魔王と融合して俺、魔法少女になったんだが!?

野生のreruhuさん

魔王で幼女で魔砲少女で

「やばいっぴ。まずは、拘束しないと被害がでるっぴよ!」

「分かってる」


 魔法、この言葉を聞いて人はどう思うのだろう?

 ただのおとぎ話?頭が逝ってる?いい加減現実を見ろ?

 そうだ。

 科学と物理法則が支配するこの世界では、魔法などと言う観測できない空想は存在しないモノ。

 そう……誰も思っていたんだ。

 あの日までは。


「あぁもう!ラッピー。まだ避難は完了していないの」

「どうやら出来てないっぴ。退路が瓦礫で塞がってて逃げられれないっぴよ」


 町一番のショッピングモール。

 五階建てで、多数の店舗が出店し休日である今日。本来ならたくさんの親子連れが顔を綻ばせながら楽しんでいただろう。

 だが、お客は全員顔を青くし一点を見つめていた。

 視線の先にいたのは一人の少女。その傍にはかわいらしいぬいぐるみが浮いている。

 いや、ただの少女ではない彼女は魔法少女なのだから。


 2015年世界は激震に覆われていた。

 隕石が太平洋に落下し電子機器が一時エラーを吐いた。

 電子機器が異常を吐くことはたまにある。例えば太陽フレアだったり、今回と同じ隕石だったり。

 今回もそんなものか。誰もが楽観視していた数日後。未知の生命体が各国で出現するようになったのだ。

 それが、魔物。

 マソと呼ばれる未知の物質を基準としたマソ系生物で、銃やミサイルなどが効果が無く人類は滅びに向かっていたのだが。


『今だっぴ』

「行くわよ!クリムゾンスマッシュ!!」


 翌年、もう一度隕石が落ち、何とぬいぐるみのような存在がコンタクトを取ってきたのだ。

 曰く、我々は魔物と敵対している。だが、我々は魔物に対抗手段を持っている。しかし、我々には運用できない。

 故に、我々と契約しないか?と。

 彼ら彼女らはマスコットと呼ばれ成長期……所謂、未成年の少女と契約をする事によって契約者を魔法が使える形態。

 ――魔法少女に成れるのだ!

 だから、戦場に立つ彼女も浮くウサギ型のマスコットと契約しているのだ。


「浅い。けど、強めてしまったら此処が倒壊してしまう」

「あ、避難が完了したみたいっぴ。ここじゃ狭いから駐車場に移つすっぴ」

「わかった」


 彼女は一瞬にして建物から出てくる。

 その後すぐに、2メートルを超える二足歩行の狼が強化された視界に映った。


「あれか……」


 そんな様子を500メートルほど離れたビルから白髪の少女が眺めていた。

 ボブの髪型に深海のような青い瞳に、黒を基調色とした軍服と学生服を合わせたかのようなデザイン。

 エナメル質の二―ソックスに革製のブーツ。

 そして手にはコントラバスほどの大きさのメカメカしい外見をした何かを持っていた。

 魔法少女?いや、近くにマスコットは居ない。けれど少女は桜色の唇を動かした。


残弾カートリッチは?」

『8発じゃ。これくらいの規模なら使わなくても殺れそうじゃな』


 少女は虚空に話しかける。

 彼女以外に声は届かない。けど、仕事をしてくれるのならば十分だ。


『ふは』

「何かおかしいか?」

『いや何。あんなに目立つのが嫌だったおぬしが、太陽の下をある事になろうとは』

「仕方ないだろ。魔石を手にするためには」


 朱色のネクタイを正しながら見守る。


『しかし、戦場にかめらまん?が来るとは。死にたいのかの』

「仕方ないだろ。政府がキッチリ働いてますって出さないと予算増えないんだから」


 狼と戦っている少女を観るギャラリーを尻目に突入準備を始める。


「ん?あれは」

『まずいぞ!』


 駐車場で戦う少女。スカーレットは焦っていた。

 彼女はレイピアで戦う魔法少女である。

 赤を基調としたドレスアーマーを纏う彼女はまさしく姫騎士と言えるであろう。

 彼女の突きはどんな装甲も貫くはずだったのだが。


(情報違う。人間を襲って成長していたの?)


