第7話見えたこと

 少し、空気が変わったように感じた。脈ありと判断するには早計かもしれないが、脈がないことはなさそうだ。

「そうですねぇ。どうやって情報収集しようか悩むところですけど、後々売りますよ。それ以前に、牧田先生についての情報を求める男子は多いんですよ」

 少しだけ、男子と言うところを強調しておいた。情報収集は駆け引きなのだ。打てる手は全て打つ。

「俺が情報を売るからそれを止めてくれって言ったらどうする?」

「う~ん。牧田先生の情報も永川先生の情報も売れるからなぁ……。先生、手が止まってますよ」

「あ、悪い……」

 ここであえて指摘をしておく。別の作業をしながら思考を回すのは結構大変なのだ。情報を引き出す時は相手が作業をしている時の方が容易くなる。

「牧田先生の情報が漏れると、何か困ることでもあるんですか?」

 顔がにやけそうになるのを必死で我慢する。もう少しで欲しい情報が手に入ると思うとにやけがおさまらない。

「あんまり大人をからかうなよ。お前の交渉には乗らない。残念だったな」

「えっ!?」

 思わず大きな声が出てしまった。食いついて来ると思って多少の情報漏洩は我慢したのに。大きな魚に餌だけ持ってかれた気分だ。

 でも、このままじゃ終われない。情報屋が情報だけを抜き取られるなんてことがあっていいはずがないんだ。

「本気だったらいいんですか? 例えば私が永川先生のことを好きで、情報を集めているとか」

 打てる手は全て打つ。これが私の最後の手だ。口の中が渇く。手も汗で湿っている。

「それを言えるなら本気じゃないだろ。手伝ってくれてありがとな。後は俺がやるから帰っていいぞ」

「…………はい」

 屈辱的だった。さっさと帰って寝てこの出来事を忘れたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る