エピローグ
「へぇ……、そういう展開になったのね」
屋上の扉を少し開け、そこから星雲と水羽の様子を伺う影が一つあった。
「まさか……、星雲くんの方から告白するなんてねぇ。でも、水羽さんからは大好きオーラみたいなのが分かるけど、星雲くんからは全く伝わってこない。これはもしや…………」
その人物の名前は、時雨長門。レティルにトイレに行くと言い聞かせ、ここまでやってきたのだ。
「ふーん、やっぱりまだまだ何かありそうね。この学校……いいえ、星雲くんのもとに来て良かったわ」
時雨は、中学の時はトップレベルの学力を持ち、全県模試では必ず一位を取る天才だった。……が、高校入学の時、どんな進学校でも優に入れると言われたが、わざわざ平均レベルのこの高校に入学した。
「面白いわね……。水羽さんも漆原さんも」
入学初日、水羽に星雲と必要以上に近づくなと他のクラスメイト同様脅されたが、従わなかった。水羽とは違い別に星雲の事を恋愛的な意味で好きではない。ただ、少し変わっていて気になり、面白そう。それだけの理由で、水羽には従わず同じ高校に来た。
「これからも、裏でサポートするから私を楽しませてね……。お兄さん、フフフ」
そう言い残し、不適に笑ってその場から去った。
「星雲さん、水羽さんの事好きだったんですか?」
家に帰り、レティルからそんな質問をされる。
「いいや、全く」
「好きじゃないのに、なんで告白なんかしたんですか」
「そんなの決まってるだろ、この死のループから抜け出すためだ」
確かに、顔は美人だが人とし終わっている。好きだからと言って、殺すようなやつだぞ? そんなやつを好きになれるはずがない。
「なるほど、鬼畜ですね。男として最低ですね」
「うるさい、タイムリープして俺が傷つくのはいいんだ。でも、その過程で他人を巻き込みたくないんだ。もともとは、俺がタイムトラベルであいつと関わったからだから……」
前のタイムリープで、俺を叩いて時雨が殺されてしまった。ああいう事が、もうないようにだ。
「でも、好きじゃない人とそんな付き合っていたら、失礼じゃないですか? 相手は本気なんでしょ?」
「そうかもな」
「バレた時とか、やばくないですか?」
「確かにやばいかもしれない。だから今、セーブポイントをここに書き換える。いつ殺されてもいいようにだ」
もう、後戻りなんて出来ないしする気もない。
「覚悟出来てるんですね……。セーブポイントの書き換え方法は簡単です。タイムトラベルのように手にセーブと書き込むだけです」
そう言いながら、胸元に手を突っ込み中からボールペンを出す。
「何処から出してんだよ」
レティルから、そのボールペンを受け取り言われた通りセーブと書く。すると、タイムトラベルの時と同じような光が右腕に出現し、セーブという文字を書き消す。
「これで、セーブ完了です」
「そうか……。これで、もう後戻りは出来ない」
「星雲さん、なんか変わりました?」
「というと?」
レティルが、更に顔を近づけ言ってくる。
「なんというか、妙に落ち着いているというか。星雲さん、タイムリープのし過ぎで頭がおかしくなったんじゃないですか?」
「いや、そんな事は無い。ただ俺は、自分のした事に責任を持ち、そして償わないといけないだけだ」
まだ、俺にはやらなきゃいけないことがある。他の人にあいつの殺意が向かないように……、側に居続けないとな。
「まあ、私はなんでもいいんですけどね」
「お前は本当に、変わらないな……」
こんな、他愛もない話をずっとし続けれたらいいのにと、本気で思った瞬間だった。
「星雲くん。……あ~ん」
「いいよ、自分で食べれるから」
翌日、屋上で俺と水羽はお弁当を二人っきりで食べていた。
「星雲くん……。懐かしいね。三年前のこと」
「そうだな、お前が俺に泣きついたやつだろ?」
「忘れて…………。あれは、私の黒歴史だから」
それにしても、口調といい全て変わったよな。あの時は、お嬢様っぽかったのに今は無口っぽいコミュ障みたいな喋り方だ。
「執事さんって、まだ同じ人なのか?」
「うん、あの人私に体が動く限り仕えるって宣言してるから」
こいつにずっと振り回される人生か……。可愛そうだな。
「本当に、あの時はありがとうね。助けてくれて」
「ん? まあ、女の子があんなふうに不良に絡まれてたら助けるのが男ってもんだからな」
まあ、そのせいでタイムリープをしたり、そもそもの原因なんだがな。
「ふーんそうなんだ……」
何度も何度もタイムリープして、分かった。あいつらの事を嫌いだと口では言っていたが、本当は好きだったんだなと……。人として、友人として……。そうじゃなかったら、心配しない。役に立たないと思っていたが、タイムリープ……役に立つのかもな。
これからも、まだまだ活用するかもしれない。水羽を自立させるためにも……な。
「ねぇ……。恋人……、になったんだから……キスしても……いい?」
近くまで距離を詰め、上目遣いてそう訴えかけてくる。
「ああ、もちろん。付き合ってるんだから」
「分かっ…………た」
更に距離を詰め、唇を合わせてきた。それは暖かく、水羽をとても感じられ、何もかもどうでも良くなるような気持ちになる。だが……………、
そこに、アイなどはナイ。
〔 完 〕
アイナキモノのループする世界 ちょこふ @tyokohu
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