最終章・そんな世界に祝福を
─────やはり私の目に狂いはなかった!。勇者よ、あなたは素晴らしい戦士です!。
男の頭の中に優しい女性の声が響く。
男は上着の正面のボタンを留め、元の恰好に戻ると、女神へと質問をする。
「色々突っ込みたいとこもあるが…一体さっきの、レーザーみたいな光線はなんだ?。お前は体に宿して戦うとか言ってただろうっ!?」
─────それはちょっと私も分かりません。全身聖服で散々押さえ込まれていた精霊の力が、宿すだけでも足りずに溢れた結果ではないかなと…。
「…つまり、オレがこんな風に服を着てると、そのレーザーをチャージしてる状態って事か?」
─────れーざー?。ちゃーじ???。ごめんなさい、勇者の言葉は難しくて良く分かりませんが、抑圧の後の反動という事だと思います。
…ふむ。大体予想通りって事か。
男は少し考え、じゃあ基本的にこのまま服を着ておいて、その時に備えるのが無難なのかと納得する。
「あ、そういえば。あの光線の後疲労も何もなかったが、精霊の力っていうのは使い放題なのか?」
─────え?。普通精霊の力を宿した後は、それなりに疲労する筈なのですが…?。
いまいち意味が分からないが、こんな風に疲労がないのは異世界転移特典なのだろうと軽く考える。
女神ルナテミスが案内するままに、男は近くにあった村へと移動する。
そこは既にいたる所が破壊され、人の気配すらなかった。
「…これはひどいな」
─────はい。ダークエリュフ達は生き残っていたエリュフ達を次々と襲っては、闇へと墜としていき、どんどん勢力を増しています。
『闇堕ち』という単語に、男が息を荒くして反応したのは、きっと気のせいである。
─────なので勇者よ、あなたには全てのエリュフ達が闇に墜とされる前に、暗黒城にあるという闇の女神、ダクネミスを倒していただきたいのです。
「その、女神って事はあんたみたいにどっかから命令してるだけじゃないのか?。そんな奴をどうやって倒せばいいんだ?」
─────それは大丈夫です。女神ダクネミスはエリュフ達に闇の力を与える為には、この世界で実体化する必要があるのです。
「なるほど、つまりその実体化をした女神を倒せば、エルフ達を闇堕ちから救える、そういう事なんだな?」
─────エルフじゃなくてエリュフですからね?。でもその通りです。世界を救う為に、女神ダクネミスを倒してください。
それから男は、女神の案内に従い暗黒城を目指した。
途中何度もダークエリュフ達の襲撃を受けるも、レーザーで撃退をしていく。
そして男は、とうとう暗黒城へとたどり着き、数々の敵を倒し、ついに女神ダクネミスのいる暗黒神殿へと足を踏み入れた。
『くっ、まさか我が子達を倒しここまでくるものが居ようとは。だが、それもここまでだ!』
目の前には長い長い毛足の毛皮のマントに包んだ前髪で片目を隠した、黒髪の妖艶な女性が、高台にある禍々しい椅子に腰かけて男を睨んでいた。
そして横に立つダークエリュフに手で合図をする。
ダークエリュフは高台から軽々と男の目の前まで跳んでくる。
その姿は、男と同じく長い服で隠されていて、今まで戦ってきたビキニアーマーのエリュフ達とは違った雰囲気を漂わせている。
『お前の事は調べてある。この様に封じ込めた後に開放する事で力を放つなどとは考えもつかなかった。だが手法さえわかればそれだけだ。さぁ、やれ!』
「私はダクネミス様の第一の司祭。光の勇者よ、お前はここまでだ!」
そう言うとエリュフはいきなり服の前を開け、男に向かってそのビキニアーマーを見せつける。
だが、レーザーの光が出るどころか、明るく光る事すらない。
「な?なぜだ!?。こうしたらいいのではなかったのか!?」
司祭が焦っている中、男が服に手を掛ける。
「やらせはせぬ!」
エリュフが飛び掛かって来るものの、その拳は男のコートに簡単に弾かれた。
─────勇者の身に着けているのは聖服ですよ?。聖服に通常の攻撃が通じないのは当然です。
…そんな設定あったのか。確かに、光ってない部位で殴ってくることはなかったから、知らなかったな。
「くっ!。こんな服を着ていては精霊の力が出るわけがない!」
エリュフは急いでその場で服を脱いでいく。
目の前で女性が服を脱いでいく…そんな姿に男が何故か、攻撃も加えずに息を荒くしてただ見ているだけだった。
─────勇者よ?。なぜ見てるだけなのですか?。力を出せない内に司祭を倒すのです。
「…はっ!。いや、そんな卑怯な真似は勇者として出来ない。そんな卑怯な勝ち方をして救われても、民は納得しないだろう?」
男が言うと、女神は当然として目の前のエリュフ、更に高台の上の闇の女神すらも称賛の拍手をする。
拍手を受け、ちょっと体裁悪そうに頭をペコペコ下げる男の前に、ビキニアーマー姿のエリュフが身構えた。
「待たせたな勇者よ!。さぁ、いくぞっ!」
さすが司祭というべきか、全身を光らせながらエリュフが飛び込んでくる。
男は服の前を開きエリュフを迎撃する。
─────くぱぁ
いきなり目の前に現れた裸にコートという異様な姿に、エリュフが赤面したと思うと、放たれたレーザーに撃たれ塵と化す。
『な、なんだそれは!?。なぜそんな格好をしている!?』
高台の上から闇の女神が声をあげる。
報告は受けていたものの、服の中が裸などとは聞いていなかったからだ。
確かに身に着ける聖服が減れば減るほど精霊の力は増す。
だが、精霊の力は強く、全裸で使おうものなら、その肉体を破壊しかねない程なのだ。
