第8話 塁の計画

 塁とサトリが一室で話している。


「へー。紅子が取調べ室にいた子に恋ね。しかも鬼女と繋がってるの?」

「ああ。しかも、傀儡と繋がってる子供もいる」


「傀儡に、鬼女か……」

「しかもタカ派、ハト派、両方あいつらを狙っているみたいだ」


「5年前と同じことが起きるってこと? 懲りないよね。僕はサトリの味方だよ」

「塁……」


「その傀儡と、鬼女。先に手に入れておく必要があるね」

「かなり二人とも人に肩入れしてるみたいだから、難しいな。特に糸を繋げてる人間に対して」


「じゃあ、その子供達ごとさらってしまえばいいんじゃない? サトリの心を読む力で弱みを握ればいい。その子供達に聞かれたくない過去なんていくらだってあるでしょ?」


 サトリが塁の言葉を聞き、にやりと笑う。


「……本当に見込んだだけあるよ塁」


 塁がニッコリ笑顔を向ける。


「ありがとう。サトリ」



ーーー


 トラ子が一人で店番をしている。この時間は、ガマ吉が円と一緒に買い出しに行きたがるのでいつも一人だ。


 氷央も非番の紅子と買い物に行った。氷央なりに紅子を元気づけようという考えのようだ。


 しかし、トラ子の店番は慣れたもの。少し訪れる客と世間話をしては、商品を貸し出していく。


 客足もひいたので店先の椅子に座っていると、数人の若者がトラ子に声をかける。


「お嬢さん。僕達、大学生で商店の経営について調べてるんだ。ちょっと、貸本業について知りたくて、そこのカフェで話を聞かせて欲しいんだけど」


 これは……、ナンパだか!? オラが可愛いばっかりに!と、トラ子は思う。


「せっかくだけど、店番中だから行けないだよ」


 オラはそんなに尻軽ではないだよ! と思いトラ子は断る。


 一人の青年が更にトラ子にもちかける。


「僕ら、真珠男子の考察も行なっているんだ。どうして、あんなにヒットしたのかっていう。ここの貸本屋の子が好きだって聞いて。その話しも聞きたいんだ」

「真珠男子ッ!」


 トラ子の目が輝く。真珠男子の話なら、いくらだってしたい! しかし、トラ子は責任感が強い。それに真珠男子の話なら、今や氷央ともいくらだってできる。


「せっかくだけど、やっぱり店番中だし……。ここで話聞けないだか? 幸いお客さんも、あんまりこないし」


 トラ子が笑顔で答えるが、青年達の顔が一気に曇る。


 顔を青くした青年が、トラ子を店から連れ出そうと、更に提案する。


「何か美味しいものでも食べさせてあげるから」


 トラ子も、青年達の様子に一気に警戒心が増す。円の家でのんびり過ごしていても、トラ子の、その感覚は衰えてない。


「いや、いいだよ……。円先生に、知らない人についていっちゃいけないって言われてるだよ」


 青年達が、そわそわと、相談を始める。


 すると、突然、青年の一人がトラ子の腕を強引に掴む。そして座っているトラ子を椅子から引き剥がすように、強く引く。


 トラ子は驚き、大きな声を出して叫ぶ。


「ギャーーッ!!!」


 その声に青年達も驚きトラ子の手を離す。


 トラ子は青年達から逃げる。


 走っていくと、買った物を入れた風呂敷を下げてのんびり歩いてる円と、その肩に乗るガマ吉を見つける。


 トラ子が円に、勢いよく抱きつく。

「円先生!」


 トラ子がぶつかるように抱きついてきたので、円は当然に驚く。


「どうしたの!? トラ子ちゃん!」


 トラ子が後方の青年達を指差す。

「なんか、あのお兄ちゃん達にナンパ!? されただ! オラが可愛いばっかりに!」


 青年達の肩を、強く誰かが掴む。青年達が振り向くと背後には、やたら顔立ちの整った男。人の姿のガマ吉だ。


「ウチの子に何か?」

「あ、いえ……」


 ガマ吉が青年達を蔑むように見下ろす。

「ブチのめすぞ」


 青年達はガマ吉の気迫に後退って、ガマ吉から逃げるように去っていく。


 トラ子は胸をなでおろす。そして、ガマ吉に駆けより、人の姿のガマ吉にギュッと抱きつく。


 自分の腰の辺りに抱きつく小さなトラ子の頭をガマ吉がなでる。


「もう大丈夫だ。トラ子」


 トラ子は抱きついたまま、ガマ吉を見上げる。


「超、カッコイイだよ! ガマ吉!」


 円も二人の方に歩いていく。そして、青年達が去っていた方を見つめる。


「それにしても、何だろう? ナンパ? なの?」



ーーー


 労働の会の会館の一室。青年数人と、塁、サトリが会議のようなものを行っている。


「そう。女の子は警戒心が強くてダメだったか」

「ある程度、下調べをして一人の時を見計らったのですが。少し甘かったようです。申し訳ありません」

 

「君たちの仕事ぶりは良く分かっているよ。大丈夫。他の手を考えよう」


 青年が涙ぐむ。

「吉川さん」


「それで、男の子の方だけど」

「それが……」


 部屋のドアが開く。そこにいるのは静だ。青年達に拘束され、両手は縄で縛られている。


「労働の会の会員でした」


 塁が吹き出す。


 そして静に、笑いながら話しかける。


「君はバカなの? 僕達が捜査対象になっているの知ってるんだよね」


 静は塁に笑われてしまったので、言い訳をするように答える。


「いや! もともと、あなたの考えに感銘を受けるところかあって! もともと会員で……」


 静の心を読んだのか、サトリが静の代わりに、すべて話してしまう。


「労働の会と距離を置いていたものの、お前の妹の力になればと思ったみたいだ。集会があることを知って軽い気持ちで参加した」


 自分がこの場にいる理由をすべてサトリが話してしまったので、静は焦る。


「うわ……。また心読んだの!? この人!!!」


 静の反応に塁が、また笑い出す。


「やっぱり、バカなんだね」

「いや、だってこんなにピンポイントで、俺が狙われていると思わなくて!」

 

 笑顔で塁が静に問いかける。


「君、家族構成は?」


 何故そんなことを聞くのかと、戸惑うものの、塁の質問に静は答える。


「……。両親と、年の離れた兄が一人」

「そうか……。君は似ているんだ。あの時までの紅子に。しっかりしているようで、恵まれた家庭環境からか、何処か甘えたところがあって」


 微笑んだ後に、塁が乱暴に静の頭を、髪ごとむしるように掴む。


「僕はね、紅子の大切にしているものを壊すのが趣味なんだ」


 さすがに静も、塁を睨みつける。

 

「痛いんすけど」

「君をボコボコにした姿を見たら、紅子もさすがにまいるかな」


 塁がニッコリ笑う。


「サトリも紅子を食べることができるし、一石二鳥だね」





 



 

 

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