第23話 そして……

 子供は6時までということで、俺達はゲームセンターから追い出され公園で、一休みしていた。


「結局、俺の勝ちだな」

「くぅ……、次は絶対に勝つから!」


 辺りはすっかり日もくれ、公園内には誰も居ない。散歩している人が、ちらほらいる程度だ。


「それで、帰らないのか?」

「やだ、帰りたくない」


 まるで、小学生のようだな。


「喧嘩したとはいえ、心配してるんじゃない?」

「お母様なんて、私の事をこれっぽっちも考えてないのよ。毎日毎日、社長令嬢と言う事を自覚して行動しろって、言われてるわ。もう、うんざりなのよ。私だって、クラスメイトと遊びたい、クラスメイトとバカしたい……なのに、お母様は! あなたは将来、この国で一番の会社の社長になる者なの、そんな事を言ってる暇があったら、帝王学を学びなさいって!」


 女の子の顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっており、社長令嬢には見えない。


「でも、私は……。もっと遊びたい、もっともっともっと! 好きな事を好きなだけしたいの!」

「じゃあ、すればいいんじゃないか?」

「えっ? だから……、それだとお母様に叱られて……」

「いいか、確かに親は大事だ。大半の言う事を聞かなきゃいけない。だけどなぁ、全てを縛るのはおかしいと思う。それに何もかも従っているお前もだ。親に叱られる? 叱られればいいじゃないか、そうやって人間は成長していくんだ。そして将来、お前はトップに経つ人間だろ? そんなんが、親の言う事を従っていてどうする。未来は自分で開くもの、欲しいものは、自分の力で全て手に入れる。それがトップだろ?」


