第6話 愛に生きる男!

 ふらつきながらも、静はなんとか、円の家に、たどりつく。

 もう頼れるのは、あの二人しかいない。不思議な力を持つ、トラ子とガマ吉しかいない。


 円、トラ子が、店の本を読んでいる。ガマ吉も、円の頭の上にのり一緒に本を覗き込んでいる。


 トラ子が、静に気付く。


「あ! 静! 久しぶりだよ! カレーの残りあるけど、食べるだか?」


 トラ子の声に、円も静に気付く。


「食べていきなよ。美味しいよ? 我が家は、カレーに凝っていてね。カレー粉をちゃんと炒めるのがコツ」


 「ねー」っと、静以外の三人で首を傾げる。静から反応がない。


「静? どうしただ?」


 静かが、なんとか言葉を発する。

「どうりで、この家カレーくさいと思った……」


 それどころではないのに、つい、静も間の抜けた雰囲気に飲まれてしまう。


 円と、トラ子が慌てる。

「うそ!」


 二人で自分達や、周りの匂いをかぐ。

「自分だと、全然分からないだよ」


 あはははっと、また三人で笑う。

 

 静はまた何とか、話す。

「温度差がすごいんだけど……」


 静が家の柱にもたれつつ、ズルズルと倒れていく。

 静の様子にようやく円が慌てる。駆けつけて、静を抱きかかえる。

「静ッ!?」


 トラ子、ガマ吉が静の指先に気付く。

「静……指先に糸が……。 え!? もしかして! 静の最近できた彼女って!?」

 ガマ吉が口を挟む。

「氷央ッ!?」


 静が頷く。

「みんな、氷央ちゃんのこと知ってるの? 話しが早くて助かる」


 円、トラ子、ガマ吉が同時に叫ぶ。

「えーーーーーッ!!!!」


 円が静を強く抱きしめる。

「静ッ! 可哀相に! あの女ーーーッ!!! 私の静に!!! 何これ? 他の子は、まあいっか!ってした天罰なの!?」

「兄ちゃん……、それどころじゃないんだ。氷央ちゃんが……」


 円の目が涙で滲む。

「小さい頃の静は、本当に本当に可愛くてね。兄ちゃん、兄ちゃんって私の側を離れなくて。いつも、私の真似ばかりして。私が学校に行くときなんて、泣き出してしまうことがあってね……」


 悲壮感溢れる円。それより、静が何か話したがっていることが、トラ子とガマ吉は気になる。

「先生、まだ死んでないだよ」

「なんやかんやブラコンだからな」

「静かが、何か伝えたがってるだよ」


 静が頷く。

「兄ちゃん、氷央ちゃんは悪くないんだ。氷央ちゃんのこと知ってて糸を繋いだんだ」

「え! バカなの?」

 静がうっすら笑う。

「隊長にも同じこと言われた。それで氷央ちゃんが大変なんだ。ここままじゃ、氷央ちゃんが」

「どうしただ?」

「邏卒で東京に包囲網をかけて、氷央ちゃんを射殺する命令が」


 円が驚く。

「それは、また大掛かりな」

「最近、妖怪が原因だと思われる遺体が見つかってて、上が氷央ちゃんと関係があるって判断して……。でも、そんなの氷央ちゃんじゃないんだ」


 円が、自分の頭の上にのるガマ吉に尋ねる。

「どう思う? ガマ吉くん」

「うーん。正直、氷央じゃないとも言い切れない。あいつも生きてくのに必死だろうから……」

 静が大きく首をふる。

「氷央ちゃんじゃない。氷央ちゃんは、とっても優しいんだ。人にそんなことをする子じゃない」


 トラ子が静に疑問を持つ。

「何で、静はそんなに、鬼のお姉さんの肩を持つだよ? ひよ子の刷り込みのようなものかもしれないだ。何でそんなに好きになっただよ?」


 トラ子の子供らしからぬ発言に、静は少し戸惑う。

「……トラ子ちゃん……君は13歳の子供だよね?」

 円が説明する。

「トラ子ちゃんの愛読書は『真珠男子』だから」

「……何? それ? 子供が読んでいいやつ???」


 トラ子は真珠男子を知らない静に驚きを隠せない。

「静ッ! 知らないだか? 真珠男子を!? 性描写なしに、真実の愛は表現できないだよ!!! 真の文学とは言えないだよ!!!」

「うん……。完全な耳年増だね……。取り上げてもらおうか……」

「そんなことより、なんでだよ?」




 静は少し自分の心を整理するように考え出す。




 すると、氷央への想いが自然と、言葉になっていく。




「何でって、すごく可愛いのはもちろんだけど……。鬼女なこと隠さなきゃいけないはずなのに、とっさに怪力で守ってくれたりする優しい子で。そんな風にする子が、人を死なすなんて思えなくて……それに……」




 円、トラ子、ガマ吉が静の言葉を息を飲んで聞く。




「それに……、寂しそうだったから……。あんなに寂しそうな顔をする人を見たことがないんだ……。たくさんもらったから、氷央ちゃんに今度は俺が、何かしてあげたい。妖怪だって、何だっていいんだ。そんなこと、俺にとっては、もう小さなことで。そこにいるのは氷央ちゃんに違いないから……。もう、理屈じゃなくて」




 円、トラ子、ガマ吉が顔を赤くし、三人で声を揃えて関心する。

「おや、まあ……」




 体調の悪い静も、つられて顔が赤くなる。

「ちょっと! めちゃくちゃ恥ずかしいんだけどッ!」


 円が静を抱え起こす。

「静! 男が一度惚れた女の手を離すんじゃない!」

「兄ちゃん……、さっきと言ってることが……」


「真珠男子、第3巻! 主人公の真珠男子こと義男に対する旦那様のセリフだよ!」

「兄ちゃんも、読んてるんだ……」


「読んでない、静がおかしいよ!? 家も全巻揃ってるから、今度持っていって。大地缶詰先生の大ベストセラー小説だよ!」

「う…、うん?」


「兄ちゃん、静をそんなやわな男に育てた覚えないぞ!」

「兄ちゃんに育ててもらった覚えないけど…

…」

「しょっちゅう、人の家に来てご飯食べて、何を言っているんだ、静よ」


 静の話を聞いて、トラ子もガマ吉も俄然、やる気をだす。

「ガマ吉、鬼のお姉さんはどうなっちゃうだ?」

「氷央が本気を出せば、東京中の邏卒を全員動員しても、上手く逃げ切るんじゃないかって気も」

 静がガマ吉に情報を伝える。

「囲いこんで一斉に砲撃するつもりで! こっちにくるまでに、作戦資料をなんとか見つけて読み込んできた!」

「……。確かに、そこまでの作戦となると、さすがの氷央も危ないか……。というか、繋がってるやつらも……危ないッ!!!」


 さすがの円も深刻な表情になる、

「そ、そういうことになるね……。例の窮地ってこと!?」

「た、大変だよ……」

「そうなる前に、一気に畳み掛けるつもりみたいで……」

「静、場所は分かるだか?」

 静が頷く。

「さすがに、持ち出しは出来なかったけど、全部、頭に叩き込んできた!」

「何気に仕事が出来るだよ!」


 ふらつきながら、円に支えられながらも、静が立ち上がる。

「そう! やれば出来る子! それが俺! 愛に生きる男、それが俺!」


 そんな静の発言に、みんな笑顔になる。

「バカっぽいだよーー!!! いつもの静に戻っただよーーー!」

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