第21話 時雨と下ネタ

 ゲームセンターの中に入ると、人がひしめき合い盛り上がっている。


「うるさいですね、なんですかこの人達」

「大会なんてこんなもんだ。ここらへんだとここがゲームセンターとして一番大きいし、ここで勝つと次の県大会に出れるからな」


 なんか、懐かしいな。確かこれが初めての大会だったんだよな。


「あれって、星雲さんじゃないですか?」

「ん?」


 レティルが指した先に居たのは、三年前の俺だった。よかった、厨二病とかそんな黒歴史がなくて。あったら、絶対こいつに馬鹿にされるからな。


「星雲さん、あなたはここから離れてください。もし、過去のあなたと会っ

たらパラドックスが発生する可能性があるので。あなたは、水羽さんを探してきてください」


 確かにそうだな、俺自身も消えたくないし。


「分かった。……て言ってもどこに探しに行けばいいんだ?」


 あの時、聞いておけばよかったな。水羽にどこで俺に助けられたのか……。


「知りませんよ、でもここに居るよりかは安全ですし、何があったのかもっとよく知れるでしょう」


 まあ、レティルの言う通り消える危険性もあるしここに居るよりかは、ましか。

 三年前の俺に見つからないように、ゲームセンターの外に出た。


「取り敢えずどうしようかな? ブラブラ、散歩でもするか。水羽が居る場所分からないしな」


 確かまえに救われた……って、言っていたのは公園だった。まあ、ひとまずそこに向かってみるか。そんな事を考えながら、辺りを見渡すと一人の女の子がこちらを見ていた。なんか……、見覚えあるような。


「お兄さん、なんで私をじろじろ見てるんですか?」

「いや、別にじろじろ見ている訳では……」


 その女の子は中学生くらいで、整った黒髪の長髪。背に比べて成長しているスイカのような胸。なんというか、何処かで見たことがあるような……。


「なんですか、レイプでもする気ですか?」

「あっ! お前まさか、時雨か?」

「なんで、私の名前を知ってるんですか!? まさか、お兄さんストーカー?」


 公共の場で、こんな変態発言をしそうな中学生は時雨しかいなさそうだしな。


「いや、ちょっとな……」

「ちょっと? ちょっと私としたいから、私にストーカーしてたんですか? そんなんだから、息子のサイズも豆と同じくらいなんですよ」

「ストーカーじゃないって言ってんだろ! それに、もっとデカイに決まってんだろ」

「子供になに言ってるんだか……」

「お前が、先に言ったんだろ!」


 何だこいつ、中学の時からこんなのだったのか。


「まあ、冗談はこの辺にして。ものすごく深刻そうな顔してましたが、大丈夫ですか?」


 いきなり、顔を近づけそう聞いてくる。うっ……、やっぱ顔だけはいいんだよなこいつ。


「えっと……その」

「なに赤くなってるんですか?」

「赤く!? いやなってないよ。まあちょっと考え事をな」


 顔に出てたのか……、まさかいつも顔に出てたり!? いや、だとしたら時雨や漆原が煽ってくるからそれはないか。じゃあ、これはなんだ俺は、ロリコンなのか? まさか、ロリに興奮する変態なのか。落ち着け、そんな事はない俺は、ちょうどいいサイズの胸があって身長もそこそこある女の子が好きだ。…………って、それじゃあ、漆原じゃないかぁ!