 女の子の頭をそっと撫でてやる。


「だからな、反抗してもいいんだぞ」


 女の子は、再び泣き出し俺の服をハンカチ代わりにする。女の子の涙に比べたら安いもんか。


「うん……。分かったわ、お母様に相談してみるわ」

「そうだな、あとは友達の作り方か。今まで散々ボロクソに言ったりお金を渡してたんだろ? それをどうするかだが」


 俺の友達は少ない……。だから、参考にならないかもしれないが、俺が思うこいつの悪い点を全て伝えよう。


「まず、その口調だ。正直うざい」

「どういうこどよ!」 

「ですわとか、ですことみたいなやつだよ。お嬢様っぽいのかもしれんが、うざいだけだから。友達の前ではやめたほうがいいな」  

「なんか、腑に落ちませんわね」


 お嬢様アピールしたら、お金目的の奴らが集まってくるかもしれないし、その予防にもなる。


「次に、上から目線だ。人をパシリ代わりにするな、対等な存在だと思え」

「上に立つものは、下々のものに命令と共に褒美を与えるのは当然の事だと思うわ!」

「その考えが、まず駄目なんだよ! それは部下であって、友達じゃねえから」


 友達にお願いするたびにお金払うとか、なんか悲しくなる。


「最後に、何度も言っているが金を渡すなと言う事だ」

「でも、お金を渡さなかったら友達やめる人とか、離れていく人もいるわ!」

「そんなやつは、友達じゃねえ。ただのお金が欲しくてお前に近づいたクズだ。だから、気にするな」


 そんな友達なら、俺は要らない。


「この三つをちゃんと守れば、友達が出来るはずだ。もっと、自身を持て」

「でも、そんな事をしたら嫌われるかもしれない……」

「そんな時は俺に頼れ。友達が出来ない、喋れないなら俺に頼ってくれていい。いつでも、相談に乗ってやるからよ」


 そうは言うものの、次にこの女の子と会うのは三年後になるんだがな。


「…………じゃあ、今の私達の関係って友達?」


 潤んだ瞳でこちらをじっと見てくる。だから、俺は言い放った。


「ああ、もちろんだ。俺達は友達だ!」


 女の子は、ニカッと笑いこちらに抱きついてくる。


「フフフ、そういやおま……あなた名前なんていうの?」


 伝えてなかったか……。


「俺の名前は星雲広樹だ」

「いい名前ね。私の名前は…………」


 その瞬間、足音と共に三人の男がこちらにやってきた。


「なんですか、あなた達。空気読んでくださる?」

「なんだ、俺らを忘れたとは言わせないぞ。あんな恥をさらされて黙っていられるか!」


 こいつら、さっき逃げた三人組か。まさか、こんなタイミングで出会うとはな。


 俺は、女の子に耳打ちをする。


「おい、お前は逃げろ。あいつら、ナイフを持ってるし。何をしてくるか分からない」

「でも、それはあなたも同じくらい危険でしょ。そんな……、初めての友達をこんなところで…………失いたくない!」


 女の子は目に涙を浮かべ、そう訴えかける。それに対し、俺はガッチリ腕を掴み目線を合わせる。


「だから、逃げてお前は助けを呼んできてくれ。それまでの時間は俺が稼ぐ。なに、心配するな、俺は居なくなったりしないからよ」


 そう言って、頭を撫でてやると堪えていた涙を流しながら走って行った。


「逃がすと、思ってんのか! 二人とも追え!」


 ちくしょう、このままじゃ逃がす意味がない……。どうすれば……、そうかあの手があるじゃないか。


 俺は、体の向きを二人の方へ向ける。


「お前ら、二人ロリコンの変態さんなんだな。そんな、小さな女の子を夢中で追いかけて」

「「ああ!?」」


 一瞬、動きが止まりこちらを向く。よし、成功した。いつもの、時雨の感じを真似しただけなんだが、やはり効果あったか。ああいう奴らは、変にプライドだけは高いからな。


「おい、お前らこいつにかまってないでとっとと、あのガキを追いかけて捕まえろ!」

「へぇ、捕まえてどうするんだ? 調教、それともレイプ? 流石、男としてクズですわぁ、引くわぁ」

「なんだと、てめえ。どういう状況か分かってんのか?」

「理解している。むしろ、俺が理解してないと思ってたの? うわぁ、頭悪。だから、人を襲ったりするんだぞ」


 我ながら、うざいなこれ。


「もう我慢出来ねぇ! こいつを殺す」

「おい、馬鹿共。言う事を聞けと何回言えば気がすむんだ。こんな、安い挑発に乗るな」

「そういう、一番リーダーぶってるやつが頭悪い。手下をろくに使えないようなカスだからか、そんな命令しか出来ないんだか」

「いま……なんて、言った」

「いやぁ、すまんすまん。バカでカス過ぎるあなたを見てつい本音を言ってしまった。失敬失敬」


 ついに、我慢の限界を迎えたのか、リーダー風の男がナイフを両手に一本ずつ装備した。


「お前、生きて帰れると思うなよ」


 この時代で、死んでもタイムリープ出来るか分からないが、今はやるしかない。


「無防備でか弱い男に対して、三人の男が寄ってたかるなんて、ロリコンじゃなくホモだったか」

「もう、喋れなくしてやる!」


 リーダー風の男が一番に動き、切りかかってくる。それを、俺はギリギリのところで避けることに成功した。ふぅ……、漆原につけてもらった練習がこんなところで役に立つとはな。


「うまく交わしたようだな」

「この程度じゃ、俺は殺せねえぜ」


 リーダー風の男は、両手のナイフで交互に攻撃してくるが、その全てを交わしきる。


「ちくしょう……ちょこまかと!」


 部下らしき二人も、加わり更に攻撃は激しくなるが、どうにかギリギリで全て交わしている。


「何だこいつは」

「俺はただの学生だ。ここで、引き下がるというなら、本気を出さないでやろう」


 ハッタリだが、これで帰ってくれたら嬉しいんだが。


「兄貴どうします?」

「ここまで、コケにされて黙っていられるか!」


 怒りの声をあげ、ナイフを投げた。


「な!?」


 いきなりの事で、反応しきれずそのナイフは顔をかすめ、硬直する。すかさず、リーダー風の男が拳で腹を殴ってきた。


「ガハッ」


 痛みで、俺はその場に倒れ込む。


「フハハハハ、ナイフだけだったようだな、お前が避けれるのは。おい、お前らこいつの腕をしっかり抑えておけ」


 リーダー風の男はそう言いながら、俺のうえに馬乗りとなり、あとの二人は言われた通りに腕を抑える。


「ちくしょう、離せ!」

「こうすれば、お前が何をしようと関係ない。俺達を馬鹿にした事をあの世で後悔しな!」


 リーダー風の男はナイフを腹の上まで持ってくる。終わりか……。タイムリープ出来るといいな。


 死を受け入れたその時、リーダー風の男の背後に一人の白髪おじいさんが立っていた。


「あなた、そこをどいてくれませんか?」


 殺そうとした所に水を刺され、キレ気味でおじいさんに食ってかかる。


「あぁ? なんだ、テメぇ。お前には関係ないだろ、クソジジイ。痛い目合わせるぞ」


 そんな安い挑発には乗らず、おじいさんは余裕を醸し出す。


「ホッホッホ、か弱い老人に向かってそんな事を言うとはのう。それに、目上の者にはしっかり敬語を使うものじゃよ。これが、警告じゃ。そこをどきなされ、どかない場合はそれ相応の対応をさせてもらう」


