村を囲む大きな山に、『龍穴りゅうけつ』という暗い洞穴ほらあながありました。その前には、村人たちからのお供え物も置かれています。

 村人は、龍穴には絶対に入ってはいけないことになっています。ですが、イタチと猫には人間の決まりなんて関係ありません。お供え物の食べ物をつまみ食いしてから、さっさと進んでいきました。

「おーい、龍。いるかー?」

 猫が呼ぶと、奥からのっそりと長いものが伸びてきました。

「やぁ、猫とイタチじゃないか。よく来たね」

 龍は、二匹ににっこり笑います。大きな頭には二本の角、裂けた口には鋭い牙が生え、目もぎょろっとしている龍ですが、声も話し方ものんびりしているのでした。

 うろこがびっしりと生えた龍の体は、うっすらと緑色に光って、周りを明るく照らします。

 あごを地面につけた龍に近づいて、イタチは早速話し始めました。

「ねぇ、龍。わたしたち、相談したいことがあるの」

「何だい」

 ネズミと猪への仕返しのことを聴くと、龍は困った顔になりました。

「やめたほうがいいと思うよ。悔しい気持ちはわかるけど、そんなことしたって意味ないよ」

「えー? 龍だって、あの競争で一番になりたくなかったのかよ」

 猫が、不満そうに言います。

「おまえなら、神様のとこにひとっ飛びできたと思うぜ」

「うん、わたしもちょっと意外だなって思った」

「ぼくは何番でもよかったんだ。みんなより体もかなり大きいから、ゆっくり行っても間に合うだろうと思って」

「わたしと同じだね」

 見た目で怖がられやすい龍の優しさを、イタチはよく知っていました。

「ぼくは蛇とほとんど一緒に着いたけど、蛇が『先にどうぞ』って譲ってくれて、五番目になれたんだ」

「ふーん。蛇も親切だな」

「猫に噓をついたネズミはともかく、猪には悪気はなかったよ。干支の名前が決まったあと、『イタチには悪いことをした』って言ってたし」

「えっ、そうなの?」

 イタチのまるい目が、ますますまるくなりました。

「イタチはずっと門の前にいて、ぼくらを先に通してくれたからね。猪が来たあと、みんなふしぎがってたよ。イタチはどうしたんだろう、って」

「そうだったんだね。今度、猪に会ったら話してみる」

「うん、それがいいよ」

 胸の中を覆っていたもやが晴れていくようで、イタチはにこにこしました。

「けど、なんでネズミが一番乗りになれたんだ? 牛のほうが先だったんだろ」

「うん。わたしが着いた時、牛は門を通るところだったから」

「それがね……」

 龍は、困ったように笑いました。

「ネズミ、実は牛の背中にこっそり乗ってたらしいんだ」

「ほんとかよ、せこいな」

「牛が門に着くギリギリのところで飛び降りて、門をくぐったんだって」

「なるほどねぇ」

「あいつ、牛までだましやがって……ッ!」

「落ち着きなよ、猫。怒る気持ちはわかるけど、仕返しはよくないよ」

 猫は牙をむき出しにして、毛や尻尾をぶわっと逆立てました。

 龍が、猫をやんわりと落ち着かせようとします。

 うーん、とイタチは首をかしげました。

「猪の気持ちはわかったけど、ネズミは猫と牛に悪いと思ってるのかなぁ」

「どうだろうね。直接聞いてみないとわからないかな」

「神様は猫を怒ったけど、『実はネズミに騙されたんです』って言えば、許してくれる気もする」

「よし、やっぱネズミをシメに行くか」

「やめなってば」

「じゃあ、このまま黙ってろっていうのかよ」

「そうじゃないけど。ネズミにも、ちゃんと話しに行ってみればいいと思うよ」

「えぇー」

 龍に勧められても、猫はまだ不満そうです。

 まあまあ、と龍は話を続けました。

「不安なら、ぼくも一緒に行くからさ。二匹きりで話すと、またネズミが嘘をついてしまうかもしれないからね」

「まあ、そういうことならいいぜ」

「ありがとう。イタチはどうする?」

「わたしも猪と話したいから、龍にも来て欲しいな」

「わかった。じゃあ、早速行こうか」

 ネズミと猪も、山にんでいます。

 二匹と一体は、彼らを捜しに山を歩き始めました。

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