「なに、頭抱えて苦しんでるんですか?」

「えっ? ああ、いやなんでもない」


 俺は、ちょうどいいサイズの胸・そこそこの身長・良い性格。この三つが揃った女の子が好きだうん。


「それはともかく、考え事ですか。何があったんですか? 私で良ければ、力になりますが」

「いや、一人で考えたいんだ。だから、こうして考えをまとめるために散歩しているわけで」

「なるほど、散歩をして女の子を見つけたらついでにレイプしようと思ってたと。男として最低ですね」

「しねえよ! そんなことしたら捕まるだろうが!」

「つまり、捕まらないならやるって事。最低ですね」

「いや、どちらにせよやらねえからそんな事!」

「そのヤラねえからは、交わるという意味でいいんですか?」

「いいわけねぇだろ!」

「つまり、それ以外はやると……。やっぱ、最低ですね」

「うがぁぁぁ!」


 なんなんだよ、まじで。ワンちゃん、今よりもうざいんじゃないか。


「どうですか? 少しはガチガチに固まった頭が柔らかくなったんじゃないですか?」

「ん、どういう意味だ?」

「私の好きだった友達の受け売りなんですけどね。その人が言ってたんです。どんなに苦しい人でも低俗な下ネタを言うと、笑うかツッコムか、一瞬でもそんな苦しい事を忘れられる事が出来るって」


 だから、毎日のように言い続けていたのか……。あれ? だったって事は、今は好きじゃないってことか? それとも……。


「まさか、その人はもう……。」

「ええ。あの人はそう言っておきながら、自分はイジメられずっと苦しんでいたはずなのに、私には打ち解けてくれず、そのまま自殺してしまいました」


 そんな過去が、こいつにあったなんて……。


「だから、決めたんです。深刻そうな顔をしている人や仲の良い友達には下ネタを言って、少しでも悩みを飛ばしてあげようって」

「とはいえ、それをやってたら皆お前から離れていかないか?」

「それで、人が離れていっても、本当に辛い人の力になれるならそれでいいですから」


 何度も何度もやめろって言ったのに、一向にやめなかったのにもちゃんとした理由があったんだな。


「人に話すようなことじゃありませんよね、すいません」

「いや、別に謝らなくてもいいさ」

「そうですか? 良かったです……。それで、何を悩んでいたんですか?」


 タイムトラベルの事を言う訳にもいかないし、誤魔化しておくか。


「いや、時雨のおかげでなにをそんなに悩んでたか、忘れたよ。ハハハ」

「フフフ。それなら、よかったです。暇ならどっか遊びに行きません? もちろん、ラブホテルとかそういう意味じゃないですよ」

「分かってるから、いちいち言うな。そもそも入れるのか? それに、俺はちょっと別の用事を思い出したんで、そろそろ行くよ」


 そろそろ、行かないとなんの目的でタイムトラベルして来たか分かんないしな。


「用事ですか……。なんの用事か聞いていいですか?」


 考えてなかったな……、女の子を探しに行くなんて言ったら、それこそロリコン扱いされるだろうし。


「これから、デートなんだ」

「空気の彼女とかいたいですよ?」

「いや違う違う、これから会うんだよ」

「へー、そのままラブホに連れて行くんですか?」

「連れて行くか! 別に俺にはもうそっち系の言葉を使わなくていいから」

「そっちって、どっちですか?」

「そっちっていうのは、下ネタというかエロワードというか」

「うわー、こんな可愛い女の子がそんな事言うはずないじゃないですかヤダー」

「今まで散々言ってきたやつが何を言う!」


 まさか、タイムトラベルまでしてこいつに体力を使うとは思わなかったぞ、全く。というか、自分で可愛いっていうのか。


「俺はそろそろ本当に行くぞ」


 そう言って、歩き出すと後ろからテクテクと付いてくる。


「ついていっていいですか?」

「だから、駄目だって!」

「いいじゃないですか、減るもんじゃないですし」

「彼女とのデートに女を連れて行く奴がいるか!」

「それじゃあ、妹ですとか言って誤魔化せばいいんじゃないですか?」

「すまんな、俺の彼女は俺の妹を知っている」

「それじゃあ、連れ子……とか」

「もっと不審がられるわ!」


 高校生で連れ子で、この年。俺は何歳で子供ができたことになるんだ。


 はぁ……。こいつからどうやって抜け出せばいいんだ。いや、まて。こいつが、時雨ならあの手が聞くはずだ。


 俺は、自分の向かいたい方向と逆に指差し言い放った。


「あっ、あっち全裸のカップルが!」

「えっ!? 何処何処何処!」


 そして、俺はレティルがこっちを見ていない間に急いで逃げた。









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