第22話 お嬢様に連れられて

「はぁ……はぁ……」


 かなりの長い時間走り、時雨から逃げ、人が寄り付かない裏道に入った。。これくらいしないと追いか

けてくるかもしれないからな。


 呼吸を整え、行こうとするとすぐ近くから声が聞こえてきた。


「おい、可愛いじゃねえか。ちょっと遊ばないか?」

「…………」


 女の子が不良達に絡まれているようだ。あの身長……、この不良達ロリコンか? というか、見たことあるなこいつら……。確か、いつぞやかのタイムリープでなんか因縁を付けられた奴らだよな……。まさか、こんなところに居るとは。

 

「なんとか言えよ、ああ!?」


 やばい、このままじゃあ女の子が殴られる。流石に、それをはたから見てるだけというのは心苦しい。


「おい、やめろよ!」


 女の子の前に出て、不良達を牽制する。


「なんだてめぇ、ぶち殺されたいのか? ああ!?」


 胸ぐらを捕まれ、恐喝される。怖いけど、あの時の水羽に比べたら対したことはない。


「そんな、男が寄ってたかって女の子を殴ろうとしたのはどうかと思うぞ」

「お前には関係ねぇだろ!」


 不良に殴られ、その場に尻もちをつく。いってぇ……、だけど刺された時の痛みよりはましか。


「なんだその目は」


 ここで怯んでは、殴られた意味がない。立ち上がり、拳を構える。


 もしここで死んだらどうなるんだ? タイムリープして元の時代に戻る事が出来るのか? まさか、本当に死ぬ……とか。だとしたら、ヤバいな。よし、あの作戦で行こう。


「ほう、やる気か。三対一だぜ? しかも、こっちには武器もある。勝てると思ってんのか?」

「勝てないと思っていても、男には戦わなきゃならない時がある。正々堂々勝負だ!」 

「ほう、その男気だけはかってやるぜ」


 相手が武器を構え、こちらとの間合いを取る。そして、俺は大きな声で叫んだ。


「助けて、誰かぁ! おまわりさん呼んでくれ!」

「おいこら、正々堂々って何だよ!」

「お前らだって、武器を使ってるだろ。お互い様だ」

「このやろう……」

「「兄貴!」」

 

 怒った不良が、武器を向け攻撃しようとしてきたところを二人の部下が静止する。


「お前らどけ! あいつを殺さないと俺の気がすまねえ」

「ここで、時間を食って警察に捕まったりしたら元も子もないねぇですぜ」

「そうですよ。ここは、一旦引いてそのうち復讐すればいいですよ!」

「くっ……。分かった、引けばいいんだろ引けば!」


 逃げる前に、不良は一回こちらに振り向く。


「夜道には気をつけな!」


 捨て台詞ってやつかな? そのまま不良達は、更に細い道に入っていった。


「ふう……、君はなんでこんなところにいるの? 大丈夫?」


 女の子は、銀髪で赤い目をしており身体は完全に成長していないようだ。


「日本語喋れる?」

「もちろんですわ」


 ん……? ですわって処かのお嬢様なのかな?


「えっと……、家何処か分かるかな? というか、迷子?」

「迷子じゃないですわ……。汚い手で気安く触らないでくださる?」

「ああ、スマン」


 なんだろう。時雨や水羽、漆原とはまた違ったうざさを感じる。


「こんなところで、一人で居たら危ないよ?」

「危ない? そんなわけないじゃない。わたくしはこれでも強いのよ」

「だからといっても、小学生がこんなところで一人でいちゃだめだぞ」

「私くしは、小学生じゃありません! 中学生です!」


 中学生!? にしては、成長が遅いような……。


「何処をジロジロ見ているんですか、汚らわしい」

「別に、胸が小さすぎるとか全く思ってないからな!」

「この変態! まさか……、わたくしを助けたのも、卑猥なことをするために……。助けてぇ、痴漢ですわ!」

「お前みたいな子供に痴漢するわけねぇだろ! 俺はちょうどいいサイズが好きなんだよ」

「子供相手に、何を口走っているのかしらこの変態!」


 何なんだこいつは! 初めてだ、ここまでうざい中学生に会ったのは。でも、関わってしまったのはしょうがない、最後まで付き合うか。


「それで、なんでこんなところに居たのかな?」

「変態には、関係ない事だわ」

「教えてくれたら、遊んでやるぞ?」

「ええ、本当に!?」


 目をキラキラと輝かせこちらを見る。こんなことでいいのか、やっぱり小学生なんじゃないか?


