メテオラ 焔の厄災

雨世界

1 私はただ、本当の歴史が知りたいだけなんです。

 メテオラ 焔の厄災


 登場人物


 メテオラ 魔法使いの少年 少し大人になった男の子


 マオ 魔法学校の歴史の先生 歴史学者 決して追求してはならないとされている、焔の厄災と大魔法使いアスファロットの真実を追求している魔法使い。魔法使いの新聞記者、ワルプルギスさんの親友(悪友?)


 ソマリ 大魔法使い 無口な、のちの魔法の森の大魔法使い 


 アスファロット とても優しい魔法使いの男の子 魔法が使えない魔法使い


 ミーティア 好奇心旺盛な人間の国の王女様 機械が大好き 天才 すごく頭がいい


 プロローグ


 彼女の(誰にも届かなかった)最後の願い


 ……お願いです。神様。どうか私たちみんなを救ってください。私の魂を、命を、人生を、……愛を、引き換えにしても、構いませんから。


 魔法使いという種族について


 その一、魔法使いは空を飛んで一生を終える種族である。

 その二、魔法使いの魔法とは空を自由に飛ぶことである。

 その三、魔法使いはその生涯をかけて自身の魔法使いの研究をする。

 その四、魔法使いは森とともに生き、森とともに死する種族である。

 その五、魔法使いが死ぬと、その魂は根元の海と呼ばれる場所に還っていく。

 その六、魔法使いは魔法樹という大樹を信仰する。

 その七、魔法使いは他種族と交流を持ってはならない。


 本編


 私はただ、本当の歴史が知りたいだけなんです。


 あの日、あのとき、あの場所で、本当はなにがあったのか? それを、……実は、僕も本当は知りたいんです。


 魔法の森の英雄


 悪の魔法使い、アスファロットを倒し、世界を救った森の英雄。大魔法使いソマリ。


 世界にはたくさんの英雄と呼ばれている人たちがいる。僕たちの暮らしている魔法の森にも英雄はいる。

 大魔法使いソマリお兄ちゃんのことだ。

 ソマりお兄ちゃんが森の英雄と呼ばれるようになったのは、焔の厄災と呼ばれる大戦争を引き起こした先代の大魔法使い、アスファロットを倒したのが当時十歳だった天才魔法使い、ソマリお兄ちゃんだったからだ。

 その功績によって、ソマリお兄ちゃんは森の代表である大魔法使いになった。

 でも、ソマリお兄ちゃんは、古い森の時代のことを僕たちにはなにも話してくれなかった。(それはソマリお兄ちゃんだけではなくて、マグお姉ちゃんも、それから厄災を生き延びた魔法使いたちのすべての人がそうだった) 

 古い歴史は封印され、真実を知ることは、あるいは語ることは誰にも許されることではなかった。

 たった一人の、本当に純粋な心と好奇心を持った、(その人は、いつもきらきらと光る大きな目をしていた)少し変わった魔法使いの女性以外には。(その女性の魔法使いに、メテオラは密かに憧れを抱いていた。なんとなく、一度も会ったことのない、お母さん、に似ているような気がしたからだ)


 本当のこと(あるいはとても大切なこと)を知るための歴史の授業


 ……あの、真実を知ることは、いけないことですか?


「では、歴史の授業を始めます」

 と、魔法学校の歴史の先生である魔法使い、マオはメテオラたちがいる魔法学校の教室の教壇の前に立って、そう言った。

「今日の授業は特別な授業を行います。それは、森では禁忌とされている、『焔の厄災』についての授業をします」

 にっこりと楽しそうに笑って、今から森のルールを破って、探ってはいけないとされる歴史の授業をします、と堂々とメテオラたち生徒の前で言い切った。

 その言葉を聞いて、メテオラたちはみんな、びっくりした顔をした。(ずっと居眠りをしている天才魔法使い、マシュー以外は)


 真面目なメテオラ、ニコラス、アネットは三人ともその目を大きくしてびっくりした顔をしていたし、あまり真面目ではない不真面目なデボラ、アビー、コロナも体の動きを止めて、びっくりした顔をしていたし、そして、なぜか、(いつも人一倍優しい)シャルロットは一人、むっとした、とても怒ったような顔をしてマオ先生のことを見つめていた。

 こんなとき、「あのマオ先生。質問があります」と言って、最初に声をあげるのはアネットなのだけど、このときはずっと固まったままでいるアネットの代わりにシャルロットが「マオ先生。質問があります」と怒った顔をしたまま、手をあげてそう言った。


「はい。なんでしょう? シャルロットさん」にっこりと笑って(まるですごく怒っているシャルロットのことをなだめるようにして)マオ先生は言う。

 しかし、シャルロットは、その顔をいつもの優しい(シャルロットらしい)温和な、春の太陽の下でさく花のような明るい笑顔にすることはなかった。

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