突如ニューヨークを襲った未曾有の危機、大量のサキュバスを含んだ巨大ハリケーンと、それに立ち向かう男たちの物語。
混ぜるまでもなく危険物だったはずのコメディを、さらに混ぜるな危険のコメディにしてしまった恐るべき作品です。ていうか暴力。こんなの発想力を凶器にした殺人だと思います。
緊迫しているはずのドラマチックな状況に、でも明らかに場違いな〝サキュバス〟の一語を混ぜるだけで、もういろいろどうしようもないことに。いやおそらくオマージュ元と思われる映画の時点ですでにどうしようもないのですが(サメの竜巻)、でもそのどうしようもなさをさらに上書き・倍増してくるこの発想。だって元が完全なインパクトの塊なのに、それに押し負けない出力という時点で相当な異常事態ですよ……こんなの思いついた時点でもう勝っている……。
いや本当すごいです。おそらく『パロディ』と言っていいくらいにネタ元を連想させるタイトル(及び設定)ではあるのですが、でもその魅力や面白み自体はパロディのそれではないんです。作品外の何かに依存しない、独立した作品としての面白さ。逆に言うと『独立してるのに綺麗に被せている』という、ある意味矛盾したことを同時にやってのけているのがすでにすごい。
お話の内容は徹底したコメディで、頭を空っぽにして楽しめます。わかりやすさと勢いがあって、その辺りは下敷きとしたモチーフ、B級サメパニック映画のそれをそのまま再現しているような趣を感じるのがとても好き。ジェットコースターのように進行していくスリリングな状況を、ただそのまま(そして細かいあれやこれやに笑いながら)楽しめばいい作品だと思うのですけれど、でも同時に意外としっかりした人間ドラマが描かれていたりするところも面白かったです。
主人公であるメイスン・タグチの来歴や境遇、そしてそこに生じる苦悩や葛藤など。それが本編の活躍を経て解決あるいは前進するなどして、つまりよく見るとしっかり物語しているのだから侮れません。バーバラの存在や父との確執、そしてマークに対する感情の変化等、むしろ分量の割にはドラマが多いくらいなのだからまったく恐ろしい話。
とまあ、すごいところや好きなところ、そしてコメディとしての笑いどころはいくらでもあるのですが。中でも一番好きなのは——若干ネタバレになってしまいますが、このお話のラスボスにあたる存在です。ある意味どんでん返しとも言える衝撃の造形(※場合によっては「やっぱり!」あるいは「待ってた!」かもしれません)に加えて、今までの淫魔に比べて破格の扱い。いやむしろその「今まで」の方が軽すぎるのですけれど、でも実際ハリケーンの中に何匹でもいる以上はそりゃ大安売りにもなるよね、というこの無常感。笑いました。それもこの笑ったという感覚に、謎の爽快感がついてくるような不思議な面白み。
凄かったです。心を鷲掴みにして離さない強烈なインパクトと、その傍らで丁寧に綴られる人間ドラマ。にもかかわらず『B級』っぽさを失わない、しっかりした芯のある作品でした。