「実は……、お母様と喧嘩してしまって…………。それで家を出てきてしまいましたの」

「なんで、喧嘩しちゃったの?」

「それは…………、言えないわよ」


 母親との喧嘩か、まあ良い所のお嬢様ぽいし、色々あるのだろう。


「でも、ここにいる理由を教えてたから、遊んでくれるのよね?」

「ああ、もちろん。約束だからな。でも、今俺は探している奴が居るんだ、そいつが見つかったら終わりだがいいか?」

「まあ、それくらいならいいわよ。それでどこ行く?」


 どこ……か。これと言って、思いつかないな、強いて言うならゲームセンター? でも、いつも行ってる場所は三年前の俺がいるし。…………そうだ、確かちょっと行ったところに小さいゲームセンターがあったはずだ。


「それじゃあ、ゲームセンター行こう」

「ゲームセンター? 何処ですかそれは?」

「まあ、色々遊べる場所だよ」

「面白そうだわ!」


 そう言って女の子は、はしゃぎ走り始めた。


「早く早く!」

「待って、俺が先に行くから! 場所分からんだろ?」









 俺たちが来たのは、人一人としていない、こじんまりとしたゲームセンターだ。


「ここで、本当に遊べるの?」

「ああ。じゃあ手始めに、あそこのあれやってみるか?」


 そう言って俺が指したのは、ゲームセンターにありがちのなんの変哲もないクレーンゲームだ。


「これ、どうやってやるの?」

「まず、そこにお金を入れるんだ」

「お金? この大きさじゃ入らないわよ?」

「何言ってんだ? 絶対入るから、やってみろ」


 女の子は、財布から何故か一万円札を取り出し、百円を入れる場所に無理矢理突っ込もうとしている。


「なにやってるんだ?」

「だから、お金を入れるんでしょ? だから入れてるの」

「お金って、一万円札の事じゃねえよ百円玉の事だよ!」

「百円玉? なにそれ」


 こいつまじか!? お嬢様だからって、百円玉を知らないことなんてあるか?


 財布から百円玉を取り出し、時雨に見せる。


「これが、百円玉だ。見たことくらいはあると思うが」

「うーん、あるような無いような」

「いや……じゃあ、今までお釣りとかどうしてたんだよ」

「うーん、大体連れにお金を渡してお釣りはあげるから買ってきてって言うから。飲み物とか」

「えっと……、ちなみにそのお金っていうのは千円?」

「一万円だけど?」

「いや、高えよ! なんで一万円札だよ、千円札で十分だろ。つうか、そもそも人をパシルな、友達無くすぞ!」

「友達なんて…………」


 あれ、地雷ふんじゃったかな?


「すまん、悪かったよ。ほら、両替してきてやるから」


 女の子の一万円札を受け取り、両替機を探すが何処にもない。


 古いから、店長と直接両替するのか?


 そう思い、俺はカウンターへと向かう。


「すいません、両替したいんですが」

「ほほう、お客さん。それ、今カツアゲしたやつじゃないの? だめだよぉ、そんな女の子からお金を取っちゃ」

「いや、違いますから。一緒に入ってきたの見てなかったんですか?」

「ほっほっほ、近頃目が悪くてなぁ」

「あそこの、クレンゲームは見えるのに?」

「ちょうど、入ってくる辺りが見えないんじゃ」

「都合のいい目だな!」


 なんとか、納得してもらいお金を両替する事に成功した。


「ほらこれが、両替したやつとお釣りだ」

「要らないわ、一万円以外のお札なんて」

「いいから持っておけ、一円を笑うものは一円に泣くって言葉知らないのか?」


 俺は女の子の財布を取り、そこに無理矢理入れる。


「ああ、ちょっと」

「いいか、人にそんな簡単にお金を渡すな。分からないかもしれないが、お金っていうのは大切なんだぞ。お金があるから、家があって温かい家や家族があるんだ。それを忘れちゃいけない」


