第19話 殺人犯……

「「ただいま」」

「お帰りなさいませ、二人とも!」

「なあ、メールでも伝えた通り今日一人泊まりに来るからよろしくな」

「ガッテン承知の助であります」


 一度、漆原には帰ってもらい着替えなどの用意を持ったらすぐ来るとのこと。


「私ももっといい服に着替えてくるね」

「ん? まあ、別にいいんじゃないか。その服でも」

「身内以外に部屋着を見せるのは彼氏だけだよ? もしくは兄さんの彼女」


 そう言って、小夜は階段を駆け上がっていった。


「それじゃあ、俺達も着替えるか」

「そうですね。流石に制服……ってわけにも行きませんし」


 階段の手すりに手をかけた瞬間、『ピンポーン』という音が鳴り響いた。


「これって……」

「いなやぁ、無いだろ。流石に早すぎだし……」


 玄関のドアを開けるとそこに居たのは、大きな荷物を持った漆原だった。


「はぁ……はぁ……。いやぁ、お待たせ。待った?」

「今帰って来たとこだけど」

「えっ、遅くない?」

「お前が、早すぎるだけだ!」


 漆原は靴を脱ぎ、家にあがる。


「早速なんだけど、ちょっとシャワー借りていい? 汗かいちゃって」

「使いたかったら、別に使っていいぞ」


 そうこうしていると、階段からゴスロリの格好をした小夜が降りた。


「えっ……!? お兄ちゃんが、泊まりに来るって言った人、女の人だったんですか!?」

「えっ、言ってなかったっけ?」

「聞いてません! なら、別の服に着替えてきますぅ」


 ドタバタ足音を立てながら、階段を急いで登っていった。


「面白い、妹さんね」

「うん、まあ。そうだな……」












「それで、どういうことですか」


 服を着替え、一階に降りると小夜が待っており、レティルと共に居間に連れてこられ、正座させられていた。


「どういうことって……どういうこと?」

「お兄ちゃんが、女の子をたぶらかしたことですよ!」


 たぶらかしたってお前……。命を狙われているから、守ってもらうために連れてきたとは言えないし、取り敢えず誤魔化しておこう。


「普通に友達で、泊まりたいって言ったから」

「だとしても、獣のお兄ちゃんが居る家に、かわいい美人の女の子を連れ込むのはどうかしるよ! それに、あんなアイドルみたいな女の子をどうやって手篭めにしたの! お金、お金なの!? 変態! わいせつ物!」


 まあ、顔だけはいいからな。性格を知らない、小夜からしたらそう思うのは無理もない……か? てか、こいつは俺をなんだと思っているんだ。


「本当に友達だから。俺が、そんな手篭めにできるほど、顔がいいと思っているのか?」

「確かにそうだね、お兄ちゃんごときじゃ無理か」


 なんで俺は、妹にボロクソに言われているんだろうか。


「まあ、だからお金を払っているのかなーと」

「そんな事するか」

「因みに、彼女ではなく友達……なんだよね?」

「ああ、彼女じゃない。ただの友達だ」


 あいつを絶対に彼女になんて、したくない。当たり前のように暴力を振るってくるような奴だぞ。


「はぁ……。取り敢えず、この話はこれで終わり。もし、本当に彼女が出きた時は私に言うんだよ? 分かった?」


 なんでだろう。やはり、女子はそういうのが好きなだろうか。


「ふう、さっぱりした」

「おう……、いやちょっと待て、なんて格好してるんだお前!」


 漆原は、不思議そうな顔をしながらこちらを見る。その姿は、下着すら何も着ていない状態だった。


「早く服を着てください! レティルお姉ちゃん、お兄ちゃんをはやくここから連れ出して。は・や・く!」


 レティルにより、俺は襟を捕まれそのまま居間から出される。


「はぁ……。なん何だあいつは、いきなり裸できて」

「なるほど、やはりここだと裸ってだめなんですね。天界だと水浴びしたあと服を着なかったんですよね」


 まあ、前のタイムリープでこいつは小夜と一緒に裸になっていたからな。


「着替えって、多分あのバッグに入ってるよな? レティル、居間に持っていってくれないか?」

「分かりました」


 俺の言葉に従い、バックを居間の中まで持っていく。そういや、小夜は自分が服を着ていないことを特に言わないが、漆原には流石に言うんだな。今日家に来る俺の友達が女と知った途端、服を着替えだしたり、外面を気にするんだな。なんていうか、意外だな。


