参
イタチと猫と龍は、まず猪に会いました。山の獣道を歩いていた猪に、イタチが声をかけました。
一月一日のことを話すと、猪はしょんぼりした顔になりました。
「イタチ、本当にごめんよ~。あの時、門の前にきみがいたって知ってたら、順番を譲ったよ~。大事な日に遅刻したオレが悪いんだし~」
「ううん。猪の気持ちがわかって、わたしも安心したよ。ありがとう。ケガもしなかったからだいじょうぶ」
「そっか~、よかった~」
猪に仕返しをしてしまう前に、龍に相談してよかった――と、イタチはほっとしました。
そして、猪と別れた後、しばらくしてネズミを見つけました。
自分の巣穴を掃除していたネズミは、猫を見るとびっくりして、巣穴の奥に隠れてしまいました。
「こら、逃げんな!」
「猫、待って!」
ネズミを追いかけようとする猫を、龍が巣穴の前に頭を下ろして止めました。
「待てねえよ、どけ!」
「落ち着いて。話し合いに来たのに、ネズミを怖がらせるのはまずいよ」
「わたしがネズミを呼んでこようか?」
「うん、頼むよ、イタチ」
龍が猫を落ち着かせる間、イタチは穴の横からネズミを誘いました。
「ネズミ、猫が話したいことがあるんだって。すぐ終わると思うし、顔を出すだけでもしてくれる?」
「本当……?」
イタチの言葉を聞くと、ネズミはおそるおそる奥から出てきました。
ネズミが穴から顔を出すと、龍が頭を浮かせて、猫とネズミが向き合うかたちになりました。
――だいじょうぶかなぁ……。
少し離れて二匹を見比べながら、イタチはハラハラします。ネズミにも仕返しをしたい気持ちは、もうありませんでした。
猫が深呼吸をして、ネズミに話しかけました。
「おい、ネズミ。おまえ、
「うん」
「おれだけじゃなくて牛まで
「ご、ごめんなさい……っ」
ネズミの声と体が、ぷるぷると震えます。
「声が小さいな。この辺にいるほかの虫とか動物とかにも聞こえるように謝ったら、許してやるよ」
「ごめんなさい! おいらが悪かったです!」
ネズミは穴からぱっと飛び出して、地面におでこがつくくらいに頭を下げました。
猫は、ネズミをじーっと見つめて確かめました。
「ほんとに反省してんだな?」
「してるよ、もうしないよっ」
「じゃあ、牛にもあとでちゃんと謝れよな」
「わかったよぉ」
どうにか話が済んで、イタチと龍は顔を見合わせて笑いました。
山に冷たい風が吹いても、イタチの心はぽかぽかしていました。
「ねぇ。龍はわたしたちとは違って、人間の目には見えないんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、どうして十二支に選んでもらえたの?」
「あぁ、それはね」
イタチと猫の真上をゆったりと飛びながら、龍は答えます。
「ぼくは、人間たちの願いから生まれて、神様に姿をもらったんだ」
「えっ、なんかすごい」
「へー、そうだったのか。そりゃあ、おれたちの誰よりもでかくなるわけだ」
イタチも猫も、びっくりしました。
「人間たちは稲や野菜を育てたり、動物の肉や魚を食べたりするだろ。でも、その日の天気が悪いと、育つものも育たなくなる。だから神様は、ぼくに天気を操る力をくれたんだ」
「なるほどなー」
「そんな便利な力があるなら、いつでも好きなようにお天気を変えられるんじゃないの?」
イタチが聞くと、龍は首を横に振りました。
「それはできないんだ。力を一度使うと、その日は動けなくなるくらい疲れちゃうから」
「うわぁ、大変なんだね」
「神様も『天気はなるべく自然の力に任せたほうがいい』っておっしゃってるからね」
雨が何週間も降らなくなった時、人間たちが
――あの後、雨を降らせてくれたのも龍だったのかも。
人間たちの食べ物を頼りにしているイタチにとっても、それらが育たなくなるのは困ります。
――ありがとう、龍。
心の中で、イタチはお礼を言いました。
「神様がおっしゃるように、人間は愚かなこともするけど、ぼくはすべての人間を愛するよ。だから、十二支になれたことも誇りに思う」
木々の枝や葉の隙間から、陽の光がこぼれます。
それを浴びて笑う龍を見て、イタチと猫も笑い合うのでした。
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