名前

水泡歌

第1話 名前

 2100年、人々から名前はなくなり、番号で呼ばれることになった。


 赤ちゃんが生まれると国から番号が渡され、その日からその子の名前はその番号となるのだ。


 もう人々も番号で呼ばれることが普通になっていた。


 この話にでてくる少年も番号で呼ばれることを普通に思っている一人だった。


 名前は5103という。


 5103は学校の机で外を見ながらぼーっとしていた。


 今は4時間目、社会だ。


 先生は教科書を読んでいた。内容は昔の日本についてだった。


 5103は早く帰りたいなーと思っていた。


 すると先生が近くに来て


「こら。5103、ぼーっとしてないでちゃんと授業をきかんか」


 と、怒鳴った。


「はーい」


 5103はめんどくさそうに返事をした。


 先生はその返事を聞くとまた教科書を読み始めた。


 5103は昔のことなんて勉強したってぜんぜんおもしろくないと思った。


 昔は今みたいな番号じゃなくて親が考えて名前をつけていたらしい。


 そんなことをきかされても5103のまわりには番号の名前の人しかいないので番号とどう違うのかさっぱりわからない。


 そんなことを考えているとチャイムが鳴った。


 今日はこれでもう帰れる。


 かばんを背負い5103は教室を出た。


 くつをはいて外にでると、


「4786バイバイ、また明日な」


「2341先生さよーなら」


 などの声がきこえる。


 いつもの光景だ。これが昔はどう違ったんだろうと、5103は思った。




 家に帰ると母が笑って


「5103おかえり」


 と、言っていた。


「ただいま母さん」


 笑って母にそういうと5103は和室にむかった。


 机にはおかしが置いてあった。


「母さん、明日、社会で昔のものがいるんだけどなにかあるかな」


 すると、母は


「物置に何かあるんじゃないのかしら。さがしてみたら」


 と、言った。


「うん。そうするよ」


 5103はそういうと立ち上がった。


 物置にはおじいちゃんのものなどがはいっている。


 物置をあけるとほこりっぽかった。


「あるかなー。」


 物置の中に入り、さがしていると、1冊の古いノートをみつけた。


「なんだろこれ。」


 そう言って表紙を見ると「菊地健二」と書いてあった。


「きくちけんじ……」


 5103はなんだかふしぎな感じがした。


 どうやら日記帳らしい。


 5103はノートをめくってみた。


「1月12日


 今日、先生に名前のゆらいをきいてくるように言われた。


 僕は帰ってからさっそくお母さんに僕の名前のゆらいを聞いてみた。


 するとお母さんは笑って


「健康な子になりますようにって思ってつけたのよ」


 と、いった。


 僕はお母さんが言ったことを紙にメモした。


 ほかの人の名前にはどんなゆらいがあるんだろう。」


「名前のゆらい……」


 5103はなんだかかなしかった。


 自分の名前が親につけられたのではなく、国によってつけられたことが。


 おじいちゃんみたいに名前のゆらいがないことが。


 なんだかとてもおじいちゃんがうらやましかった。


 はじめて自分の名前が数字だということがいやだった。


 5103はその日記をまた読みだした。


 すると、たかしなどのなまえがでてきた。


 5103はその日記を読みながら泣いていた。


 そしてこの日記を明日学校に持って行き、みんなにも聞いてもらおうと思った。




 次の日、5103は社会の時間に日記を読んだ。


 みんなは聞き終わったあと、下を向き黙っていた。生徒だけでなく先生も。


 きっとみんなも5103が思ったことと同じことを思っているのだろう。


 もう名前が番号であることが普通になっている時代。


 5103は自分が大人になったら、数字ではなく、親1人1人が名前を考えるような時代になったらいいなと思った。

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名前 水泡歌 @suihouka

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