第9話見えなかったもの2
「大丈夫?」
降ってきた声に、私は反応出来なかった。
「田辺さん、大丈夫?」
しっかりと名前を呼ばれ、私は顔を上げた。私の顔を覗き込むようにしている男子生徒と目が合った。確か隣のクラスの……
「あ、オレは
「別に、大丈夫だから。一人にしてくれない?」
心配してくれている人に対して酷い態度を取っているのは分かっているが、今は一人になりたかった。
「怪我してる。保健室に行こう」
中原は私の言うことなんて聞いてないのか、まったく別のことを言っている。
「ほっとけば治るよ。だから、一人にして」
「ほっとけないよ」
「何? 何か情報でも欲しいの? だったらあげるよ。何でも。タダで」
初めは善意だった。仲のいい友達に頼まれて情報を探って。でもいつからか、情報を集めること自体にハマっていった。駆け引きに、自分は何でも知っているという優越感にハマっていった。でも、もうやめ時だ。有名になりすぎたんだ。なりたくてなった訳じゃないのに。
「情報なんていらないよ」
彼にとっては私が必死こいて集めていたものはなんてで片付けられるものなのか。いよいよ滑稽だな。
「じゃあ、何で私に構うの?」
「キミのことが好きだから」
思考が一瞬停止した。いや、実際今でも中原が何を言っているか分からない。唯一中原の紅く染まった顔が、聞き間違いではないことを示している。そりさえなければ聞き間違いで完結している。それぐらい衝撃的だった。遅れて私の頬も紅くなった。
「気づいてなかったでしょ」
気付いてなかったもなにも、自分に好意をよせている人がいるなんて思いもしなかった。
人の事を言えなくなってしまった。私は人間観察が得意で、大抵のことは分かっているつもりだったのに。二日間かけて、私の自尊心は傷つけられてしまった。
「とりあえず、保健室、行こう」
「……ん。ごめん、肩貸して」
まったく、いつから見えなくなってしまっていたのか。
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