それからの私達

最終話

 時藤はとても苦しそうだった。

 そのちょっと歪んだ顔が、それは大人ぽくてカッコ良かった。

 私は高校で知り合ってから初めて、時藤にときめいた。

 こんな二人の間柄で、抱いてはならない感情を、ほんのちょっと抱きながら私達は卒業を迎えた。

 卒業式のあと……。

 驚く程の下級生が、時藤と木下に制服のボタンをせがみにやって来ていた。

 それを尻目にしていた私といえば、数人の下級生が写真を撮って欲しいとやって来た……だがそれは本当に、ほんの少しの下級生だ。時藤や木下の比ではないが、時藤も木下もそんなに、嬉しそうな様子は見せてはいなかった。



 時が経ち………。

 成人式が済んだ頃、時藤から待ち合わせの連絡が入った。

 駅前の居酒屋に入ると、時藤が奥の席で手を振っている。


 高身長ではないが、相変わらずカッコ良い男だ。

 かなり大学でもモテるらしい事は、時たま会っているから知っている。


「お前と酒を飲みながら、話したかったんだよ」


「お前とか言って、可愛い彼女に嫌がられない?」


「お前しか言わんし……」


「はぁ?」


 私は呆れる様に声にする。

 時藤は大学に入って一年程した頃、竹下に何となく似た年下の彼女と付き合い始めた。

 それまでの間、いろいろと女性の話しは聞いていたが、時藤は誰とも付き合わなかった。そして初めてその彼女の話を聞いた時に、やっと時藤が何かを吹っ切た事を察した。それから今まで、時藤は幸せそうだ。

 何といっても吃驚したのが、時藤は卒業してからも竹下と連絡を取り合っているという事だ。竹下のいろいろな悩みを聞いていたと言うから、唖然とする他なかったが、竹下のそんないろいろを知って、時藤は本当に彼女を吹っ切る事ができたのだろう。

 今は竹下に少し似た、ミキちゃんという彼女にゾッコンで、何度か三人で会ったりもさせられていて、ミキちゃん公認の女友達だ。

 私とだったら二人だけで会っても、ミキちゃんはヤキモチを妬かない。否、案外懐かれているっぽいから、時藤には内緒だが厄介だ。


「そう言えば木村にも、やっと彼女ができたらしい」


「ふん。自業自得……もっとできなけりゃよかったのに……」


 とか悪口雑言を言うが、木村はかなり天罰がくだった。

 金沢とはちょっと遠距離恋愛的になり、金沢に新しい彼氏ができて別れたのだが、別れる迄に二股行為をされて別れた。そのトラウマか、木村はそれから彼女ができなかった。

 確かに木村は麻知子と付き合っていて、金沢に乗り換えた訳だが、二股的な付き合いはしたくないと、麻知子に全てを話して別れた様な男だから、金沢に二股をかけられたのには、かなりのショックがあった様だ。

 ただ友人達の反応は厳しく、ああいった金沢が違う男と直ぐに関係を持つのは当たり前だとか、遠距離恋愛で持つはずは無かったとか、どうせ卒業したら別れると思っていたとか、木村の友達よりも金沢の女友達からも言われていた事など、当の金沢は知っているのだろうか?だがそんな金沢は、その彼氏とも長続きせず、今はビッチと陰で言われているという……。