 今までの、のほほんとした優しいおじいさんという感じだったのが、瞬時に切り替わり、男達を威嚇する。


「やれるもんなら、やってみろよ。お前みたいなクソジジイごとき、居るも居ないも変わらないからな!」


 余裕ぶっこいた発言をした次の瞬間、おじいさんの足はリーダー風の男の頭を蹴り飛ばしていた。

 

 頭が強く動いたため、そのまま意識が無くなり気絶してしまった。


「なんだ、このジジイ強いぞ」

「リーダーの仇!」


 部下の二人は、腕を抑えるのをやめ、ナイフを持ちおじいさんに突撃していく。


「フン、あなた達ごときに殺られる、わたしではありません」


 蹴りをナイフを持つ手に当て、それを捨てさせる。


「なんなんだよ、こいつは!」

「今逃げると言うなら、この辺で勘弁してあげますが。いかがしますかな?」


 部下の二人は、リーダー風の男を担ぎ「おぼえてろよ!」という、三下風のセリフを吐き捨て、逃げて行った。


「痛てて……」

「大丈夫ですか?」

「はい、パンチを食らっただけなので」

「ところで、あなたが星雲広樹様で間違い無いでしょうか」

「はい、そうですが」

「やはりそうでしたか、この度はまことにありがとうございました! 感謝してもしきれません」


 いきなり、おじいさんは頭を下げそう言った。


「いや、頭を上げてください。感謝しきれないのは、こっちの方です」

「あなたはお嬢様を、一度ではなく二度も救ってもらい、更にお嬢様の友達なって頂いた恩人です。本来であれば、わたしが守らなければならないものを……」


 お嬢様……ってのはやはり…………。そう思っていると、例の女の子が歩いてきた。


「元はと言えば、私のせいなのに……本当にごめんなさい」


 女の子は、涙を流しうつむく。


「顔をあげろよ。友達なら、助け合うのが当たり前だろ? それに、お前は俺の言った通り助けを呼んできてくれた。それでいいじゃないか」

「でも、怪我をさせて……」

「男なら怪我の一つや二つするものさ。別に気にするな」

「でも……、でも……!」

「なら、こうしよう。俺の言う事を一つ聞いてくれ、それでどうだ?」

「私に出来る事なら。体でも」

「お嬢様様!?」


 別に、俺は小さい女の子とイチャコラしたいような変態じゃないし。そんな事は、絶対にしない。


「まあ、こうして俺達は友達になったんだが……、ちょっと今から俺は行くところがある。だから、次会えるのは三年後になるかもしれない……。それでもいいか?」

「三年後? ……せっかく、友達が出来たのに……。でも、これは私の償いと思えば……。分かった、我慢する。その代わり、三年後絶対に私の前に姿を現してね。約束よ」

「ああ、約束だ。指切りげんまん嘘ついたら針千本飲のーます、指切った」

「ちゃんと、針千本用意しとくから覚悟しなさいよ」

「それは、怖いな。アハハ」


 そうこうしてると、また別の女の子がこちらをじっと見ているのに気づく。


「えっと、誰? お姉さん?」 

「いいえ、あれは妹」


 妹!? えっと……妹ってことは年下……あれ? 姉より身長高くないか?


「あと、あの子の眼青だよな? お前の眼って赤じゃ」

「ああ、これカラーコンタクトってやつよ。家の人に追われたとき用にね」


 そのカラーコンタクトを外したその顔は……、かなり見覚えがあった。まさか、お前が……。


「じゃあ、待たね。私の友達の星雲くん」

「ちょっと待てよ! お前の名前はなんだ!」

「私は……、水羽。水羽光よ。それじゃあ」


 水羽はそのまま車に乗り込んだ。


「それでは、星雲さんお元気で。三年後、会える事をわたしも楽しみにしております」


 そう言い残して、おじいさんも車に乗り込み何処かへ行ってしまった。


「まさか……、あいつが水羽だったとは。いや、ちょっと待て。ということは、俺が歴史を変えてしまったのでは!? ヤバい、パラドックスが起きてしまう!」

「いやぁ、それはないでしょう」


 いきなり、後ろからそんな声と共にレティルが現れた。


「おい、脅かすなよ!」

「いやぁ、すいません。脅かしてそうにしてましたから」

「してねえよ! 脅かしそうして欲しいってなに、何処がどう見えたんだ!」

「あの子が水羽さんだったんですね」

「無視すんな!」


 はぁ……。合流したばかりで何なんだこいつは。


「それで、パラドックスがなぜ起きないんだ?」

「ああ、それですか。まあ一言でいえばこれが正しい歴史だからです」

「正しい歴史? というと……、どういう事だ?」

「んー、なんて言えばいいんでしょうね。つまり、水羽さんが救ってもらったって言っていた人が、この時代の星雲さんではなく三年後つまり、あなたに救ってもらったということです」

