第3話 どうして勉強しないといけないの?
僕は小学4年生。開けている窓から蝉の音が聞こえる。夏!って感じだ!
それなのに、僕は学校から出された夏休みの宿題を家のリビングでしてる。
あーあ。なんで勉強なんかしないといけないんだろ。
勉強なんかするより、僕にはいっぱいしないといけないことがある。プールに行って泳がないといけないし、ゲームで倒せないボスを倒さないといけないし、サッカーでリフティングの練習をしないといけない、絵も上手くなりたいから、描かないといけないし、やることがいっぱいなんだ。勉強なんかしてる場合じゃない。
あーあ。なんで勉強しないといけないだろう?
でも、しないといけないってみんな言ってるしなー
ああー勉強したくない。
そう思いながら、顔を上げると、そこには変なおっさんがいた。
誰だこいつ!?なんか青い布切れを体に巻いていて、なんだか偉そうだ。何故か手のひらを地面に向けてる。
「なんで勉強しないといけないか?それは楽しいこと増やすためだ!」
突如、走馬灯のように、勉強しなかった自分の人生が頭の中に映し出される。
「なんで勉強しないといけないのか?勉強したほうが楽に幸せになれるからだ!」
でも、1つ心残りはある。それは絵のことだ。あのとき、絵の勉強を諦めていなかったら、絵の仕事をしている自分もいたかもしれない。
おっさんは言う。
「半分正解のところまで来たな。ただ、お主は真に勉強が何たるかを理解していない!もう一度やり直せ!」
「嫌だ!やり直したくない!僕は十分に幸せだ!」
僕は一度、勉強した人生を過ごしたのか……そして、おっさんに無理やり人生をやり直させられている。
現実に戻ってくる。何故かおっさんが増えている。
僕は今、選択を迫られている。
・おっさんから逃げる
・おっさんの話を聞く
⇒ おっさんから逃げる
人生をやり直したくないため、僕はおっさんから逃げる事を選択した。しかし、おっさんに囲まれて逃げることが出来ない。
「逃げても無駄じゃ。お主がなんで勉強しないといけないのかを知らない限り、永遠に人生をループすることになるぞ」
おっさん怖っ!!逃げても無駄なんて……なんで俺がこんな目に……
「おっさんは、俺の味方じゃないのかよ!」
「甘ったれるな!わしらはただ、勉強しないといけない理由を伝えたいだけだ。お主の味方とかそんな都合の良い存在ではない!」
新しく出現したスーツ姿のおっさんが叫ぶ。
これは何かの呪いなのか……
とりあえずおっさん達の言うことを聞くことにした。
「この前の話だと、勉強すれば自分のしたいことが見つけられるっていってた」
「そうじゃ」
「僕はあの後、好きな絵の事を頑張った。やっぱり絵が好きだなって思った。でも、絵だけで食べていくことは出来なかった。諦めてしまったんだ」
「なんで絵を諦めてしまったんだ?」
「絵の勉強をすればするほど、世界は広くて自分がちっぽけな存在に思えてきて苦しかったんだ」
「それは苦しいのう」
「うん。ある程度は、うまくなったんだ。でも、途中から何をすればうまくなれるのかがわからなくなったんだ。勉強は答えがあるけど、みんながいいと思える絵の答えが見つからなくて……」
「だから、普通の生活をするため、学歴を得るための勉強を頑張ったんじゃな」
「うん。絵のうまい人達みたいにはなれないし、絵で食べていけてる人なんてほんの一握りだしね……僕みたいな普通の人間には、それが1番だよ」
もう一人のおっさんが口を開く。
「お前は、人と自分を比較し、生活の保証を気にし、頑張らなくても、なんとかなる世界で生きる。そんな楽な世界で生きたってことか。そんな人生幸せなんか!」
急に大きな声で言ってくる。ムカつくな
「はい。とても幸せです」
急に喋りだして、しかも失礼なおっさんだな!
「そんなもん。死んでると同じじゃ!」
腹立つおっさんだな!