 そんな金沢に苦しめられた麻知子は、何人かと付き合うものの、男女の関係に踏み切れずに別れているから、木村の事だけではなく、そういった信念の持ち主だったのだろう。


 春日と後藤は、今ではお似合いのカップルだ。

 マッチ棒だった春日は大学に入って体格が良くなって、それはカッコ良くなったので、美男美女のカップルと言っても過言ではない。

 そして両方の親公認の仲なので、春日が社会人となったら直ぐに結婚するという事だ。


 橋無も高校の時に付き合い出した相手と、上手く行っていて会えば惚気られるのには閉口だ。


 春日の友達の菅野は、後藤の友達とは大学に入って自然消滅。今はバイト先の可愛い彼女とイチャラブを謳歌しているという。


「………で?お前は?」


 酒が進んだ頃、時藤が聞いた。


「失恋したさぁ」


 私は突っ伏す様に言った。

 できれば余り振られたくはなかった……。


「お前好きなヤツいたんだ?」


「それがいたんだ……と最近気がついた」


「はぁ?何それ?」


 とか言いながら、鳥の刺身を食っている。


「その人、海外赴任しちゃって?初めて好きだったって気がついた」


「へっ?そいつ誰?」


「……近所の……」


「あー?近所のお兄ちゃんか?五つ違いで、お前と同じ年の妹がいる?………だと思ったよ。お前の理想……そいつままだもんなぁ……」


「へっ?」


「高身長で顎がキュッとしていて、足が長くて腕が長くて……高学歴で高収入……めちゃ優しくて……お前の事可愛いがってる……他にいないだろ?」


「………そういう相手には、好かれない……」


「お前な、自業自得……言いたい放題言ってっから……」


「あー!確かに……ごもっともです」


 自分の今までの言動を思い出して、穴があったら入って埋められたい。


「やっ!お前絶対そいつ待つなよ」


 そんな羞恥な思いに打ち拉がれていると、時藤はグッと俯く私を覗き込んで言った。


「………えっ?待たないよ……」


「いやお前待ちそうだわ……そういう奴は金髪美人を連れて戻って来るからな……マジで結婚できないぞ?……他に好きなヤツ作れ」


 時藤は顔を上げた私を、真顔で直視している。


「マジで好きなヤツできれば、変な理想言わなくなる!」


 時藤は、此処ぞとばかりに力を入れた。


「お前ガチで、好きになった事ないだろう?」


「………ごもっともです」


 時藤の言葉には重みがあった。

 たぶん私には

 話し易くて親切で、カッコ良くて女子にモテる時藤……。

 ちょっと人見知りな私にも、気軽く話しかけてくれて親しくなって、女子にモテるし軽い感じだから、ちょっとチャラ男かと思っていたが、時藤は意外と一途で誠実だ。竹下への思いに、綾瀬とは上手くいかず、いろいろとあったが、それすらも誠実に乗り越えた感が、幼稚な自分と比較にならない、を感じさせずにはいられない。

 幼馴染みのお兄ちゃんは、本当に好きだった。

 いつも同じ年の妹同然に可愛がってくれる……だから当たり前で、それでいて何故だか漠然と、愛されていると錯覚して私の理想になった。

 だけど私は、自分の理想の相手には好まれない。

 だから時藤が、私を好きにならない事も知っていた。

 時藤は本当に良いやつだ。

 近所のお兄ちゃんに、匹敵する程に良い男だ。

 たぶん愛された相手は幸せになれる。

 ただその相手は私ではない。

 時藤とはそういう関係で、ずっと続いていくのだろう。

 お互いに思う相手の惚気や愚痴を言いつつ、慰めたり誤りを指摘したりしながら………。

 唯一の友という関係を続けていく。




 …………ちょっと話してみようか?彼女たちの事…………終………




 森岡麻知子

 希望の職種で暫く働いたのち、ちょっと木村似の彼氏と結婚

 相変わらずの可愛いさに、旦那がゾッコンで幸せな結婚生活を送っている。


 後藤奈津・春日

 マッチ棒君こと、春日と結婚

 奮起して猛勉強ののち、弁護士を目指した春日を支えた。


 時藤

 年下彼女のミキちゃんとは大学生の内に別れ、年上美人と結婚。

 山中和と竹下とは、ずっと友人であり続けた


 木村

 麻知子を苦しめた報いか、そんなに幸せな結婚はできなかった


 綾瀬

 なんだかんだと言って、好きになり付き合うものの、気が強いのが禍してか長続きせず、見合いで結婚。幸せになったのか不明


 島津ハル

 母の再婚相手の連子の義兄と結婚

 地方に転勤のち海外に転勤

 海外でイラストの勉強をして、イラストレーターとなる


 橋無

 何人かと付き合って、ちょっと年上の男性と結婚

 何不自由の無い幸せな結婚をした


菅野

職場の後輩とできちゃった婚

三児の良き父親で子煩悩


大好きだった先輩と大学に入って付き合うも、先輩の入社後の時間のすれ違いで自然消滅

その後年下の優しい旦那に支えられて、念願の税理士となる

地元で店を構えた竹下の店と関わり、和とも再び交流を持つ様になる

 

金沢

 不明


小宮山・大宮

高校時代からの長い愛を育み結婚

我が学年での一番の幸せカップルと呼ばれ、同窓会の話題の人達である

 

竹下

 ファッション業界でバリバリと働いていたが、可愛い女の子のシングルマザーとなり、地元の商店街に店を持った為、数年後再び交流を持つ事となる


 山中和

 高校時代の勝手言いたい放題が天に知られ?未だ独身。

只今婚活中………


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ちょっと話してみようか、彼女達のこと 婭麟 @a-rin

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