貴方の手が好きでした。

 貴方の声が好きでした。

 貴方の瞳が好きでした。


 私を触れるぬくもりが。

 私を呼ぶやさしさが。

 私を見つめるつよさが。


 私は恋をしていました。


『お前、おかしいよ!!』


 今度は失敗しない。


『また友達から言われたぞ!? お前にいきなり責められたって!!』


 浮気を疑っている?

 まさか。そんなはずがない。その程度の女だと思われたくはない。


 私はただ、彼が私以外とどんな会話をするのかが知りたかっただけ。


『どうしたんだよ……、お前、そんな奴じゃなかったじゃないか!』


 貴方を奪われた。


 貴方の手が他の女を触れる。

 貴方の声が他の女を呼ぶ。

 貴方の瞳が他の女を見つめる。


『もう、もう無理だ……。お前と一緒に居ると俺までおかしくなりそうだ。このままじゃ、自分で自分を殺しそうだ!!』


 家を飛び出した貴方が空を舞う。

 死んでいく貴方の瞳には、私だけが映るの。最期まで、私しか映らない瞳は素晴らしいと思ったけれど。


 そのあとすぐに、なにも映さなくなるのだから。それでは何の意味がない。


 貴方の手が好きでした。

 貴方の声が好きでした。

 貴方の瞳が好きでした。


 もう一度手に入る。

 大丈夫。かなではきっと、ううん。絶対につかさになれるから。


 今度こそ失敗しない。


 逃げるように飛び出していったゆかりは、奏のところへ行くのかな。でも、駄目。あの子の言葉で彼は動かない。


「雨……」


 真夏の空に、通り雨。

 明るい天気雨の別名は、

 狐の嫁入り。


 もう一度手に入る。


「はやくプロポーズしてくれないかな」


 今度こそ、


「こんこん」


 失敗しない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空に走る @chauchau

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