「はぁ……、夕飯の支度でもしますか」










「へぇ、あの弁当って星雲が作ってたんだ」

「ああ、そうだが」


 適当な夕飯を作り、テーブルに並べ全員で食べる。  


「いやぁ、本当に美味しい」

「まあ、毎日朝昼晩と作っているからな」


 小夜やレティルにやらせると、この世のものとは思えないほど、凄まじい料理が出来るからな。もう二度とやらせない。


「小夜ちゃんとかはレティルさんは、料理しないの?」

「私はやりたいんですけど……、お兄ちゃんの方が美味しいので」

「私は全くやったこと無いですね」  


 漆原はどんどん口に料理を運ぶ。


「ところで、漆原さん……でしたっけ? 好きな人とかいないんですか?」

「居ない……ですよん!」

「なんだ、その語尾」


 漆原は顔を赤らめるうつむく。


「好きな人なんて居ないです」

「えー、そんなに顔を赤らめてうっそだぁ」


 漆原はちらっちらっとこちらの顔を見る。なんだ、助けてほしいのか?


「そうだぞ、漆原が好きな人なんているわけないだろ。俺ら以外にまともに話してるやつ居ないんだし。それにもしいたとしたら、こんなゴリラに好かれて可愛そ……」


 顔面に漆原のパンチが飛んできた。


「だから、痛いだろ! 何しやがる」

「そんなに、罵倒しなくてもいいじゃない」

「うるせぇ、だったらその暴力をやめろ、暴力ゴリラ!」

「また言ったわね!」


 漆原は俺の背後に周り、そのまま首を絞める。


「ギブギブ!」


 そう訴えかけたが、全く力を緩める気配はない。


「そこまでですよ、漆原さん。流石にそれ以上は、いくらお兄ちゃんでも耐えられないので」


 小夜がそう言ってくれたおかげで、漆原はやめてくれた。


「あー、死ぬかと思った」

「いい? 次言ったら、本気でしめるからね」


 今ので本気じゃなかったのか……、頼もしい限りだ。


「そういえば、漆原さん。お兄ちゃんって、学校ではどんな感じなんですか?」

「学校? うーん、いつも一人になりたがって友達は私達くらいしか居らず、近寄るなオーラを出してるわね」


 お前らのせいで、友達が居ないんだろうが……。それに、近寄るなオーラを出してるのも、お前らに関わりたくないからだ。


「私達……ってのは、漆原さんとあとどんな人がいるんですか?」

「えっと、時雨さんと水羽さん。時雨さんは、一言で言うと変態って感じで。一応頭はいいんだけどね。水羽さんは社長令嬢だね」 

「全員……女の子。お兄ちゃん、死刑ね」

「なんでだよ!」


 こいつ、前のタイムリープの時も今回も彼女がどうのこうのって言ってたくせに、いざ女友達の話をするとなんでこうなるんだよ。まあ、友達って言っても、縁を切りたいやつらなんだけど……。


「こんな、かわいい妹二人と。漆原さんが居るのに、まだ他の女の子が居るってどいうこと?」

「別に、普通に友達だけど」

「へぇーそうなんだ。本当に付き合ってないんだよね? 三股とかじゃないんだよね」

「だから付き合ってないって、何回言わせれば分かるんだ!」


 あんな問題児達と付き合いたい物好きが何処に居るっていうんだ。


「じゃあ、お兄ちゃんはその人達の事好き?」

「いや、別に普通。むしろ嫌いなほう? 面倒くさいし」

「それを本人の前で、しかも私の前で言うとはね」


 漆原が立ち上がり、指をポキポキ鳴らし始めたのですぐさま弁解する。


「いや違うぞ、ただ一人になりたい時に限って色々誘ってくるっていう意味で。お前らのことは好きだぞ! 友達としてだが」

「まあ、いいわ。今回は許してあげる」


 あぶねぇ……。あやうく殺されるところだった。


「まあ、お兄ちゃんはそうかもしれないけど。漆原さん含めて三人がどう思ってるかは分からな……むぐ!?」

「ちょっ、小夜ちゃん黙って」


 いきなり、小夜の口を押さえ喋れないようにした。


「やっぱりそうですね……。フフン」

「もう、やめてよ」


 コイツラは、なんの話をしているんだ。なんで、漆原は顔赤らめてるんだ?