 しなやかな筋肉から繰り出されるかぎ爪を危なげにバク転で避ける。

 コンクリートが裂ける切れ味なのだ。いくら魔法少女と言えど耐えられまい。

 攻撃力、防御力、機動力どれも負けている。


「ん?何だこの気配。魔王がいるっぴか?」

「何?」

「よそ見しちゃだめっぴ」

「え……きゃっ」


 彼女が意識を正面に戻した時にはすでに自身の命を刈り取る凶刃が眼前に広がっていた。

 なんとかレイピアで直撃を防いだものの威力は殺せず地面に叩きつけられた。


「ガフ」

「大丈夫っピ」

「っ……大丈夫よ問題ない」


 なんて強がって見た物の少なくないダメージは受けていた。

 レイピアを持っていた腕はズタボロで血が噴き出ていな部分を見つけるのが難しい。

 あばらも何本か折れただろう。

 左手でレイピアを持ち直す。


(私が何とかしないとみんなが)


 けれど、彼女の足は震えて動かない。

 じゅるりと狼型の魔物が舌なめずりをし、捕食しようと飛び込んだ。

 痛みに堪えようと目を瞑る。

 五感が伝えてきたのは自身が生きたまま食われる激痛ではなく。


「グギャァァァァアアアアアア!」


 獣の叫びと爆発音であった。


「大丈夫か?」


 私の目の前に現れたのは見たこともない砲を操る、魔砲少女だった。




 しくじった。焦ってカートリッチを一つ無駄にしてしまった。

 いや、一人の命を救えた分と考えればまだ、許せるな。


「貴女一体?」

「動けるか?」

「えぇ、こんな傷。うぅ」

「無理するな。下がっていろ」


 赤い魔法少女にその場にいるように指示し砲を構えなおす。

 相変わらず扱いにくい武器だ。


『そりゃ、おぬしの身長並みの大きさだからの。けど破壊力は万全じゃろ』


 まぁな。

 吹き飛んだ狼が立ち上がる。

 食事を邪魔されて怒っているのがひしひしと伝わる。

 さて、こんな外見だ。遠距離戦しかできない。そう思う人もいるだろう。

 けれど……。

 狼は馬鹿の一つ覚えに突っ込んでくる。

 一応知性があるのか、砲撃をすぐに避けれるように姿勢を低くしているのはやはり獣としての本能か。


「けどな、カウンターを持ってるんだよ」


 そう言い相手の想像とは違い一歩前に踏み出した。

 迎撃か退避の二卓を取るだろう。そう思っていたのかは定かではないが、驚愕の感情が押し寄せてくるのは分かる。

 今の状況は懐に飛び込んだ、いや相手が罠にかかったか。都にも書くチャンス。

 相手の無防備な腹部目掛けて、闇魔法で強化した砲……ムーンマターで殴打した。


「そんなこと有り得ないっピ。今のは闇魔法……」


 今までの装甲が溶けたかのように相手にダメージを与えていく。


「終わりだ」


 そう白髪の少女がいい四角いを取り出し、砲に装填した。

 キュインと周囲のマソが吸収され、砲塔に禍々しい魔力が集まってくる。

 それは差し詰めすべてを破壊する嵐のように。


「ファイナルバースト!!」


 空気が止まるほどの威力を持って相手を消滅させた。


『「これが未来を穿つ力だ」』

「なんなの彼女……ラッピー?」

「この魔力。魔王どうして」


 歯車は小さく回り始める。たとえそれは見えぬものだとしても。


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魔王と融合して俺、魔法少女になったんだが!? 野生のreruhuさん @reruhusan

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