灯台守のひとりごと
灰崎千尋
気の長い話
第一回イトリ川小説大賞、お疲れ様でした。
「たったひとつの望み」というテーマは本当に素晴らしくて、多種多様な描かれ方が大変勉強になりました。ありがとうございました。
さて、以下では拙作「灯台守の少女はひとり」https://kakuyomu.jp/works/1177354054892698838 がどのように完成まで至ったか、思いだせる限り、時系列順に記していこうと思います。
<発端>
実はこの不思議な灯台というモチーフは、昨年末に行われた「第(+)一回偽物川小説大賞」のときに思いついたものでした。
このときのテーマは「邪悪なるもの」「世界の終わり」「人外女性」。この中からどれか一つでも、全部盛りでも良い、というレギュレーションでしたが、どうも期限内にうまくまとまらず、参加を見送ってしまったのでした。
灯台なのに明かりがつかない、てっぺんに行く手段がない、だけど灯台守と会話はできる、というのはここでもう設定していました。これは単純に、「灯台なのに」からの連想ですね。
この時点では、灯台守は少女ですらなく、世界の悲しみを背負った女、みたいなイメージでした。世界が終わったり始まったりを繰り返すのをただ見守るだけしかできないような。人ではないけど、人形というよりは精霊や妖怪に近い存在。
彼女が世界の終わりを告げるのを、皆に伝える「伝令」の少年が主人公の予定でしたので、キィルの原点もここですね。名前はまだなかったけれど。
しかしどうも「邪悪」と絡められず、展開もオチも決まらなかったので没。「灯台守」(仮題)というタイトルの、中途半端な下書きが残りました。
モチーフとしてはたぶん、結構気に入っていたんですね。
<こむら川+イトリ川>
「灯台守」を寝かせたまま、第二回こむら川小説大賞に頭を悩ませていますと、第一回イトリ川小説大賞のレギュレーションが発表されているのを発見しました。
わたくし、頭があんまり器用じゃないもんですから、第二回こむら川テーマ「擬態」と第一回イトリ川テーマ「たったひとつの望み」が半分ずつ頭を占めた状態で、とにかく何か書かなければ……とうんうん唸っていたんですね。
結果、第二回こむら川には遅刻してしまったんですけれども(その節はお騒がせしました)、そこに参加するはずだった「ミズチの嫁入り」https://kakuyomu.jp/works/1177354054917531388 と、今作「灯台守の少女はひとり」は、方向性は違うものの、気づけばどちらも「擬態」「たったひとつの望み」二つのテーマを内包するものになりました。
<構想>
主催のイトリ・トーコさんが非常に幻想的な、世界観の素晴らしいファンタジーをお書きになるので、眠らせていた「不思議な灯台」のモチーフは企画と相性がいいんじゃないかと思い、改めて向き合うことにしました。
ここからは少しうろ覚えなのですが、「ミズチの嫁入り」でそこそこのバッドエンドにしたので、今度はハッピーエンドが良かろう、と思ったはずです。はずなんですが、灯台は崩れ落ちてしまった方が美しいなぁ、一緒に灯台守の少女も落ちるとなお良いなぁ、と思ってしまいました。でも前作と同じはやはり芸が無いから、主役の少年一人は生かそう。それを「たったひとつの望み」にしよう、とこうなりました。
<たったひとつの望み>
個人的には、「たったひとつの望み」という言葉から考えられる情景って、献身かエゴイズムだと思ったんです。そしてそれが重なることだってあるだろうと。その結果がアレです。
<魔法つかいと自動人形>
灯台守の少女には飲まず食わずでも生き長らえ、孤独で汚れなくあってほしかったので、それを叶える正体として「自動人形」という設定がしっくりきました。どこかで波の力で発電する装置も見たことがありました。ちょっと電気は世界観的に登場してほしくないので、ゼンマイ式にしましょう。
島の人もみな自動人形ということにすれば、と考えた途端に話が転がり始めました。島が滅ぶ理由もできるし、造物主の存在も示せる。彼が人形を作った理由も自ずと「孤独」となりました。人が人を虐げるのは、人と違うから。「魔法つかい」はやはり、憧れと畏怖の対象となるはず。
<舞台設定>
ちらちらと聖書のモチーフを散りばめたのは、イトリさんには遠く及ばない、拙い扱い方ですが、イトリさんオマージュです。連想させやすくて便利というのもあります。
ジャンルを「異世界ファンタジー」としましたが、私としてはキリスト教もある世界の、まだ船がそこまで発達していない時代の物語として書きました。童話風の文体にしましたが、書いているうちに物語が童話から離れた雰囲気になってしまい、やむなく。