「まあ、何はともあれ。お兄ちゃん、そういうとこだよ」

「えっ、なにが?」

「昔から、女の子が寄ってきてねぇ……」

「いや、ちょっと待って。その話詳しく」


 なんで、そこに食いつくんだ……。


「昔からね、変な女の子とかに好かれるんだよね、お兄ちゃんって。顔は可愛いのに、少し抜けてるみたいな女の子にね。昔ねぇ、こんな人も居たんだよね、よくは知らないけどここにいる事は分かってる。一目惚れしたから、お兄ちゃんに合わせてくれって、言ってわざわざやってきた人がね。あの人、可愛かかったな……」


 あー、あれか。あとから聞かさられたから、誰だったのか分からなかったが、小夜が普通に追い返したって。


「ふーん、他には他には?」

「他だと、お兄ちゃんの中学で一番やばい奴って言われてた人に一目惚れされて、付きまとわれたとかかな」


 中学一の美人なのに、思考回路がおかしかったやつか……。高校にあがってすぐに、居なくなったんだよね。他に好きなやつでもできたのかな? あれ、よくよく考えてみれば、中学も高校も変わってないんじゃ…………。男友達は確かに中学の頃はいたが、女子関係は……。うん、考えないようにしよう。


「やっぱ、あれだね。星雲ってモテるのね……」

「うん、お兄ちゃんはモテるの! でも、それ以前にとうの本人があれだからね……」

「ん……、なんだ? 俺の顔になにか付いてるか?」


 何事もないように、カレーを食べ続けるレティルを除き、小夜と漆原がじっとこちらの顔を見てくる。


「いやねぇ……、何もないけど」

「うん……なにもない、なにもない」


 なんなんだ、こいつら……。


「まあ、察しの悪いお兄ちゃんは置いといて、あとで漆原さん。ゲームしない?」

「うん、いいよ。でも、私は強いわよ?」

「フッフッフ、毎日毎日ゲームをしている私に勝てるかな?」








「なあ、ちょっといいか?」


 小夜と一緒にゲームをしている漆原に話しかけた。


「えっと……、いいかな小夜ちゃん」

「いいですよ。やりたいことまでは終わったので」

「じゃあちょっと居間に来てくれ」

「分かったよ」


 漆原と二人っきりで、居間へと入る。そこは、物が何もかも消え畳だけが引かれている。

 

「それで、こんな場所に連れ出して何をするのかな?」

「頼みがある。殺人犯が来るまで、俺を鍛えてくれ」

「鍛えるって言ったって、今から筋肉とか付けても、あんまり意味ないと思うわよ」

「違う、筋肉とかそういうことじゃなくて、反射神経とか避けたり受け止めたりするのを鍛えて欲しいんだ」


 筋肉が付いたところで、タイムリープしたらそれはリセットされてしまう。だからこそ、技術面を鍛えたいと言うわけだ。


「まあ、他なる親友の頼みだ。いいだろう、その代わり冷蔵庫にあったプリンは頂戴ね」

「うっ……分かった」


 楽しみに取っておいたんだが、この際仕方がない。


「それじゃあ、まずはパンチを避ける練習からだ」

「いや、相手がナイフを持っているというのを想定して欲しいんだが。いいか?」


 殺人犯は、今までナイフで俺を殺してきた。だから、パンチを避ける練習よりも、ナイフを避ける練習をした方が確実だ。


「まあ、確かに。相手が一般人ならパンチよりナイフの方が殺傷能力は高いしね」

「一般人って……、お前まさか」

「ナイフより、一撃入れたほうが確実にダメージを与えられると思ってる」

「人間じゃねぇな……」


 プラスチック製のおもちゃのナイフを渡す。


「それじゃあ、始めるわよ」

「ああ頼む」









「それじゃあ、三人ともおやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「お兄ちゃん。一応念押ししておくけど友達だからと言って、襲っちゃだめだからね」