 俺の母さんは、父さんの会社が倒産して、お金が無くなって出ていった。だからこそ、お金の大切さは身にしみて分かっている。


「だから、人に気安くそんな大金をあげるな。分かったか?」

「なんで、この私があんたなんかに命令されなきゃいけないの?」

「じゃあ、言う事を聞かないならこのクレンゲームが終ったら俺は帰る。いいのか?」

「んな!?」


 確かに遊ぶとは言った、だからクレンゲームというなの遊びをしたら帰れるという屁理屈だ。


「それで、どうする?」

「うっ……分かったわよ。あんたの言う事を聞けばいいんでしょ」


 子供なんてチョロいもんだな。


「それで、これどうやって遊ぶの?」

「じゃあ、まずは俺がお手本を見せよう」


 百円玉を入れ、開始する。お手本と言っても、俺はそこまでクレンゲームは上手くない。むしろ下手なまである。ゲームセンターに通っていた時も、格ゲー以外にも銃ゲーやコインゲームなどはやったが、クレンゲームはほとんどやらなかった。単に、ほしい物がないからなんだが。


「このボタンで、あの上にあるアームを動かしてそこにあるぬいぐるみを取ればいいんだ」

「へー」


 アームはぬいぐるみを掴み上まで上がっていくが、途中で落ちてしまった。


「あ! おしかったなぁ」

「なるほどね。ここらへんのやつは、全部クレンゲームってやつでいいのかしら?」

「え? ああ、そうだ。特に変わったクレンゲームとかもないから、全部同じだ」


 女の子は、説明を聞くなり俺のやっていた台には目もくれず、一目散にある台に向かっていった。それは、白い猫のぬいぐるみがある台だった。


「かわいい……」

「へぇ、意外とそういうの好きなんだな」

「うるさいわね、いいじゃない別に」


 やっぱり、子供だな。女の子は、百円玉を入れプレイし始める。なんと、ワンプレイでそのぬいぐるみが取れてしまった。


「案外楽なものね」

「えっ……普通に凄いと思うんだが」

「これが才能……かな」


 初めてで、景品を取れるのものすごいのに、更にワンプレイとか……。ヤバいな、こいつ。


「まあ、ほしいものは手に入れたわ。それで、次は何する?」

「なら、あそこの銃ゲーで対戦しよう。俺の本当の実力見せてやるよ」


 二人プレイモードで、スコアを競った……。結果惨敗。初めてのはずなのに、なんでこんなにこいつは上手いんだ。


「ふーん、楽しいけど相手がつまらないわね」

「なんだと? 分かった、そういうこと言うなら、あれで勝負だ!」


 そう言って、指した先にあるものは格闘ゲーム。過去の俺が現在大会でやっていてなおかつ、タイムリープの時に遊んだあれだ。


「ふーん、あんた強いの?」

「ああ、もちろんだ。この格ゲーはかなりやり込んだから」

 

 女の子は、あら方チュートリアルをやった後、すぐさま試合を挑んできた。


「操作は大体分かったわ。まあ、負けることはないでしょ。あなたごときにね」

「せいぜい言ってろ」

 

 二人対戦モードで、俺は大男。女の子も同じく大男を選択した。年上の維持を見せてやる、初心者だろうが本気でいかせてもらおう。


 Ready Fight! という文字が画面に表示され、始まった。


 速攻で突進させ、相手キャラにパンチをする。……が、普通にガードされそのままアッパーでダウンさせられる。


 そう、ここは三年前……つまり俺の見つけたバグが修正される前の話だ。つまり、あの絡めてが使える。


 俺は、コマンドを打つ。すると、そのキャラはダウンしながら動き始めた。


「なに、その動き! チュートリアルには乗ってなかったわ」

「チュートリアルだけが、ルールだと思うなよ!」


 そんなこんなで、勝利をもぎ取った。


「くぅ……。もう一回勝負よ!」

「ああ、受けて立つぜ!」


 次は、相手キャラはダウンさせないように攻撃してきた。なので、こっちは大技を決め勝利した。


「もう一回!」


 何度も何度も勝負しやり、そのつど俺は勝利した。


「くそう、なんで勝てないの!」

「技量の差ってやつだ。そんな、何でもかんでも、初めてで勝てるとお思うなよ」

「ぐぬぬ……」


 スカッとした瞬間だった。

 




 

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