十二支にはなれなくても
蒼樹里緒
壱
昔々、ある村に、いたずら好きのイタチが
ですが、今のイタチには、そうする元気がありませんでした。
「あーあ……」
冷たい冬の風が吹く中、村人の家の床下に寝転がったまま、しょんぼりとため息をつくばかりです。
「おーい、イタチ」
そこへ、仲良しの猫がやってきました。
「今日は畑に行かないのか?」
「そんな気分じゃないよ……十二支になれなかったし」
「あー、それな」
猫も床下にもぐって、イタチの隣に寝転がりました。
「神様のお触れを聞けなかったおれも悪いけどさ。ネズミの奴、なーにが『神様へごあいさつするのは、一月二日だよ』だ。大噓つき野郎め」
「それで神様に怒られちゃったんでしょ」
「ああ。あいつ、絶対許さねえ」
キッと目を吊り上げる猫を見て、イタチも残念そうに言います。
「わたしも、牛の次に神様のところに着いてたんだよ」
「おまえ、おれより足が速いから、一番乗りすると思ってたのに」
「わたしは十二支に入れるなら何番でもよかったから、ほかの動物たちに譲りたかったんだ」
「優しいねぇ」
「でも、十二番目になるギリギリのところで猪が……」
「あいつ、寝坊しやがったんだろ」
「そう。しかも、わたしに気がつかないで突き飛ばしたんだよ」
「ひでえな。よくケガしなかったもんだ」
「まあ、わたし、体やわらかいし。ほんと、ちょっとでも早く門を叩いてればよかったなぁ」
イタチが神様の門を叩こうとした時、後ろから猪がものすごい速さで走ってきました。その様子を思い出すと、イタチの背中の毛や尻尾がぞわわっと逆立ちます。
すべての始まりは、年が明ける前に神様が動物たちを呼んだ集会でした。
「おまえたち、私は『干支』というものを作ることにした」
方角や年を十二個に分けて一回りする期間にすると都合が良いだろう――と、神様は考えたのです。
「だが、実はその名前が決まっておらんのだ。そこで、年が明けた一月一日、私に
そして、動物たちが競争した結果、一年目の干支は『
「干支の特別な名前、欲しかったなぁ」
「だよなー、悔しいぜ」
「ねぇ、猫。きみはネズミに、わたしは猪に仕返しするってどう?」
「何?」
イタチの思いつきに、猫は吊り目をまるくしました。
「だって、お互いひどい目に遭ったんだしさ。神様に怒られない程度に、ぎゃふんと言わせようよ」
「そりゃいいな。けど、おれらだけでどこまでやれるかが問題だ」
「そうだよね。だから、龍に相談してみない?」
「龍か。確かに、十二支の中じゃ一番強そうだしな」
にんまりといたずらっぽく笑い合った二匹は、早速龍の棲む山へと向かいました。
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