第6話見にくいこと

 さて、この人からはどう情報を引き出すかな。

「もしかして、俺についての情報収集してた?」

 意外に鋭い。好意には鈍いくせに。

「そうですよ。永川先生の情報を欲しがる人は多いんです。例えば、前川まえかわ君とか」

「男かよ!」

 永川先生はあからさまに残念がった。これは期待させるような言い方をした私が悪いんだろうな。

「良いじゃないですか。尊敬されてるってことですよ」

「前川は何て言ってたんだ?」

「このネタで先生をいじるって」

「あのやろう……」

 あ、言っちゃった。ごめん、前川君。まぁ、これに関しては守秘義務とかないし。

 そんな話をしていると、とても残念なことに教材室に着いてしまった。まだ全然聞き出せていないのに。

「ここまでありがとな、田辺。中に置い……て……」

 言葉に詰まるのも分かる。教材室のドアを開けると、雑然とした部屋が現れたからだ。誰だよ、このままにしておいたの。

「私暇なんで、片付け手伝いますよ?」

「……成績は上げないからな」

「いや、私が欲しいのは先生の情報なんで」

 もはや隠す必要は無いだろう。雑然とした室内に足を踏み入れる。さて、どこから始めようか。

「なぁ、もし俺が情報提供したらなんか他の情報貰えんの?」

 ひとまず床に置かれた教材類を手に取る。棚があるのになんで床に置かれてるんだ?

「そうですねぇ。基本的になんでも。校庭に住み着いてる猫が子供を産んだとか」

「そうなの?おめでたじゃん」

 猫が住み着いてることについては触れないのか。そのうち大量に増えて手に負えなくなりそうなのに。

「他にも誰が誰を好きとか。どの先生同士が仲悪いとか。あと、牧田先生が永川先生を気にかけている、とか?」

 永川先生の肩が僅かに震えた。自分の名前が挙がったからなのかなんなのかは判然としない。牧田先生とは違って分かりにくい人だ。

「その情報、買うって言ったらどうする?」

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