弐
村を囲む大きな山に、『
村人は、龍穴には絶対に入ってはいけないことになっています。ですが、イタチと猫には人間の決まりなんて関係ありません。お供え物の食べ物をつまみ食いしてから、さっさと進んでいきました。
「おーい、龍。いるかー?」
猫が呼ぶと、奥からのっそりと長いものが伸びてきました。
「やぁ、猫とイタチじゃないか。よく来たね」
龍は、二匹ににっこり笑います。大きな頭には二本の角、裂けた口には鋭い牙が生え、目もぎょろっとしている龍ですが、声も話し方ものんびりしているのでした。
「ねぇ、龍。わたしたち、相談したいことがあるの」
「何だい」
ネズミと猪への仕返しのことを聴くと、龍は困った顔になりました。
「やめたほうがいいと思うよ。悔しい気持ちはわかるけど、そんなことしたって意味ないよ」
「えー? 龍だって、あの競争で一番になりたくなかったのかよ」
猫が、不満そうに言います。
「おまえなら、神様のとこにひとっ飛びできたと思うぜ」
「うん、わたしもちょっと意外だなって思った」
「ぼくは何番でもよかったんだ。みんなより体もかなり大きいから、ゆっくり行っても間に合うだろうと思って」
「わたしと同じだね」
見た目で怖がられやすい龍の優しさを、イタチはよく知っていました。
「ぼくは蛇とほとんど一緒に着いたけど、蛇が『先にどうぞ』って譲ってくれて、五番目になれたんだ」
「ふーん。蛇も親切だな」
「猫に噓をついたネズミはともかく、猪には悪気はなかったよ。干支の名前が決まったあと、『イタチには悪いことをした』って言ってたし」
「えっ、そうなの?」
イタチのまるい目が、ますますまるくなりました。
「イタチはずっと門の前にいて、ぼくらを先に通してくれたからね。猪が来たあと、みんなふしぎがってたよ。イタチはどうしたんだろう、って」
「そうだったんだね。今度、猪に会ったら話してみる」
「うん、それがいいよ」
胸の中を覆っていたもやが晴れていくようで、イタチはにこにこしました。
「けど、なんでネズミが一番乗りになれたんだ? 牛のほうが先だったんだろ」
「うん。わたしが着いた時、牛は門を通るところだったから」
「それがね……」
龍は、困ったように笑いました。
「ネズミ、実は牛の背中にこっそり乗ってたらしいんだ」
「ほんとかよ、せこいな」
「牛が門に着くギリギリのところで飛び降りて、門をくぐったんだって」
「なるほどねぇ」
「あいつ、牛まで
「落ち着きなよ、猫。怒る気持ちはわかるけど、仕返しはよくないよ」
猫は牙をむき出しにして、毛や尻尾をぶわっと逆立てました。
龍が、猫をやんわりと落ち着かせようとします。
うーん、とイタチは首をかしげました。
「猪の気持ちはわかったけど、ネズミは猫と牛に悪いと思ってるのかなぁ」
「どうだろうね。直接聞いてみないとわからないかな」
「神様は猫を怒ったけど、『実はネズミに騙されたんです』って言えば、許してくれる気もする」
「よし、やっぱネズミをシメに行くか」
「やめなってば」
「じゃあ、このまま黙ってろっていうのかよ」
「そうじゃないけど。ネズミにも、ちゃんと話しに行ってみればいいと思うよ」
「えぇー」
龍に勧められても、猫はまだ不満そうです。
まあまあ、と龍は話を続けました。
「不安なら、ぼくも一緒に行くからさ。二匹きりで話すと、またネズミが嘘をついてしまうかもしれないからね」
「まあ、そういうことならいいぜ」
「ありがとう。イタチはどうする?」
「わたしも猪と話したいから、龍にも来て欲しいな」
「わかった。じゃあ、早速行こうか」
ネズミと猪も、山に
二匹と一体は、彼らを捜しに山を歩き始めました。
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