第10話見えた未来

 それから大体2年の月日が流れた。高校一年だった私は3年になり受験に勤しんだ。情報屋の仕事はあの一件以来足を洗った。しかし、元々の趣味である人間観察はそうそうやめられなかった。だから、永川先生と牧田先生がお揃いの指輪をしているのに気が付いたのも私が一番最初だった。

 2年間付き合った末に結婚したそうだ。おめでたいことで。

 かく言う私にもそれなりに変化はあった。

「架織、受かったよ!」

「おー。おめでとう、中原君」

 私、田辺架織かおりは中原君と暫定的に付き合っている。暫定的にというのは、キープとかそう言うのではなく、お互いの受験のことを考えてだ。ちなみに、私はすでに合格している。一応成績上位なので。

「架織が勉強見てくれたからだよ。改めて、また4年間よろしく」

「うん。よろしく」

 推薦で先に合格が決まっていた私は、時間を見つけては中原君の勉強を見てあげていた。自分の成績が落ちるのが嫌だったから、と言うのが主な理由だが。

「それでさ、架織。約束覚えてる?」

「……何のことですか?」

「えっ? 酷くね? 絶対覚えてるでしょ」

 約束、というのは大したことではない。中原君が合格したら、下の名前で呼ぶということだ。まぁ、なんとなく中原君の一点張りで呼んでたからなぁ。

「そんなことより、合格祝いに何か食べに行かない? 冬夜」

「えっ? もう一回」

「……何か食べに行こう」

「頼むから! もう一回言って!」

 あの時、冬夜がいなかったら私は変われなかったかもしれない。上手いこと自分を隠して、情報屋を続ける方法を考えたかもしれない。それはそれで楽しそうだけど、そんなの意味がない。

 あの時変われて本当に良かった。あの時、冬夜が私の前に現れてくれて、本当に良かった。

「冬夜、ありがと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見えてるものと見えないもの 山田維澄 @yamada92613

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る