青い服のおっさんが、スーツのおっさんをなだめている。でも、スーツのおっさんは話を続ける。
「自分が信じた道を自分のやり方で突き通すんじゃ!人はそのために生まれたんじゃ!」
「自分が信じた道を自分のやり方で突き通す……」
なんかかっけーこと言うじゃん。このおっさん。
「勉強でも人間関係でも仕事でも趣味でも何か新しい事を始めるときは、いやな面、気に食わない点、つまらない部分が必ず出てくる。でも、そんなことはお酒を飲むか寝てすぐに忘れるんじゃ!」
「お酒は飲めないよ。確かに、絵を頑張っていたときも、何をしたら良いかわからなくなって嫌になった。人気の人の絵を真似て書いてみても、結局、それは人の真似でしかなくて、自分が書きたい絵がわからなくて嫌になったんだ」
「そうじゃ。一旦、嫌なことを隅っこにおいといて、勉強し続けるんじゃ。そうやって続けていることで見えてくるものがある」
「見えてくるもの?」
「そう。お主の場合だと、絵に対して、ああしたい。こうしたいと思うようになる。それが自分のやり方を突き通すと言うことじゃ。それまでの絵は、誰かがやってたことを真似ているだけじゃ」
「ううん。難しい」
「例えば、絵で言えば、ピカソのキュビズムがある。あれはピカソのオリジナルで自分のやり方を突き通したからこそ誕生したと言える。」
スーツのおっさんは話を続ける。
「野球で言えばイチローの一本足打法。ドラゴンボールの超サイヤ人を生み出した鳥山明。全てオリジナルじゃ。自分の信じた道を、自分のやり方で突き通してるじゃろ」
「確かに。でも、そんな簡単に自分のやり方なんて思いつかないよ」
「そうじゃな。わしらもお主がしたいことはわからん。ただ、本当にしたいことに対して、自分がどうしたいのかを本気で考えるといいじゃろ。これから先はお主次第じゃ」
そういうと2人のおっさんは消えかかっている。
「いいか。小僧。真に勉強を理解しない限り、お主は永遠に人生を繰り返すことになる。肝に命じておけ」
ええーめっちゃ理不尽……2人のおっさんは、そうしていなくなった。
こうなっては仕方がない。自分がしたいことに対して、自分がどうしたいのかを考え、実行する……そうしないと人生がループする。
僕は2つのことをやることを誓った。
・1つ目は、絵に対して、自分のしたいことを見つけて、それをやり通す。
・2つ目は、前の人生で過ごした奥さんや子供にもう一度、出会う。
2つ目は、おっさんの話しした内容とは違うけど、もう一度会って、同じ時を過ごしたい。それは前の人生で、僕のしたいことだったから……
12年後……
僕は絵の勉強を頑張って大学1年生になった。東京芸術大学の学生だ。あのおっさんの言うとおり、僕は辛くても絵の勉強を続け、自分のしたい事を知るために、大学で勉強し続けている。でも、正直な所、自分が絵に対して何をしたいのかよくわかっていないし、やっぱり絵の旨さでは僕よりもうまい奴らがたくさんいた。
だから2つ目の目標の奥さんと子供にもう一度会うために、奥さんが好きだった美術館にいった。
そこにはまた君がいた。飾られている絵をマジマジと見てる。
良かった。また会えて
僕は勇気を出して声をかける。この後のことは緊張してよく覚えていないけど、絵の話をたくさんして仲良くなれた。
奥さんは僕が絵を書いてるところを見るのが好きだった。
「少しずつ絵が出来上がる過程を見るのが、勉強になるし、あなたをもっと理解できる気がする」
と言っていた。僕もそう言われて嬉しかった。前の人生でも子供と一緒に絵を書いた。一緒に絵を書く過程はすごく楽しかった。
僕は絵で人と人は繋がる事ができることを強くかんじた。また、絵は別に完成したものじゃなくても、その作成途中にも価値がある。
僕にとっては、作成途中の絵のほうが価値がある。
僕はハッとする。自分が信じた道。自分がしたいことが見えた気がした。もう立ち止まってはいられない。
40年後……
あの後、僕は大学の友達と一緒にあるサイトを作ることに決めた。
そのサイトは、書いている途中の絵を上げるというサイト。
絵の制作過程をすぐに、サイトに共有できるように、絵を書くツールをサイト内に作った。
ツールを使って絵を書き、途中でも、共有できるし、一緒に書くこともできる。そうすることで、途中の絵でみんなと話ができるし、絵を書く人のモチベーションもあがる。見ている人も絵が上手くなる。
出来た絵にはみんなの思い出が入る。
そのサイト内では、色んな交流が生まれた。
これが僕がやりたかったこと。
絵をみんなと一緒に書いていく。その中にはたくさんの思い出が出来る。
このサイトが出来るまでに、たくさんの勉強をした。でも、やりたいことが見つかってからの勉強は、勉強自体が楽しかった。
これがおっさんが言っていた楽しいことを増やすということかもしれない。何かを達成するのも、もちろん楽しいけど、その過程もすごく楽しいんだ。
絵を書いている過程と同じように、勉強の過程も楽しいんだ。
僕はこのサイトの運営会社を立ち上げ、お金の心配はなくなり、今は自由な時間を得ている。
その自由な時間で、また新しいことにチャレンジ中だ!
奥さんとも前の人生と同じく結婚できた。子供も同じぐ2人。男の子と女の子。もう結婚して、僕はおじいちゃんだ。孫の顔を見るのが楽しみだ。この人生でも奥さんに出会えて良かった。
僕はおっさんのことを思いだす。
「なんで勉強しないといけないか?それは楽しいこと増やすためだ!」
おっさんはそう言ってたけど、今の僕ならこう答える。
「なんて勉強しないといけないか?
勉強すると、自分がしたいことがわかるようになる。
そして、それをやり通す力を持てる。
だって、勉強することが実は楽しいと気付けるから
」
「ようやく勉強の楽しさに気付いたようじゃな」
2人のおっさんが出てくる。
「アリストテレスさんとニーチェさんですね」
「どうしてそれを?」
「勉強したからわかりますよ」
おしまい。
どうして勉強しないといけないの? ペンギン @penguin_family
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます