第7話 消えた光、新たな光

 後から、両親から詳しく説明してもらった。


 なかなか子供が出来なかった両親は養子をとったのだと。


 その後に私を授かったのだと。


 だけど、私の目には両親は間違いなく、兄を我が子のように可愛がっているように見えた。


 両親は兄を邏卒に届け出た。


 こうの遺体とともに。


 しかし、光は病死とされた。


 藁人形で呪ったとしても、人は殺せない。それと一緒で兄は不能犯だ。起訴さえされなかった。


ーーー


 息を飲んで、トラ子たちが、紅子の話を聞く。


 紅子が続ける。

 

「私には、一つ望みがあったんだ。兄は妖怪のせいで、ああなってしまったのではないかと。優しかった兄が豹変するのは、あまりに考えられなかった。そして、私は傀儡という妖怪の存在を知った」


 トラ子が納得したように、紅子に問いかける。


「だから、ガマ吉に、あんなに厳しかっただか」

「……すまない」


 トラ子が涙目で首を横にふる。




 紅子がガマ吉に問いかける。



「出会った傀儡は、あいつとは姿が違った。でも、傀儡といれば何か、手掛かりがあるんじゃないかと。お前たちの存在を幹部に届け出なかったのは、お前達のためじゃないんだ。自分のためだ」


 また、トラ子が大きく首をふる。ガマ吉も同じく。


 そしてガマ吉は紅子に伝える。



「サトリか。サトリに、残念ながら人を操る力はないな」

「知っているのか?」

「ああ……。あいつとも5年前、一緒だったから。氷央も知ってる」


 氷央が頷く。


「サトリはやっかいよ。私と傀儡は人と暮らして生きてきたけど、サトリは基本的に一人。価値観がまったく別次元。感情すら、あるんだか、ないんだか」

「そうか……、そんな奴と兄さんは一緒に」




 トラ子が紅子の手を、突然ギュッと握る。




「紅子、あの時と今は、違うだよ。全然違うだよ!!!」


 紅子がトラ子の言葉にキョトンとする。


「紅子はもう、あの時の子供じゃないだよ。解決するために、そこまで努力して強くなっただよ?」


 トラ子が肩にのるガマ吉と目を合わせる。すると、ガマ吉が頷く。


「それに……、自分でいうのもなんたけど! 今の紅子にはオラと、ガマ吉がいるだよ! あの時とは、何もかも違うだよ!」




 紅子にそう言うと、トラ子の目からボロボロと涙が流れ落ちる。


 その涙をトラ子は乱暴に手で拭うが、次から次へと溢れ出て追いつかない。



 そんなトラ子が涙を流したまま、紅子に、ニカッと笑顔を向ける。



「勇敢なこうちゃんは、紅子にそっくりな、弟さんだよ」





 唐突に、自分でも意識していないのに、紅子の目から一筋の涙が流れる。





 あの時以来、一度も流したことのない涙。




 涙を流すことさえ、許されないと思った。



 光は涙さえ流すことができなかったのだから。



 自分のために命を落とした光。あの時、ああだったら、こうだったら、後悔ばかりが募る。


 自分は心の奥底で自分が可愛かったのではないか。光は真っ先に自分を助けてくれた。自分のせいで、光は……。



 紅子の目から次、次に涙が溢れ落ちる。



 紅子の肩に円が手を置く。


「頼りないけど、私もいるしね」


 氷央も声をかける。


「嫌いだけど、私もいるし。力になってあげてもいいわよ。嫌いだけどね!」


 紅子が二人の顔を見る。円も氷央も涙目だ。

 そんな姿を見て、また紅子の目から涙が溢れ出る。


 トラ子が泣きながら、笑いながら円と氷央に文句を言う。


「もう、二人とも泣かせすぎだよ」


 自分も何か言わなくちゃ!と焦ったのか、静もボソリと言葉をかける。


「そんな……ことが……。隊長のこと、ちょっと妖怪に対してヒステリックすぎるかな。ヤバい人なのかなと、思っててすみません」



 全員、言葉に詰まる。そして、みんなで静をポカポカと殴る。



 そして、円が強く、静の頭をはたく。


「静!? そんなに空気が読めないの!? 兄ちゃんビックリだよ!?」

「イデッ」

「ちょっと! 紅ちゃんに謝って!!!」


 紅子が円を止める。

「いや、まあ、この空気の読めなさで、救われたところも大きいから……。アホで救われたっていうか」


 静が紅子のその言葉に、心底ホッとする。


「いやー! 今、俺も完全にマズったと思って! よかったっす!」


 また、全員で静をポカポカ殴る。


 そんな姿を見て、辛いのに、涙は止まらないのに、何だか可笑しくて、少し笑ってしまう。



「ありがとう」


 涙声でなんとか、その言葉を伝えると、うつむいて、紅子は泣き続ける。


 その肩をトラ子と、円が優しくさする。

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