だから自分の子達には、部位しか隠せない、体が耐えられるギリギリのあの鎧を与えたのだ。
『だというのにこの勇者は、むしろその部位を隠していないだとっ!?』
なるほどと闇の女神はやっと納得する。
あの広い面積を隠していながらもあれだけ精霊の力を使えているのは、隠すべきところを隠していないという対価故だったのかもしれないと。
『…ならば。こちらにも考えがある!…あるが、ちょっとまて!。心を落ち着けて、気合入れるからっ!』
闇の女神が椅子から立ち上がり、大きく深呼吸をしてから男に背を向ける。
そしてなにやらごそごそとしたかと思うと、再びこちらを向き、男へ向かって飛び跳ねた。
『─────っ!!!?』
いきなりびっくりしたような顔をしてマントの上から胸と股間の部分を手で押さえ、不格好な体勢で着地をする。
服の前を開いたままの男性から極力視線を外しながら、闇の女神が顔を真っ赤にして裏返った甲高い声で言う。
『い、今からぁ!。お前をこっぱみじんにしてやるから、かくごしろよっ!?』
そして、意を決したように体を覆ったマントを脱ぎ捨てると、そこには手袋とくるぶし位までしか隠してない靴だけを纏った闇の女神が居た。
そして全身は強く輝き、精霊の力が活性化している事を証明している。
そんな闇の女神を見る男性の目が、サングラスの奥で大きく見開かれる。
そして、もう死ぬんじゃないかという位に息を荒くしていた。
『と、とにかく!。勇者よ、お前はここで私に倒されるのだっ!』
羞恥で顔を真っ赤にしているダクネミスが、男に向って殴りかかってくる。
仕方なく見た男の、嫌々ながら目に入ったその男性自身は、まさに天を衝く勢いであった。
『っ!!!?。っきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!』
目を強くつぶると、闇の女神らしくない黄色い大きな悲鳴と共に、凄まじい威力の拳が男性へと襲いかかる。
男性は避けもせずにそれを受ける…じっと闇の女神の体を血走った目でロックオンしたまま、ぴくりとも動かなかった。
肌面積に応じて威力を上げる精霊にとって、羞恥心とは力を制限する枷である。
それ故に、肌を出し過ぎると羞恥心と精霊力が反発しあい暴走・暴発を起こすのだ。
あれだけ羞恥心にまみれながらも、暴発する事なく拳を放てたダクネミスは、さすが女神というだけいうだけあった。
ではもし、羞恥心どころか他人に肌を見せる事で、むしろ興奮を覚える者が精霊と組んだらどうなるのか?。
普通は相反しながらも折り合いをつけて発する筈の力が、相互納得の上で同じ方向を目指した上で発するのだ。
そして、肌を出してもらってすぐにでも力を出したい精霊と、異性へと裸を見せつけ、驚く顔を見るために、その瞬間まで必死に隠し我慢する男は更に共感する。
その結果、男はもはや精霊といえる程に完璧な融合を果たす。
つまり、多少精霊の力を宿した程度の打撃などで、本物を倒す事などは決して出来ないのだ。
『・・・え?』
あれだけ精霊の力を乗せた渾身の打撃が、目の前の勇者に全く通じない事に動揺が隠せない。
ダクネミスはそんな焦りを感じながらも、ゆっくり目を開く。
拳を放った格好のまま止まったので、開いた目の前には天を衝く男性自身がそこにあった。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』
また黄色い悲鳴を上げ、闇の女神が腰を抜かす。
そんな闇を女神を見る男は激しく息を乱しじりじりと寄ってきて、一度服の前を合わせる。
『く、くるなぁっ!。くるなぁぁぁぁぁっ!』
もはや闇の女神の威信も何もなく、腰を抜かして立ち上がる事すら出来ずにいた。
片手で胸を隠し、内股気味にする事で女神自身を隠し、手で顔を覆い指の隙間から男を見ながら、ズルズルと後ずさりしているダクネミス。
そんな闇の女神を見ながら更に息を荒くし、こんな風に服でほんの一瞬隠すだけで、男性興奮は最高に高まってゆく。
そして、その興奮に同調して、精霊達もこれ以上になく活性化して、放たれるその瞬間を今や遅しと待っている。
そして、精霊を具現化した様な男が、何の枷もなくその力を、顔を真っ赤に赤面させている女神へと、その溜まりに溜まった力を開放する。
─────ぱっかぁぁぁぁぁん
「…………わが生涯、一片の悔いなし」
それはまさに光の大洪水だった。
その光は神殿どころか暗黒城すらも軽々と包み、空には巨大な光の柱が立ち上がった。
その光が収まると、そこには闇の女神の姿はなく、拳を上に突き上げたまま、これ以上にない満足な顔で立ったまま真っ白に燃え尽きていた男の姿があった。
世界を覆っていた黒い霧は晴れ、世界に再び光が差していた。
闇の女神が消え、闇堕ちしたダークエリュフ達は正気を取り戻し、世界には再び平和がもたされた。
自分達を知らぬ間に救ってくれた勇者の事を知る者はおらず、エリュフ達は皆で月の女神を称えるのだった。
称えられる月の女神は、エリュフ達に真実を答える手段すらなく、ただ涙を流していた。
全ての力を出し尽くし、世界を守りそして天に召した男へ、月の女神は感謝の言葉を続けるのだった。
いつまでも…そう、いつまでも。
─────ありがとう、勇者よ。世界は救われました。
~fin~
闇の世界に祝福を 更楽茄子 @sshrngr
★で称える
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