第20話 タイムトラベル
「なんで……お前が、俺を殺そうとするんだよ!」
「なんで……か。フフフ」
不気味な笑みを浮かべながら、こちらを見つめる。
「友達じゃなかったのか? 俺ら!」
「友達……、そうだね」
「じゃあなんでだよ! ゲームセンターに行ったり、一緒に昼を食べたり。だったらなおさら、なんで俺を殺すんだよ!」
俺はこいつの事を嫌っている。だが、友達だと思っていた。数少ない友達。なのに……どうしてどうして。
「私は……あなたの事がずっと前から好きだったの」
好き……? ふと、最初のタイムリープをする前を思い出す。レティルの「あっちはそうじゃないかもしれませんけど」これって……、水羽の事を言っていたのか。
「じゃあ、なおさらなんでだ。好きな奴を殺すんだ」
問に対し水羽は、目を見開きねっとりとし口調で答える。
「好きだから、他の人に取られたくない。星雲くんを私だけのものにしたい。他の人に優しくしたり話しかける星雲くんなんて嫌だ。私だけを見て私だけを愛してほしい」
好き、愛してる。初めて、女の子から言われた。こんな状況じゃなかったら、素直に嬉しいが。
「でも、今までそんな素振りはなかったじゃないか」
「だから、ずっと見てた。どんな時でも、毎日後ろからずっとね」
ストーカーも、俺に対して行われてたのはそういうことか。それに、好きな人をストーカーしなくていいのかって気いたいときに、してるって答えたのか。
「どうやって、侵入したんだ」
「普通に、ピッキングして入ったよ。ものすごく簡単だったから」
ちゃんとレティルの言う事を聞いとけば、よかった。警告してくれていたのに……。
「そんなに愛していて、自分のものにしたいっていうのになんで、俺を殺す!」
「今までずっと我慢してたんだよ。星雲くんを触りたい、触れられたい、嗅ぎたい、髪の毛を食べたい、交わりたいってね……。でも、我慢の限界が来たんだよ。昨日の話、何か心当たりあるんじゃない?」
昨日? というとつまり、あれか。レティルが空から降ってきて、何故かキスしたあれか? まさか、それも見ていたって事か。
「お前は何か、誤解しているぞ。レティルは俺の妹だ。家族として好きな妹にキスする気持ちは、分かるだろ? お前も妹が居るな…………」
俺の言葉を遮り、水羽はキッパリと告げる。
「レティルさん……って、星雲くんの妹じゃないでしょ?」
なん……だと。こいつ、なんでその事を知って…………。ここは、誤魔化さないと。
「何言ってる。レティルは正真正銘、俺の妹だ」
「証拠はいくつかある。私は星雲くんの家族事情を全て把握しているの、前々から。それで、突然レティルという人が妹と言って現れた。この時点でおかしいよね? それに、一番早く終わるDNA検査をさせてもらった……。それでも、一致しなかった」
父さんと小夜の記憶を書き換えただけで、他は変えてないからか。もっと、完全に妹にしておけば……。
「レティルさんは、星雲くんの妹ではなく、赤の他人。そんな他人とキスしていた。それが、どうしても許せなかった」
「だから、俺を殺すのか? 意味が分からないな」
空から落ちてきて、何故かあいつはキスをした……。あれがなければ……。
「確かに私は星雲くんを殺す。でも、星雲くんは、私の中で永遠に生き続けるんだよ? 素晴らしいと思わない?」
こいつ、本気の目だ。本気でそう思っていやがる。
「アハハハ、愛してるよ星雲くん。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」
不気味な笑みを浮かべながら、そう言い続ける。
「お前、おかしいぞ。狂っていやがる」
「何言ってるの? これはただの純粋な愛だよ? 星雲くんのためなら何でもするし、星雲くんを手に入れるためなら何でもする。今までもそうしてきた」
今まで? どういう事だ。
「何を……したんだ?」
「アハハハ、例えばぁ星雲くんに女の子を近づけさせないようにしたりね」
「どういうことだ?」
「高一の時にね、クラスの女子に言ったの。星雲くんに近づいた人は、お金の力を使って退学にさせるって」
まさか……、友達が出来なかったのではなく、そもそも出来ないようにされていたのか。
「まぁでも、二人ほど言う事聞かなかったんだけどねぇ」
「漆原と時雨か」
確かに、時雨はともかく漆原はそんな要求聞くはずもないか、馬鹿だし。でも、時雨は何故それを断ったんだ?
