やがて、次の冬がやってきました。

 ですが、十二月最後の朝になっても雨がやまず、村人たちは困っていました。

「このままじゃ、初日の出も見られないかもなぁ」

「そうだな。稲や野菜もだめになっちまいそうだし」

 残念がる人間たちを見て、イタチと猫は山の龍穴りゅうけつへ行きました。

 ぱらぱらと降る冷たい雨で毛並みも濡れて、くしゃみも出ました。それでも、走って龍穴に着く頃には、体も少し温まっていました。

「龍、お願いがあるの」

「人間たちに初日の出を見せてやって欲しいんだ」

 二匹から話を詳しく聞いて、龍は真剣な顔でうなずきました。

「そうだね。十二支のみんなも、見たいって言ってたし。やってみるよ」

「ありがとう」

「おれ、おまえが天気を変えるとこを見てみたいな」

「わたしも」

「いいけど、前にも言った通り、ぼくは力を一度使うとものすごく疲れちゃうんだ。きみたちも、危ない目に遭うかもしれないよ」

 心配そうな龍に、イタチは笑顔で答えました。

「わたし、龍みたいに空を飛べないから。龍が見てる景色も見てみたくて」

「おれもそんな感じだな」

 猫も、イタチの隣でにんまりと笑います。

「仕方ないなぁ。いつもは、この龍穴の中で力を使うんだけどね。じゃあ、夜になったらきみたちを連れていくよ」

「やったぁ」

「ありがとな、龍」

 そして、その日の夜。

 イタチと猫は、龍の頭に乗せてもらいました。空へ向かう間、雨に濡れないようにと大きな落ち葉を傘代わりにして。

 風がぴゅうぴゅうと吹きましたが、二匹が落ちないようにとゆっくり飛んでくれる龍のおかげで、へっちゃらでした。

「かなり高いところまで来たね」

「暗くてほとんど何も見えないけどな」

 龍の体は、うっすらと緑色に光っていますが、真下に広がる景色は真っ暗です。

 空を覆う重たい雲へ飛びながら、龍はイタチと猫に言いました。

「今からぼくが雨雲を払って、雨を止めるよ。きっときれいな月が見えると思う」

「わかった」

「力を使ったら、龍はどうなるの?」

「飛ぶ気力もなくなって、山に落ちてしまうかもしれない」

「えぇっ」

「だから、もしそうなったら、きみたちはぼくの角にしっかりつかまってね」

「うん……」

「そ、そうさせてもらうぜ」

 木登りが得意なイタチや猫も、さすがに高い空から地面に落ちたことはありません。

 お互い、不安になりましたが、龍に連れていってもらうからには最後までしっかり見よう――と決めていました。たとえ、途中で何が起きても。

「じゃあ……やるよ」

 空中で止まった龍の角が、白く光り始めました。あまりのまぶしさに、イタチと猫はぎゅっと目をつぶります。

 すると、雨の音がだんだん小さくなって、風も静かになっていきました。

 光が引いた頃、イタチと猫が目を開けると、雲はすっかり消えていました。

 雲に隠されていた大きな満月が、夜の景色を優しく照らします。

「うわぁ……」

「すごいな、月ってこんなにでかかったか?」

「ありがとう、龍!」

「これで明日の初日の出も見られるな」

 イタチと猫は大喜びしましたが、龍の返事はありません。

 龍の体が、急に揺れ始めました。

 ゆらゆら、ぐらり。

「きゃーっ!」

「うわーっ!」

 イタチと猫は、悲鳴を上げながらも、龍の角にしっかりとしがみつきました。

 龍と一緒に、地上へ真っ逆さまに落ちてしまいます。

 ――どうしよう……わたしと猫は、いざとなったら飛び降りることもできるけど、龍がケガしちゃうかも……!

 誰か助けて、とイタチは必死に願いました。

 すると、その時です。

 周りがほんのりと金色の光に包まれて、龍の体がふわっと止まりました。

「だいじょうぶか、おまえたち」

「あっ!」

「神様!」

 イタチと猫が見上げると、神様が下りてくるところでした。

 神様は、ぐったりした龍を不思議な力で龍穴の近くへ寝かせてくれました。

 龍の頭から降りたイタチと猫に、神様はため息をつきます。

「まったく、随分と無茶をしたな」

「ごめんなさい……」

「でも、龍は悪くないです。おれが、力を使うとこを見たいって頼んだから」

「わたしもです」

「うむ、わかっている。おまえたちが、人間たちに初日の出を見せたくて動いたこともな」

「えっ」

 神様は、にっこり笑いました。

「イタチ、猫。私はおまえたちを十二支には選ばなかったが、人間を想っての行いは素晴らしい。龍やほかの動物も含め、これからも仲良くしなさい」

「は、はい」

「ありがとうございます、神様っ」

 天へ帰る神様を見送って、イタチと猫はほっとしました。

 そして、龍が目を覚ますと、イタチは神様が助けてくれたことを話しました。

「そうだったんだね。神様にも、新年のごあいさつをする時にお礼を言わないと」

「わたし、十二支になりたかったけど、ならなくてもよかったかも」

「どうして?」

「十二支になったら自慢できるし、人間たちにもいつものいたずらを大目に見てもらえるんじゃないかなって思ってた。でも、そんなの違うよね。龍みたいに人間を愛して動ける動物が、十二支になれるんだなって思った」

「イタチ……」

 龍は、イタチの褒め言葉に少し照れました。

 イタチに続いて、猫も言います。

「ま、おれも正直ネズミにはまだ腹が立ってるけどよ。終わったことにグダグダ言うのも、かっこ悪いしな。おまえら十二支の活躍、楽しみにしてるぜ」

「猫……ありがとう」

 二匹と一体は、静かな山で笑い合って、ますます仲良くなりました。


 ――明日からのウシ年も、いい一年になりますように。


 夜空に浮かぶ満月に、イタチは祈りました。

 神様は、この日のイタチの行いを認めて、毎月の一日を『ついたち』と呼ぶことに決めたのでした。

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十二支にはなれなくても 蒼樹里緒 @aokirio

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