島を「方舟」に見たてたのもそうですね。でも動いている船だと住民が船だと気づくし、住民には何も知らないまま滅んでほしかったので、島を模した船、ということになりました。
<キャラクター>
・キィル
名前は語感先行です。なんか「ィ」を使いたかった気分で。それで改めてググると、「keel…船舶用語。船底を支える竜骨のこと。」と出てくるものですからぴったり!と命名。
ひたすら真っ直ぐな、誰からも愛される少年。人間に拾われてから彼がどうなるかは、出会った人間による、とだけ。
・灯台守のマリア
名前は、ちょっとベタかなと思いつつも、これしかない気がして。これが明かされる場面にエモを感じてくださった方がいらっしゃって嬉しいです。
名付けたのは造物主の男。一番身近な書物が聖書だったのかもしれません。たぶん迫害の対象でしたけれど。
男が人形といえば少女だろう、と安直に体をつくったものの、少女というものがよくわかっていなかったので、中身は機械化した尼僧(?)のような精神をしています。
男のことは当初「製作者」とだけ思っていましたが、娘として一緒にいるうちに、彼と彼のつくったものに愛着が生まれて、最後まで見守ることを選びます。
・魔法つかいの男
名前はありません。たぶん、実の親にも気味悪がられて捨てられています。人形の村で名乗っていた名前はたぶんある。(決めていない)
作中の通り、あまり魔法の力は強くなく、回りくどい仕掛けを要します。それでもたぶん、村社会では浮いてしまうんですよね。
何でもできる魔法つかいだったら、きっともう少し器用に生きられたんじゃないでしょうか。
物語開始時点で既に亡くなっていて、文字数が足らずカットしましたが、島の墓地に最初に葬られたのはこの人です。
何にも残らないのはどうしても耐えられなかった、寂しがりや。
<カットした話>
・島の住人が寿命で死ぬ
島の違和感を読者に与えるエピソードとして、字数があれば住人の葬式を入れても良かったかなぁ、と思ってましたが、時間軸がズレるのでなくてもいいか。
飲食物をエネルギーにする自動人形は機構が複雑なので、メンテナンス無しだと寿命がわりと短い設定。村焼かれ前は、男がこっそりメンテナンスしていたりしました。
自動人形が止まると、髪を一房だけ切り取ってこれを墓地に葬り、体は海に沈めます。するとその体は人魚姫のように海の泡と消えてしまいます。“神に祈る者”という神父役もいる設定でした。
・戒律
島の掟。「殺してはならない」とか十戒のようなことが色々書いてあるはず。ちゃんと書いたほうが良かった気もしますが、明らかに字数が足らなかったので練ってもいません。「“伝える者”を絶えさせてはならない」だけ作中に明記しました。
<結末>
当初は、灯台守の少女の望みでキィルだけ「あなただけは逃げて」とするつもりでしたが、辻褄が合わないし、魔法つかいの設定が色々増えていたし、キィルに仕事を与えるなら“さまよえる者”だな、と思ってしまいました。(キリスト教にまつわる伝説に“さまよえるユダヤ人”というのがある。カルタフィルス、という名に覚えのある方もいらっしゃるかと) キィルの場合、何も悪いことはしていないのですが。
男のたったひとつの望みが、灯台守にとってもたったひとつの望みになってしまったので、それが呪いか祝福かに関わらず、キィルが背負うはめになりました。
タイトルの「灯台守の少女はひとり」は、こちらも語感先行で付けたのですが、タイトルがこれなら、結びは「少女はひとり、海に沈んでいきました」がきっと美しい。
<文体と反省>
まだ自分らしいスタイルというのがわからないので、色んな題材を色んな文体で書こうと思っているのですが、今回は物語に合わせて童話風に。
今回は書き出したらあまり止まらずに書けました。プロットも書いた方がいいんでしょうけど……今後の課題です。
これは公開後に他の方の作品を読んで思って反省したのですが、視覚の描写が少ないんですよね。まぁ灯台守の姿が見えないのもあるんですが、聴覚や心情が中心。もうちょっと視覚情報を入れた方が絵が浮かびやすいのかもしれません。色とか全然言及していない。書くときに自分が思い浮かべるのが、影絵的なものだというのも大きいと思うのですが。
という風に長々語ってしまいましたが、今回はこのような流れでした。
魔法つかいの装置なみに回りくどいというか、川を何本もまたいだ作品だったのです。
(講評公開後に追記するかもしれません)
色んな機会をくださる各川の皆様、ありがとうございます。また川遊びさせてください。
灯台守のひとりごと 灰崎千尋 @chat_gris
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