第8話見えなかったもの1

 私は久しぶりに10時間位睡眠を取った。なのに、昨日の事は頭から消えてはくれなかった。

「田辺さん、この前の事なんだけど無かったことにしていいですか?」

「え?」

 SHRの後に牧田先生に突然そう言われた。仕事が遅かったか。まさか、進展があったとか?

「やっぱり、自分で頑張ろうと思うんです」

「……そう、ですか」

 それ以外、何も言えなかった。進展云々は期待していなかったが、私の情報は必要とされなかったのだ。これじゃあ、給料泥棒もいいところだ。

「そうだ、牧田先生が言ってた彼女、名前は永川蘭さん。永川先生の従妹さんですよ。だから、心配しなくても大丈夫だと思います」

「そう。ありがとう」

 牧田先生は凄い。改めてそう思った。真っ直ぐに前を向けるのが、羨ましい。

「ねぇ、田辺さん。ちょっといい?」

 最悪な気分で昼食を摂っていると、そんな感じで複数の女子に呼び出された。情報屋としての仕事かとも思ったが、連れていかれたのは人気の少ない校舎裏だった。

「勝手に人の情報売ってんじゃねぇよ!」

 ただのリンチだった。リンチかどうかも分からないなんて、いよいよ気が滅入ってるんだな。

「何? どっから漏れたの?」

 興味本位で聞いてみた。確信がなく言ってるだけかもしれなかったが、そんなことまで頭が回らなかった。

「あんたんとこのお得意様って言えばわかるでしょ? ホント、人の気持ちなんだと思ってるわけ?」

 しばらく何かを言って、彼女たちは去っていった。

 どうやらクライアントに裏切られたみたいだ。彼女たちの気持ちが情報に成り得るなら、私の行動も然りか。もっと気をつけておくべきだったな。

 殴られた頬が痛い。頭も痛い。胸が、痛い。

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