 

 よく分からないが、タイムリープで戻って救って良かったのか。


「それじゃあ、やる事も終わりましたし、元の時代に戻りましょう」

「そうだな、えっとボールペンボールペン」

「あっ、さっきの買ってきたのでこれを使ってください」


 レティルから受け取った、ボールペンを使い元の世界へと書き込んだ。その瞬間、ここに来たときと同じように光に包まれる。








 瞬きをした次の瞬間、見慣れた俺の部屋に戻ってきた。


「半日くらい、あっちで過ごしたからな、なんか久々に戻ってきた気がするな」


 体を伸ばし、少しだけ疲れを癒やす。


「それで、星雲さん。これからどうするんですか?」

「今考えている、お前は学校に行く準備でもしててくれ」

「分かりました」


 レティルは気の無い返事をし、俺の部屋から出ていく。


 もとはといえば、全て俺の責任か。タイムトラベルしなければ、過去の水羽と合わず、俺と関わることもなくなった。そうすれば、多分今あいつはあそこには居ないし、殺されてタイムリープするのをどうこうしようなどとも考えなかっただろう。


 だけど、それでいいのか。俺があいつに言ったからこそ、あいつは自由になれたんだと思う。あいつの家のことだ、本当は市立の優秀な進学校に入れるだろう。だが、あいつは俺を探し求め、同じ高校に来た。そう、全ては俺の責任だ。友達が出来ないのも、何もかも全て俺が悪い。だからこそ、それに対する責任は取らなくちゃいけない。このタイムリープに終止符を打つ。








「どうした……の? こんな所に呼び出して…………」


 昼休憩に、俺は水羽を屋上へと呼び出した。時雨と漆原はレティルに任せておいた。あいつらが居ると、話せる話も出来なくなるしな。


「ああ、お前に大事な話があってな」

「大事な……話?」

「そうだ。じゃあ、まずはお前の誤解を解こう。昨日、俺とレティルがキスしたのをお前……見ていたな? あれは、事故だ。したくてしたわけじゃない」


 まず水羽が、俺を殺した根本的な原因を訂正しなくてならない。元々、これが原因で今まで抑えていたものが爆発したらしいからな。


「よく、分かったね。私が見ていたって…………。気づかれてないと、思ってた………」

「それと、俺は全て思い出した。三年前の会いに来るってのを今果たしに来た」


 それを聞くと、水羽は目を見開き口をパクパクさせ驚いていた。


「えっと…………本当に?」

「ああ、全てだ。そして、俺は今お前に伝えたい言葉がある。それは……」


 水羽の肩をガッチリ掴み、言い放った。


「俺は、お前が好きだ! 付き合ってくれ」


 いきなりのその言葉に水羽は混乱しているのか、目を丸くしている。


「えっと、付き合うって……。何処に付き合えばいいの?」

「馬鹿、交際って意味だ」

「交際って、あの男子と女子が彼氏と彼女になるあれ?」

「ああ、そうだよ」


 そこで、やっと現状を理解したのか水羽の顔が真っ赤になり叫ぶ。


「えぇぇぇぇぇぇ!? ほっほんとに……私なんかで、いいの?」

「ああ、お前以外に誰が居るんだ。俺はお前が好きなんだ、だから本当にレティルとのあれは事故なんだ。信じてくれるよな?」

「うん……、信じる。えへへ、星雲くんと付き合える」


 水羽の顔は、いつもの無表情ではなく、喜びに満ち溢れている笑顔だった。


「ねぇ、星雲くん。……三年前みたいに、抱きついてもいいかな?」

「ああ、もちろんだ」

「わーい」


 水羽は俺の胸に向かって飛び込んでくる。本当に、かわいい彼女だよ全く……。


「星雲くん、星雲くん!」


 これで、よかったんだ…………。


「じゃあ、これはもう要らないかな?」


 そう言って、水羽が胸ポケットから取り出したのはいつぞやかの写真入れ。そして、そこに挟まれている俺の写真だけ抜き取った。


「俺の写真か?」

「うん、そう。これを…………」


 それを、水羽は空へと捨てた。


「な、何をしてるんだ」

「星雲くんと、ずっと居たいっていう願いがかなったから。あれは要らないと思って」

「だとしたら、ゴミの不当投棄じゃないかそれ」

「その点は大丈夫。執事に拾わせるから」


 なんか、大変そうだな執事さん……。





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