summer in a sense

天霧朱雀

<dictionary>【思い出-なつ】<dictionary/>

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<dictionary>【思い出-なつ】<dictionary/>

<dictionary>死して生き返る物語、私の〝夏〟の記録だ。私が記憶するリビングデッド・メディア。<dictionary/>


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<dictionary>【球-きゅう】<dictionary/>

<dictionary>1.)まるいたま。美しい玉。また、まるい玉のような形をしたもの。<dictionary/>

<dictionary>2.)数学。三次元空間で、一定点からの距離が等しい点の軌跡で囲まれた部分。<dictionary/>

<dictionary>3.)球形またはそれに似た形のもの。<dictionary/>

<case№3hz_ Exebug>俺が生きている地。<case№3hz_ Exebug/>

<case№xxo_ Liberty>死んだ地球の例え。<case№xxo_ Liberty/>


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<dictionary>【夏至-げし】<dictionary/>

<dictionary>1.)二十四気の一つ。太陽が最も北に寄り、北半球では昼が一番長い日。北極では太陽が沈まず、南極では太陽が現れない。<dictionary/>

<case№3hz_ Exebug>俺がこの手で作りたい景色。<case№3hz_ Exebug/>

<case№xxo_ Liberty>いつかこの目で見たい現象。<case№xxo_ Liberty/>


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 地軸が傾いた世界に季節という概念は崩れ去った。それなのに夏色をした瞳をしたアクツは「夏だからねぇ、」なんて妄言を吐く。倣って機械人形、――アカネも「夏至ですもんね、」なんて言う。バカげたことを言う二人に、私は問うた。

「昼が最も長いって、昼の日拝めないのに?」

 今思えば、とっても無粋なことだったかもしれない。否定する私に対して、アクツは言った、「拝めないなら作ればいいよ」と。アクツのそういうところが嫌いで好きだった。

 地球という丸い球体の上にいることだって、宇宙からそれを眺めたわけではない。だから、目に見えたことを信じて言うなれば、きっと、私の地球は球ではないのかもしれない。なんて、アクツみたいな間違ったロジックを思考する。夏という概念を幻視した。

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 レイリー散乱、青空だって見えやしない。くぐもった空に続くのは鈍色。真っ赤な海が波打ち際で、血潮みたいだろうってアクツは言ったけど、放射線量から鑑みれば、命を削って見に行くものではない。

 地球はすべからく死んでいる。それでも生き物もいる、らしい。広い意味でいえば、私達は生き物か。真っ赤な大海原がただっ広く、同じくらい曇り空もたなびいている。計測器を片手に、私は値を見て驚く。細胞を破壊するには容易い値を観測する。思わず「死ぬ気?」と何度も問いかけたけれど、当の本人。アクツは「だって、海が見たいってササラが言っていたから」と。悪びれた様子もない。きっと善意、そして、私の好奇心も知っている。私だって、死ぬ気? と、問いかけるが止める気がない。心の底では、手を引くアクツの行動力に憧れていた。

 地球環境が崩壊して幾年経っただろうか。従来の視力矯正する器具じみた端末機械をオフラインにしている身としては、歴史に関する情報は習得に薄かった。私と似たような構成物質をしているアクツは「必要な時に必要なデータが取り出せばいいんだ、別に端末は常に起動しなくてもいいだろう」と言う派だった。私も視線をちらつく表示が、基地局を出ていってからというもの、エラー表示と生体警告、リスク率の演算が鳴りやまない。恰好こそ、眼鏡がないと落ち着かないから、かけているものの、これじゃあただのグラスレンズだった。

 相変わらず「文学少女の様相だけど、物語は好めないのかい?」とアクツは悪戯気に訊ねる。そのたび私は答える。もはやテンプレートと言っても過言ではない。

「リビングデッド・メディアは、再生されなければ死体と大差ない、て言いたいの?」

「先回りして言われると、困っちゃうなぁ」

 困ると言うアクツは冗談めかして笑っている。どう見ても困っているように見えなかった。私はため息をついて前を見据える。初めて見る海はとても赤く、血潮と言ったのが直喩であると知る。これは、確かに、たとえば、と言われたらそんな気がする。

 死んだ海からは死んだ臭いがする。私は死んだ生き物について知っている、けれどそれは実際に見た物ではなく、知識としての「死」だ。アクツは生き物の死骸を見たことがあると言う。

「死って、動物の死ってどんなものだった……?」

 無粋な発言は、私の好奇心だった。無邪気、と自分で免罪符を立てる。もちろん、宗教なんて持っていない。免罪符なんて、知識として知っている言葉で言っただけだ。所詮、私はヒトのまがい物で、正しく生き物であるとは言えない。旧世代のヒトとはいくらか成分が異なり、また、産みの親というものも自立型学習機械の塊から生成されている。テクノロジィのバグであり、絶滅人類再生計画の失敗作だ。私もアクツもそんなヒトのまがい物。

 偽物の生き物には偽物の生と思いたいところだけど、アクツは言った。

「死は等しく悲しいものだ。動物だって、機械人形だって、な」

「機械人形も、?」

「機械人形も。みんな等しく」

 アクツの瞳は悲しく揺れた。彼はいくつの死を見てきたのだろう。帝都の地下しか知らない私の手を引いてくれたアクツは、私の知らないことをよく知っている。

「機械人形は生きていないよ」

 私は言った。アクツは「ササラもアカネみたいな事を言う」と静かに答えた。だから私は「感情論ね」とカテゴリー付けた。アクツの瞳が揺れる、その澄んだ黄金色はまるで夏の太陽みたいな花だった。

「そうだよ。感情論、俺たちは衝動的であるべきだ」

 携帯しているレンチを手にして軽く振る。空を切る鈍い音を立てて、指揮棒のような動きを取った。

「論理的答えなんていらない、どうせ、俺たちは理屈で縛られる」

「理屈でしか動けない、私達は複雑な生き物よ」

「複雑さを捨てた時、ある意味、俺たちは自由になれるかもしれないね」

 そう言い切るアクツは「それが自分であると、言えるはかはさておき」と言葉を重ねた。私はアクツの言っている意味がわからなかった。

 遅れて貨物船のパーツを抱えたアカネが到着する。広い海を眺めて「バカンス気取りの青春ですか?」と旧世代の冗談を言った。機械人形のクセに、アカネは情緒的なことを言う。

 地軸が傾いた世界に季節という概念は崩れ去った。それなのに夏色をした瞳をしたアクツは「夏だからねぇ、」なんて妄言を吐く。倣って機械人形、――アカネも「夏至ですもんね、」なんて言う。バカげたことを言う二人に、私は問うた。

「昼が最も長いって、昼の日拝めないのに?」

 今思えば、とっても無粋なことだったかもしれない。否定する私に対して、アクツは言った、「拝めないなら作ればいいよ」と。アクツのそういうところが嫌いで好きだった。

 地球という丸い球体の上にいることだって、宇宙からそれを眺めたわけではない。だから、目に見えたことを信じて言うなれば、きっと、私の地球は球ではないのかもしれない。なんて、アクツみたいな間違ったロジックを思考する。夏という概念を幻視した。

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