ヘッドホン越しに恋をして
砂上楼閣
第1話〜何度も何度でも伝えたい
「好きです…」
囁くような声で、呟いた。
これが何回目の告白なのか、もう忘れてしまった。
放課後、いつもの場所で、毎日のように呟いてきた告白。
君は手元の本から顔をあげない。
いつものように。
緊張でどうにかなってしまいそうで、すぐに立ち去る。
いつものように。
「…………」
自分の鼓動の音にまぎれて、囁くような音、声が聞こえた気がした。
今日も君には気付かれなかった。
それでいい。
これはいつか、消えてなくなる気持ち。
そう思わないと、この不確かで形のない気持ちが本物だと、信じられなくなってしまう。
だから囁くように告白するんだ。
君のヘッドホン越しに。
君に聞こえないように。
何をやっても人並みだった。
周りに合わせてるばかりで、自分というものがなかった。
面白くもない冗談に笑ったり、大多数の意見に流されるばかりの毎日。
自分が思ってもいないことを言って合わせて、自分を偽るばかりの人生。
けれど人生なんてそんなものだって思って、毎日どこか諦めながら生きてきた。
仲間外れにだけはならないよう。
自分一人だけにはならないよう。
人の目を気にして、人の噂に気をつけて、人から変だと思われないようにして。
人と違う事はしない。
人の邪魔をしない。
嫌な事でも表情に出さない。
これは自分なりの努力。
認めてもらいたい、けれど、目立ちたくない。
矛盾にねじれてしまった心が叫ぶ。
放課後の人気のない場所。
静かで、落ち着ける空間。
時間が止まったように静かな図書室で。
本棚に並ぶ本のタイトルを眺めて過ごす。
自分なんかとは違う、個の詰まった沢山の本たちを。
人に合わせてばかりで息が詰まるから。
ただ静かな空間で息継ぎをする。
家は家で息が詰まるから。
将来どうするか、目標はないのか。
昔抱いていたはずの夢は…
いつの間にか忘れてしまった。
いつからか君の存在が胸の中にあった。
『好きです』
そう伝えられたら、何かが変わる気がした。
休み時間、いつもヘッドホンをしていて、無口で誰とも喋らず、周りから浮いている君。
いつからか目で追っていた。
自分とは違う、正反対な君のことを。
一人なのに、独りなのに、寂しさを感じさせない君を。
一本の芯が通った、¨自分¨を持っている君を…。
そんな君を放課後の図書室で見かけて、思わず、好きだと言葉が漏れていた。
心臓の鼓動の音にかき消されて、自分でも本当に言えたのかは、分からなかったけれど。
何かが、変わった気がした。
次の日も、君は来た。
静かに頁をめくる君の横顔に見惚れてしまう。
『……好きです』
改めて覚悟を決めて、声を絞り出した。
君は動かなかった。
よかった、聞こえてないんだ。
それと、よかった、告白できていた。
鼓動の音がうるさくて、止まなくて。
すぐに図書室を後にした。
どくん、どくんと耳元でうるさくて。
でも、なんだか生きてるなって思えた。
次の日も、その次の日も。
学校のある日の放課後は、いつも君に想いを伝えた。
下を向いて本を見て、ヘッドホンをしている君に。
一言呟いていった。
変わらない君、芯の通った君の横顔を。
放課後の図書室で眺めては告白する毎日。
それが新しい日常になった。
1日ごとに変われていく気がした。
それがたまらなく嬉しくて、満たされていた。
でも…
満たされるほどに、虚しさを感じる。
ヘッドホン越しに言葉を、一方的に伝える行為。
そんなの自己満足でしかない。
どんどん自分の中に熱がこもっていく。
伝えたい、正面から。
ヘッドホン越しでなく、直接君に。
初めて告白した時のあの気持ちを。
早くしなくては、いずれ自分の冷めた部分が出てきて、これまでみたいに諦めてしまう。
それは、絶対に嫌だ、そう思えた。
彼女がヘッドホンを外した時、今度は正面から告白しよう。
君に直接言う前に呟く。
「好きです」
彼女に毎日のように言ってきた。
もう何回目か覚えていない、告白の言葉。
放課後、いつもの場所で、毎日のように呟くだけだった。
けれど今度こそ、直接…
「私も、好き」
君は本から顔を上げて、こっちを見ていた。
いつもと違って。
振り返って、呆然とした顔をしているであろうこちらを見ている。
「……え?」
君は本を閉じ、コードのささっていないヘッドホンを外した。
「ずっと前から、あなたが好きでした」
ヘッドホン越しに恋をして 砂上楼閣 @sagamirokaku
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