サービス  祝

とある四月の昼下がり

桜の花びらが散りぽつぽつと葉桜に代わっていくころ

僕らが働く「きまぐれ喫茶みつどき」に一通の手紙が来た。

差出人は店長の古い友人の伊藤 三時という人だ

その日の店長は浮かれ気分で心から喜んでいるようだ

その後店長から呼び出され詳しい内容を知った


「笹原君さ 来週の日曜日は出張するからね!」


「え? どこでやるんですか?」


「決まってるでしょ! 三ちゃんの結婚式で営業するよ!」


いいのかそれと思ったが案外許可はすんなり取れた。

当日の役割は披露宴での飲み物の提供でありその日だけカクテルの作成が認められた

場所は大阪

前日に前入りをし次の日のお昼ごろから仕事に取り掛かる手筈だ。

その日の就業後、家に帰り服や荷物をスーツケースに詰めていく

手になじんだシェイカーや道具を忘れずに詰め込む

大阪には一度行ったことがあるが、ちっちゃな子供の時だったので記憶にはない

でもたこ焼きがうまかった思い出だけはある。

この年になって県外に出かけるのは初めてだ

仕事だけど楽しもう。


結婚式前日


東京駅のコンコースで待ち合わせをし少し早めに来た。

待っている間暇だったので近くの売店で駅弁を買うことにした

少し奮発していくら丼を買おうか少し値を落とした焼肉弁当にしようか迷っていると


「私のおすすめはいくら丼だよ!」


後ろから店長が急に来た。

アドバイス通りいくら丼を買い新幹線に乗り込んだ。

東京駅から新大阪駅まで約二時間半

車窓から見える景色を見つついくら丼をほおばった ものすごくおいしかった

無事に大阪に着き、ホテルに荷物を置く。

着いたのが午後六時ぐらいなので少し大阪の街を散策することにした。

さすが天下の台所と言われた場所、いたるところに屋台がある。

一人歩きながら散策をしてるとソースのいい匂いが漂ってきた。

近くのたこ焼き屋からだ。一つ買っていくとしよう。


アツアツの出来立てを買いほおばりながら歩く。

これほどいいものはない

近くの公園に行こうととぼとぼと歩き出すと男性と肩がぶつかってしまった。


「すいません…」


軽く謝ると


「大丈夫だよ!たこ焼き味わってね!」


と元気よく去っていった

暗かったので顔はわからなかったがなんともさわやかなイケメンに出会ったものだ。

そのままぶらぶらしているといい時間になったのでホテルに戻ることにした。


結婚式当日


当日朝九時に飛び起きた。

軽く身支度をしホテルから出る

店長と合流した後今日の披露宴先であるゲストハウスに向かった

結婚式を見れないのは残念だがこの時間しか設営ができないので急いで準備をした。

結婚式が無事終わり、新郎新婦が披露宴会場に到着した。

きれいなドレスに身を包んだ新婦はとてつもなくきれいで心を奪われそうになった。

店長が駆け寄り新婦に声をかける


「三ちゃん!ほんとにおめでとうー!」


「不眠!ありがと~ 幸せになるよ~!」


手を握り合いぶんぶん振っている。腕取れちゃうよ

僕も新郎新婦に挨拶をする。


「この度はご結婚おめでとうございます。 今日は精一杯作らさせていただきます。」


こんな感じでいいかな


「ご丁寧にありがとうございます。よろしくお願いしますね!」


ん?

どこかで聞いた声だ

ふと顔を見上げる

目の前にはさわやかなイケメンが立っている。


「僕の顔になんかついてますか?」


あわてて否定をする

そろそろ披露宴を開始するというスタッフからの通達が来た。

エプロンを締めなおしスペースに向かう


盛大な音楽と花吹雪とともに新郎新婦が二階から螺旋階段で降りてくる。

すごくきれいだが見とれている場合ではない。下準備をしよう。

フルーツナイフを使いレモンとライムをどんどんカットしていく。

カットしたフルーツをスクイーザーにかけフレッシュジュースを作っておく。

仕込みをしている最中いきなりスポットライトが当たった。

それに続いてスタッフから紹介をもらった


「今回喫茶店を経営している新婦様のご友人ご協力のもとドリンクを提供していただきます!」


なんともまぁ元気なご紹介だ

店長とともに軽い一礼をする

さぁ営業開始だ


様々なカクテルを作り提供をしていたがついに新婦様からカクテルの注文が入った。

注文内容はお任せ…何たるアバウト…

さぁ何を作ろう。せっかくの結婚式だ少しかっこつけたい。

あれしかないな


「店長 今から新婦様へのカクテル作るんで持って行ってください。カクテルの説明もお願いしますよ。」


せっかくだから店長に運んでもらう


シェイカーを用意してグラスを氷で冷やす

シェイカーにジンとレモン、さらにシュガーシロップを入れる

これだけではつまらないのでカウンターの下から紫色のボトルを取り出す。


「笹原君なにそれ?」


店長が不思議そうに聞いてきた。


「これはパルフェタムールっていうリキュールです。 すみれの花のお酒です。」


パルフェタムール


別名バイオレットリキュールはすみれの花から作られたお酒でありさわやかな香りを楽しめる


その香りを楽しんでもらうために持ってきたのだが理由がもう一つある。

パルフェタムールの名前の意味がその理由だ。

おっとぐずぐずしてられないな

パルフェタムールをシェイカーの中に注ぐ。

気持ちのいい香りが広がった

シェイカーに氷を詰めシェイクをする。

氷を入れていたタンブラーグラスに注ぎ炭酸水でアップする

「店長 お願いします」


新婦のもとに店長が向かう


「お待たせしました バイオレットフィズ でございます。」


薄紫のカクテルが新婦の前に置かれる。


「このカクテルの中には パルフェタムール というお酒が入っています。


フランス語で『完璧な愛』というお酒で造られたこのカクテルの酒言葉は


 『私を忘れないで』 改めて三ちゃん 結婚おめでとう!」



披露宴も終わり片付けをしていると新婦の三時さんがやってきた。


「不眠、今日はほんとにありがとう…それと笹原君だっけ」


急に名前を呼ばれたのでびっくりした


「あのカクテル作ってくれたのって君だよね? ほんとにありがとう。」


その言葉を聞いて泣きそうになった。



帰りの飛行機の中、今日起きた出来事を思い返しているとひどい眠気が来た。

今日は頑張ったんだ少し休もう。











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気まぐれなバイト録 パンダまん @pandaman5656

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