「うん、だから脅したんだよ。私以上に近づいたら、容赦しないって」
いつもの眠たそうで、何を考えているか分からない表情ではなく。狂気と殺気と怒りと愛を混ぜたようなぐちゃぐちゃな顔をしている。
「だからねぇ、私。時雨さんを殺したの」
「え……、お前なにを言って」
時雨が、死んだ? 俺の言葉を遮り、水羽は話し始める。
「今日の昼に、私が行こうとしたらその前に時雨さんが、星雲くんところに言ってビンタしてたでしょ? だから、殺したの。私の胸元に入っているナイフでね」
そこを、確認してみると血塗れのナイフがあった。まさか、前のタイムリープで、一回だけ漆原が早退した事があった……。まさか、それもこいつがやったのか。
「お前は……本当に狂ってる。そんなものは愛じゃない。ただの自己満だ。俺を殺したら、もう喋れなくなるし、感情や心も何もかも失われるんだぞ。それでもいいっていうのか」
そう言うと、水羽は唇を噛み目を一瞬そらしたが、すぐにさっきまでの表情に戻った。
「そんな事は分かってる。でも、殺さないと、私のものにならないし他の女と喋るかもしれない……。それは絶対に嫌だ。それなら、殺したほうが何倍もマシ」
その言葉は、何処までも冷たく俺の心に突き刺さった。
「私は、ずっと好きだった。ずっとずっと、なんで気づいてくれないの? こんなに愛してるのに。あの日助けられた日からずっとね」
「助けた? お前はなんの話をしているんだ」
「フフフ、忘れもしない私が中学二年の五月三日。私は星雲くんに助けられ、恋に落ちた」
中学二年? そんな記憶はないが、どういう事だ。流石にこんなやつに会えば覚えていそうだが。
「それより、そろそろ離してくれない? 動きづらいんだけどなぁ」
「離すわけないだろ、殺されるのに」
「そう……なら……」
背後から、誰かに刺された。
「グハ……」
口から血を吐き、水羽に倒れ込む。
「何を……しやがった……」
「私を選んでくれないなら、私の中で永遠に生き続けもらう。フフン、安心して星雲くんの好きなレティルさんも漆原さんもあの世に送ってあげるから、寂しくないよ」
うっ……、もうどうする事も出来ないか。まさか、最後に見るのが水羽の顔とはな。
「大丈夫、ずっと一緒に居てあげるから……」
水羽に、内ポケットに入っていたナイフで刺された。
「愛してるよ、星雲くん…………」
その言葉を聞いたのを最後に、俺はこの世を去った。
…………。ジリジリジリという、スマホのアラームによって目覚める。これでもう、七度目の朝か。まさか、水羽が殺人犯だとは思いもよらなかった。どうして……、どうして……どうして。
なんで、あいつが……。友達のはずなのに……、数少ないなのに…………。
俺は、今までなんのためにタイムリープしていたんだ。このずっと続くループを終わらせるため。……いや本当にこのループを終わらせるためだけか? 俺がこのループを終わらせるために、あいつらがなんで犠牲になったんだ。レティル・漆原・時雨。
水羽……。なんで、どうして狂ったんだ。好きな人を手に入れてたいために殺す……。そんやつじゃなかったら、こんな事にならなかったのに……。
そう考えていると、自然と涙が出ていた。
「ア゛ア゛ア゛アぢぐじょう。俺は……、どうすればいいんだ。どうすれば……、どうすれば」
下に俯き、そう呟く。すると、後ろからいきなり殴られ、ベッドに頭を打つ。
「いきなりなんだよ、レティル!」
「そんな、どうすればどうすればなんて、言っていたら流石に心配にもなりますよ」
「心配して居るのに殴るのか……。今は、お前に付き合ってる暇は…………」
そう言いかけたところで、パチン! という音ともに、俺は頬をビンタされた。
「だから、どうすればいいのか。私に相談すればいいじゃないですか! 一人で抱え込んで。それでも、男ですか!」
いつにもなく、レティルは真剣で強い言葉を放った。
別に……、一人で悩まなくてもいい。今までのタイムリープでも、そうしてきたじゃないか。
「ああ、すまなかった。じゃあ、相談に乗ってくれるか?」
「もちろんです」
俺の問に対し、レティルは満面の笑みで答えた。まさか、こいつに救われる日が来るとは思わなかったな。レティルにこれまでの経緯を全て説明した。
「なるほど、そんな事が……」
「ああ、どうすればいいと思う?」
根本的な原因のレティルとのキス。だが、セーブポイントがこの時間になっているため、それを変えることは出来ない。
「難しいですね。水羽さんを殺す……、というのを思いつきましたが、どうですか?」
「無論却下だ。殺人犯になったら、あいつと同じじゃないか」
殺しては意味がない。それこそ、こうやって悩んだのは意味がない。
「じゃあ、みんなを連れて何処かに逃げるとか、どうですか?」
「金の力を使ってどこまででも追いかけて来ると思うが」
水羽は水羽カンパニーの社長令嬢。そもそもの財源が違うため、逃げてもすぐ見つかるのが落ちだ。
「じゃあ、もうお手上げじゃないですか」
やはりそうなか……。どう頑張っても、誰も死なないルートにたどり着けないのか?