 襲うわけがなかろうが、仮にもしも襲ったとしたら殺さねかないだろう。


「絶対にしないから! いいから寝ろ」

「そこまで断言されると、流石に傷つくんだけど」


 小夜は、大きなあくびをかまし部屋から出る。漆原に十二時まで付き合ってもらい、シャワーを浴び俺の部屋に集まった。現在、集まっているのは俺とレティルと漆原だ。漆原は、体全身に防具をつけいつでも戦えるようにしてもらった。俺は一応首元に鉄の塊を布で巻いている。今までの経験上、相手はまず首筋を狙ってくるからだ。


「それで、何時くらいに来るの? その殺人鬼」

「それが、分からないんだ。来ることは分かっているんだが」


 一回目に襲われたのは、寝ている時、二回目に襲われた時は暗闇にいた。なので、二回とも時間を見ていないのだ。


「取り敢えず私はどうすればいいのかな?」

「うーん、冷蔵庫あたりで待機していてくれ。電気をつけないで居るといいんだが……お前寝そうだしな」

「こんな大事な時に、寝るわけ無いでしょ。親友が殺されるっていうのに」


 いやぁ……、信用出来ないなぁ。俺が一緒に下に居てもいいんだが、それだと下手したら死にに行くようなもんだしな。信用するしかないか。


「じゃあ……頼むぞ」

「おっしゃ、任せなさい」


 そう言い残し、意気揚々と出ていった。


「俺はここで、待機しておくか……。レティル……、お前はどうする?」

「私ですか? うーん、眠いんで寝ていいですか?」


 毎回こいつは、寝るな。まあ、死んでも別にまたやり直せると考えてるからか。


「ああ、おやすみ。だが、下には行くなよ? 面倒くさい事になりそうだし」

「分かりましたぁ」


 そう言い残し、レティルは部屋を出た。


「それじゃあ俺も、そろそろ電気を消して備えるか」


 電気を消し、布団にくるまる。



 まだかまだかと待ち、心臓がバクバク鳴り他の事に集中出来ない。これは、慣れること無いだろう。死ぬ時は、やり直せると分かっていても怖いものだ。


 そして、『ギシィッ』という音が、下から聞こえてきた。もしもの時のために前回同様バッドと懐中電灯を置いておいた。なので、それを持ち持って部屋から出る。


 一応、レティルの部屋を見ておくか。


 扉を開け、中の様子を伺うがそこに姿は無かった。やはり、下に行ったようだ。行くなって言ったのに……。


 下の階へと下がる。ゆっくり……音を立てないように。前回同様、キッチンの方から音がするので、そっちへ向かった。


 そこには、ケチャップ塗れのレティルと、倒れている漆原の姿があった。


「おい、大丈夫か? しっかりしろ」

「ん〜〜むにゃむにゃ。もう、食べられないよ」

「そんなベタな寝言はいいから、とっとと起きろ!」


 いくら体を揺さぶっても、起きる気配はない。さて、どうしたものか。そして、俺はふと気づいた。これは、いままでと同じ。つまり、このあとすぐに俺を殺す奴がナイフで首筋を切るということに。俺はすかさず、体を動かした。


 すると、首筋を切るはずだったナイフは肩あたりに突き刺さった。


「ガハ……痛え。致命傷じゃないから痛みがあるのか」


 ヘルメットをした殺人犯は、すかさず二本目のナイフ持ち、俺に攻撃しようとしてくる。


 それを、間一髪で交わし腹に目掛けて一発蹴り入れる。


「おりゃあ!」


 その衝撃に殺人犯は倒れたのですかさず、上に乗る。


「今回はお前の顔を絶対に見てやるぞ。何回も殺された恨みだ!」


 俺はヘルメットを頭から外した。そして、殺人犯はあろうことか











 


 


 

 


 


              水羽だった。

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