19 現代、また探す


「ある日突然、未来が見えて本当に怖かった。

みんないなくなって、この場所も破壊しつくされて……」


花火が打ち上がっては、火の粉を散らしていく。

流れ星のように輝いては消える。

爆発音が響き、体に伝わる振動が気持ちいい。


ここは本当にいい場所だ。

他に人はいないし、落ちついて花火が見られる。

この場所以外にも、大切なものが失ってしまう未来と恐怖は幼い彼女に重すぎた。


「その中に、希望の光が見えた。

楽器を弾いているあなたがいて、一緒に楽しく過ごしている未来があって、どうしたらそこにたどり着けるんだろうって。みんなに相談したの」


不確定の未来をどうしたら、繋げられるのか。

言い出したのは誰かは覚えていないが、実にシンプルな答えが返ってきた。


点となる俺を動かして、線を無理矢理結べばいい。

1日だけでもそこにいれば、確実なものとなる。


あそこにいた人たちなら、誰が言ってもおかしくないことは確かだ。

そんな突拍子もないことを平気でしてしまうような人たちばかりだった。

実現してみせたんだから、本当にすごい。


「事前に話そうかとも思ったのだけれど……未来が変わるのが怖くて、やっぱり言えなかった」


俺の隣にいる老婦人の声は少しだけ震えていた。

話したとしても信じそうにないけどなあ、あのメンツだと。

オカルトのこととなると真っ先に否定する技術屋もいることだし、心配いらないと思うんだけどな。


「お帰りなさい。そして、ごめんなさい」


エリーゼさんはようやく顔を上げた。


「ただいま戻りました」


「何年かかったかしらね。ここまでたどり着くのに」


スマホを起動すると、日付と時間が元に戻っていた。電波もちゃんと届いている。

約束通り、元の時代に帰って来られた。


「なんだ、思ってたより元気みたいだな」


「よかったー! 急にいなくなったから、どこに行ったと思ったんだ!」


樹季たちが路地から姿を現した。


「過去から戻ってくるって聞いて、待ってたんだよ!

短かったけど、すごい旅だったんでしょ?」


光希が興奮した様子で俺に駆け寄る。

目の前から突然消えてどうなるかと思ったけど、あまり心配もいらなかったようだ。


「念のために聞くけど、お前も知らなかったんだよな?」


「そうですよ。こんなこと知るわけないじゃないですか」


「結局、ここに住んでいた3人以外は誰も知らなかったわけだな」


純はため息をついた。

自分たちだけ仲間外れにされたからか、不満が残っているようだ。


「そっちはどうだったんです?」


「お前がいなくなってもカインは余裕ぶっこいてたからなー……。

緊急会議を開いて、この事態を知った感じだ」


なるほど、何となく予想していた展開通りになったわけか。

人が消えて驚かないわけがない。ギスギスする空気も予想通りだった。


「ただ、カインの特性のことは樹季たちは知らない。

聞かれても黙ってろ、いいな?」


特性というと、不老不死のことか。

さすがに、すべてを話せたわけじゃないらしい。

隠すべきところは隠すか。


「よお、未来人。無事に帰って来られて何よりだ」


「どうも。過去ではお世話になりました」


姿かたちが永遠に変わらない、料理人が遅れてやって来た。

不老不死であることを分かっていても、変化がないことに驚いてしまう。


文句を言いながらも何年も付き合ったんだ。

本人も悪い気はしていないように見える。


「どうだった、時空を超えた日帰り旅行は。すごかっただろ?」


「アンタがそれを言うんですか。

確かに、一生の思い出になりましたけど」


いろんな意味で忘れられない旅になった。

今後、これを超えることはそうそうないだろう。


「そうだ。お金、返しますね」


茶封筒を引き換えに、メモを渡された。


「何ですか、これ」


「これか? まあ、お前の名前が書いてあるし読んどけば?」


これ以上ないほど、にやにや笑っている。

いつのまに用意していたんだ。

時間ならいくらでもあるし、何なら俺が寝ていた間に用意できるか。


「エリーゼの部屋にあるクローゼット、右の引き出しの下……?」


「それ、後で一緒に見てもらってもいいかしら?」


「別に構いませんけど、俺も見ていいんですか?」


「多分、貴方のことも書かれていると思うの」


手紙か何かを隠しておいたのだろうか。

あの人たちのことだから、そう簡単に終わらせない気がする。

何とも言えない不安を抱えながら、俺たちは帰路についた。


クローゼットの引き出しというと、一番下に備え付けられていたはずだ。

一緒に見てほしいと頼まれたものの、物色するのはあまりいい気はしないな。

貴重品など、中身をひとつずつ確認していく。


全てを取り出しても、それらしきものはない。

空になった引き出しを振ると、物音が聞こえた。


「あら! こんなの全然気づかなかった……誰がやったのかしら?」


強めに振ると、底の板が外れ、本が落ちてきた。

引き出しに板を敷いて、隠しスペースを仕込んでいたようだ。


変な声が漏れてしまったのは言うまでもない。

これは予想しろという方が無理がある。


「このクローゼット、エマが出て行くときに譲ってくれたのね。

服も丁寧に扱わないと女が廃るって、あの時は言っていたのだけれど」


彼女は本を拾い上げ、クローゼットを見上げた。

年季が入り、大切に使われてきているのが分かる。


「この本もそうね、誰にも触らせなかったのよ。

よっぽど楽しかったんでしょうね」


中を開くと、切手がずらっと並んでいた。

ルーイさんが倉庫で眺めていた本か。


「あの時は貴方と一緒に昼寝していたし、他に何も聞いていない。

子どもの頃の家具は捨ててしまったし……この感じだと、まだまだありそうね」


驚きを通り越して、絶句してしまった。

一体何が、あの人たちをそこまでさせているんだ?


「ほら、見て。また別の紙が出てきた。今度はベッドの下ですって」


本に挟まれていたメモ書きを見て、エリーゼさんは困ったように笑う。

この家はマトリョーシカか何かですか。

誰もここまでやれとは言ってないんですけど。


「今度はこっちが過去をたどるってことですか」


この旅をそう簡単に終わらせるつもりはないらしい。

まだまだ終わりそうにないのは確かだった。


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