「ちょっと危険……、というよりオススメしませんが、タイムトラベルしてみたらどうですか?」
「タイムトラベルって、あれだろ。記憶と体の両方が過去に戻る」
最初の説明で言っていた、タイムリープともう一つ俺がもらった能力だ。
「はい、それです。下手してパラドックスが発生すると、存在が無かった事になりますが、その代わり成功すればどうやってその水羽さんって人が星雲さんの事を好きになったのかわかりますよ?」
なるほど、そういえばそんなものがあったな。でも、パラドックスが……。だが、このまま殺され続ける無限ループよりも、理由などを知って、解決した分かったほうがいい。
「よし、行こう。レティル、三年前の五月三日に!」
「分かりました。それじゃあ、手を出してください」
「手?」
疑問をいだきながらも、手を広げレティルに出す。
「この、手のひらにですね文字を書くんです。行きたい年月日時間を。戻ってくる時は、そのまま戻るや元世界になどを書いてもらえば大丈夫です」
「おお、わかった」
ボールペンを使い、自分の手に2017年5月3日9時00分と書き込む。
その瞬間、床に光と共に六芒星が浮かび上がり、その光が俺の体を包み込む。
「これって、俺一人しか行けないかんじなのか?」
「いいえ。もちろん、私も一緒に行きます」
レティルが、ボールペンで書いた方の手を握る。すると、光はレティルも包み込み、更に激しい光が起きた。
「うっ……!?」
次の瞬間、俺とレティルは今とは少し配置の変わった俺の部屋に居た。
「タイムトラベル成功か?」
「多分そうですね。ここは、三年前の世界で合ってると思います」
まあ、今は無いものや逆にこの時しか置いていないものもあるし、この見慣れ感じはそうだな。
「星雲さん、もう一度説明しますが、タイ厶トラベルは肉体と精神の両方を過去に飛ばします。今回の場合、星雲さんは生きています。ですが、星雲さんは、全く同じ自分に出会ったことはないですよね?」
「ああ、無い」
むしろ、会っているほうが怖いだろう。
「それなら、絶対に会ってはだめですよ。もし、会ってしまったらパラドックスが起きる可能性がありますので」
レティルからそう念押しされる。
「分かってるって、俺も消えたくないし、絶対に会わないようにするから」
「それでは、行きま……」
そう言いかけた瞬間、部屋の扉が開いた。
「ん? あれ、お兄ちゃん。その人誰? それに、なんでこんなところに居るの? 今日、ゲームセンターの格ゲーの大会だって言ってなかった?」
「えっと、その」
レティルが、後ろに来て耳打ちをする。
「星雲さん、なんとか誤魔化してください」
「なんとかって言われても……。適当でいいか?」
取り敢えず、この場を切り抜ければいいよな。
「この人は、俺の彼女。ゲームで知り合ってね。今日も一緒に大会に出ようと思って、一緒に行ったんだけどサイフを忘れてね」
こんなんでいいかな? 小夜は、じっとこちらの顔を見た後、大あくびをする。
「そういう事だったんだ。ふーん、お兄ちゃんも見かけによらず、彼女とか作るんだ。まあいいや、早めに帰ってきてね。私は5度寝するよ」
三年前の小夜はそう言い残し、部屋から出た。5度寝って……、初めて聞いたぞそんなパワーワード。
「ふぅ……、危ない危ない」
「まあ、これで多分パラドックスは発生しませんね」
多分……か。ちょっと怖い気もするが、まあ消えてないからいいか。
「それじゃあ、取り敢えず外に出て探しに行くか」
親の靴を二つほど借りて、外に出た。
「確か小夜は、ゲームセンターに俺が行ったって言ってたよな?」
「そうですね」
「ゲームセンター……という事はあそこか?」
「分かるんですか?」
「ああ、俺は何回かそこに通っていたし、前のタイムリープの時に何度か行ったからな」
まさか、タイムトラベルしてまであそこに行くとは思わなかったがな。
「そうですか……。それじゃあ早速行きましょう」
「ああ、そうだな」
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