名刺は今持っていませんでお渡しできませんが、精いっぱいやらせていただきます!よろしくお願いいたします!」
お互いに深々とお辞儀をする。あ、俺もしないと
「・・部下の君も名刺渡して、自己紹介くらいしなさい。」
え、俺も渡すの?
自分の名刺なんか逆に迷惑なんじゃと思ったけど、なんだか瀬戸さんの表情も心持ち嬉しそうに見えて・・いや、気のせいだな。うん。
「・・MO電気の長谷広です。瀬戸ミーナさん、本日はよろしくお願いします。」
この物語に仮に名前をつけるとしたらなんだろう?
・・そうだな、こんなのはどうだろう
「MMOとリアル(仮)」
MMOとリアル(仮) Syu.n. @bunb3
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